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ラピスラズリの男の子
山尾悠子著「ラピスラズリ」の二次創作
首輪をしてた。黒いチョーカー。
細い首にぐるっと巻いて。
秋が焦げてた。広い庭で葉をくねらせて。
掃除係が燃やしてた。
寝ても覚めても笑ってた。気狂いの奥様は。
人形を抱えて部屋の奥、帳を張った寝台の中。
笑う笑う、秋が笑う。
焦げて焦がした僕の冬。得がたい眠りの底の話。
首輪をしてた、その友達は。
使用人の一人だった、六階の。
奉公しに小さい廃市から来た、そう言ってた。
そこでは女ばかりが生まれる、そう恐れてた。
花のような少女たち、揃いのメダイをつけた少女たち。
葬儀に出たら、彼女たちの喪服の匂いがして気持ち悪くなった、そう言ってた。
僕は君をかわいいと思った。ラピスラズリの目を持った男の子を。
チョーカーを巻いてた、逃走防止に。いつでも絞め殺せるように。
お粗末な脅しだった、でも彼には充分だった。
君は、弱み握られてたんだね。そのとき僕は知らなかった。
奉公なんて当たり前だった、その頃は。
君はずっと嫌がってた、でも諦めてた。
もういい何でもいいって、全部受け入れるつもりでいた、君は。
「館にゴーストが出るんですって」「いやね怖いわ」「ゴーストったら人を食うってのが定法でしょう」「じゃああの子を食ってもらいたいわねぜひとも、役立たずだもの」「そうね」「そうよ」
双子の使用人が言った、僕は嫌いだった。
君は諦めてたから、何言われても平気だった。ただ奥様のためにシーツを洗って、洗って、洗って、それだけしていた。
だって君、否定したけど、案外気に入っていたでしょう。この奉公を。
長い長い冬が来る。僕たちは怯える。奥様たちは眠りにつく。
館に脂肪の匂いが満ちる。僕たちは吐き気がする。
料理、皿、卵、サラダ、肉、皿、また皿、僕らの手はあか切れができる。
腹に醜い脂肪を溜め込んだ奥様たちは、ふかふかの暖かい寝台で眠る。
空腹で眠れない少女が一人、窓の外に目を向ける。そして出会う、ゴーストと。
長い長い冬が来る。冬の間は老いない館を、雪がしんしんと包み込む。白で、更なる白で、夏の汚れを雪いでしまう。
チョーカーつけたラピスラズリの少年は、シーツを洗わなくていいことにほっとしている。少年の手には汗の匂いが染み付いている。水に晒され続けて荒れた手を、悲しんでくれる人はいない。
少女はゴーストに出会い、君は僕に出会い、僕は君に出会い、ゴーストは少女に出会う。