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淡い恋なんてしない
グラムの002ちゃんの夢小説です。夢主は女の子です、そしてシャバパロです。
恋愛要素ほぼ無し、名前変換はありません。
「優乃ー、今度の日曜遊び行かない?」
「ん、行くー! その日は予定ない!」
「ほんと? 分かったー、ありがと! じゃあ他の子も誘っておくね!」
「うん、決まったら教えてー!」
高校の教室、日常という風景の一コマ。適度に崩した制服を着こなすクラスメイト達と、本を読むフリをしながら、そんな子達の会話を聞いている私。聞いたから何かあるわけでも無いのに、毎日の盗み聞きが止められない。
そんな行動に走っている理由は、ただ一つ。私はクラスメイトの優乃ちゃんが、恋愛的な意味で好きだから。
いつも女子グループの中心に居る優乃ちゃん。あの子の会話を聞くために、私は今日も静かに耳を立てる。話しかけるなんておこがましい事はできないから、今日もこんなちっぽけな行動だけ。でも、今のところはそれで満足している。優乃ちゃんの優しく明るい声を聞くのは、本当に楽しいから。
あの声を、隣で聞けたらとも時々思うけど、でも別に良い。私みたいな陰キャ女子がそんな高望み、していいわけが無いから。だから、じっとこらえる。本心のわがままを押し殺して、じっと。
優乃ちゃんの笑顔と声が、明日も味わえるなら、距離は大した問題では無いのだ。
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毎日、優乃ちゃんの会話を盗み聞きするのが、ほぼ学校でのルーティン化した頃。私は休日に、普段しない外出をしていた。親に買い物を頼まれたのと、そのついでに書店で本を買うためだった。
「うわぁ……、やっぱ人多いわ……。人口密度えげつね……」
外の人混みは、窮屈でうんざりする。ただでさえこんなにキツイのに、平日の満員電車とかは、ここよりももっと密度が高くて、サラリーマンとかは毎日そんな地獄に送り込まれているらしい。変な想像をして、変な絶望と恐怖感に包まれてしまう。私だったら、絶対そんな朝を過ごしたくない。人混みは嫌いだ。
「はぁ……」
とっとと買い物を済ませて、早く帰ろうとした。しかし、その時だった。
「あははっ、そうですよねー!」
「……え? あれって」
見覚えのある可愛い顔立ち。心なしか、少し高めに設定されている声色。いつもよりも念入りにセットアップしたであろう、髪型と服装。全部が学校で見る時より若干違っていたが、私は一瞬で、その子に気付いた。
「あ……。優乃ちゃん……!」
そこには、私の大好きな優乃ちゃんが居た。学校でもあんなに可愛いのに、プライベートでは髪型も服装も、より一層可愛くなっていた。思わず、その立ち姿に見惚れてしまう。
優乃ちゃんが、すごく可愛い。
「ほんと、可愛いなぁ……。ん、隣に居る人、誰だ?」
私が優乃ちゃんに対して、うっとりしていたのも束の間。私の目には、優乃ちゃんの隣に居る誰かの姿が見えた。まだはっきりとは分からないが、とりあえず優乃ちゃんの会話から察するに、仲が良い人なんだろう。でも、あの優乃ちゃんが敬語だ。年上の人なんだろうか。
「誰なんだろ……」
バレない程度に、混雑をかき分けながら、優乃ちゃん達の方へと近付く。段々と、声がはっきりと聞こえるのが分かっていった。
「え? 優乃ちゃん、優乃ちゃん?」
しかし、この時に人混みに敗北してしまえば、良かったのかもしれない。あんな事、知らなければ良かった。
彼女の隣に居たのは、見覚えの無い男だった。しかも、凄くチャラそうな雰囲気だ。こんな状況を見るだけでも、私の脳は理解を拒み、誰にも聞こえない断末魔を上げていた。
それなのに、情報はさらに畳み掛けてくる。
「そうだ、次はどこに行く? 《《ゆうこ》》ちゃんが好きな所、行こうか」
聞き覚えのない名前を、男は言い出す。もちろん私は、言い間違いを疑った。だってあの子の名前は樫木優乃だ。ゆうこじゃない。そんなの知らない名前だった。
「うーん、次はあそこ行きたいかも!」
しかし、優乃ちゃんはそれを指摘もしない。ゆうこと呼ばれるのが当たり前みたいに、いつも教室で振り撒く時と、同じ笑顔で会話を続けている。
「え?」
私はとにかく混乱した。もう何がなんだか分からなくて、都会を歩く優乃ちゃんと男を、ただ見つめていた。絶望しきった、周りから見たら濁っていたであろう、そんな目で。
「優乃、ちゃん」
ショックで、足が動かない。どうすれば良いのか分からない。周りの人達は、自由自在に動いているのに、私だけが、一人で勝手に悲観して、その場に立ちすくんでいた。
その間にも、二人は進んでいく。ずっと目で追いかけていても、距離という物には限界がある。気付けば二人は、私の視界から消えていった。どこか遠くまで、歩いていった。
「あ……」
ずっと、大好きだった。急に話しかけるとかはできなくて、ずっと見ていた。
いつかの時、落とした本を拾ってくれた時に、すごく嬉しかったのも覚えている。去年の文化祭の時も一緒にお化け屋敷をやって、その時に優乃ちゃんが優しくしてくれたのも、覚えている。
可愛くて、優しくて、明るくて、いっつも笑顔な優乃ちゃん。大好きだった。さっきの優乃ちゃんも、それらの要素自体は、失っていないはずなのに。なんなら、いつもの制服よりもずっとお洒落な服装と髪型で、本当ならもっと彼女の事を、好きになれるはずなのに。
胸が苦しくて、疑問がいっぱい浮かんできた。ゆうこって誰、あの男も誰、どうして行く場所を決める時にブランド店を指差したの。そんな所に行けるの。いっぱい浮いて、いっぱい消える。
優乃ちゃん、大好きな優乃ちゃん。大好きだったはずの、優乃ちゃん。今日から変わっちゃった、優乃ちゃん。
「うっ……!」
私の足は、その瞬間から動き出した。優乃ちゃん達とは真反対な方向に、ただ走った。粒の涙を流しながら、人混みを進む。さっきまでうざったいと感じていた人々の声は、もう耳に入ってくる事は無かった。
泣きながら、こう思う。あんな遠くて淡い恋なんて、もうしない。淡い恋なんて聞こえが良いだけで、実際はただの報われない感情だ。そんなものを抱えていたって、どうにもならない。やっと分かった。この私は、綺麗で儚い物語の主人公じゃないのだ。だから、淡い恋なんてもう、二度としない。悪夢を見てしまうだけなのだから。
「……変なとこ来た」
人混みを越えて、少し開けた場所に来た。私が行きたかった書店とは反対方向だが、何も考えられない今となっては、そんなのどうでもいい。ただ、どこかでこの絶望を取っ払いたいだけだ。
「ほんと、馬鹿みたいな事しちゃったよ。今更、気付いた」
大好きだった、優乃ちゃん。あの子への恋に、期待なんてしていないはずだった。だけど、いつの間にかちょっとだけ、チャンスがあるんじゃないかと、勘違いしていたみたいだ。掴めないチャンスなんて、ただの幻でしか無いのに。
「馬鹿みたい、だよ……」
恋心が、割れる音が鳴り響いた。大好きだった優乃ちゃんの記憶が、順番に消えていくような感覚がした。
もうこんな、淡い恋なんてしないよ。優乃ちゃん、教えてくれてありがとう。
相手と関わりが無いけど夢主の方から片思いしてて、アプローチができない故に、最後に残酷な結果が出てきて絶望するっていう、私の中で定番の流れです。少し油断するとなぜか毎回こんなストーリーになっちゃう。なんなんでしょうね、これが私の癖なんですかね。
純愛を書きたい気持ちもあるので、今度から改めようと思います。夢主が絶望してるだけの小説、個人的には好きなんですがね……。なんというか、主人公のわがままな独りよがり感が大きすぎて、書いてても読んでてもちょっと辛い。これから改善しようと思います。頑張ります。