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夏廻り
一人でひっそりと楽しむ夏祭りだって、悪くない。
そう固く思いながら、一歩一歩を踏み出していった。赤紫の夕日が広がる。
夏本番に差し掛かった8月の上旬。7月の下旬から今ぐらいは、夏祭りの季節。近所でも、毎年恒例の夏祭りが行われている。
騒音迷惑とか気にしない、というか、吹き飛ばすぐらいの賑やかさをかき分けて、歩く。薄暗闇にぼんやりと光る提灯と、真ん中に少しちっぽけなやぐら。その上には、時々バチをくるりと回し、歓迎をもらう演奏者。小学校…高学年だろうか。無邪気さが詰まってあるような音が、敷地内に響く。
周りには、人、人、人。暑苦しい、売り物はやけに高いし、並ぶし。コンディションとしては最悪なはずなのに、誰一人、その笑顔を崩さないでいる。
ふと、眼の前で悲鳴が上がった。
ジージーと、嫌な音が鳴る。蝉だろうか。近くにいた人々は、きれいな円を書くように避け、足元から、バタバタと騒ぐ蝉が見えた。油蝉だろう。少しずつ子供達が寄っていく。きれいな円は崩れ、子供達はキャッキャと蝉を蹴り始めた。まったく、物騒なもんだなぁと溜め息を一つ。騒がしくなった溜まりをよそに、再び歩き始める。
金は持ってきた。1300円。それなりに楽しむつもりだった。人が多いのは、予想外だった。コロナの中で、中々出来なかったのが影響されているのか、押しつぶされそうな位の人だかりだ。もうそこら辺の子供押しのけて、ヨーヨー釣りでもしてやろうか。いや、もちろん本気ではないけれど。
結局、かき氷の列に並んだ。かき氷食わないと、夏祭りなんて微塵も感じない。夏を感じるための、最終手段なのだこれは。
長い列を並び、受付の婆さんの姿が見えた。
「お味は、どれにいたしましょうか。イチゴ、メロン、グレープにレモン、ブルーハワイ。さぁ、どれかね」
と、婆さんはいそいそとこちらに聞いた。気に食わなかった。
グレープで、とボソリというと100円頂戴いたします、と手を出されたので、そこに100玉を乗っけた。元々用意されていたのか、横を向くと既にかき氷が置いてあった。手に取り、空いている場所を探す。探しながら、メロンの方が良かったのかしら、と後悔した。
隅っこのブランコに座り、ブラブラと足を自由にしながら、かき氷に口をつけた。
薄々とグレープの味がするが、やっぱり最後には水の味だ。味気ない。こんなのが、夏祭りを代表するもんだったかしら。腹に削り氷を全てかき込み、頭がガンガンするのを抑える。あぁ、金を無駄にした、と、安い100円を虚しく思った。
少しブランコを漕いでいると、キーン、と甲高い音が鳴った。こだまする甲高い音に耳を抑えていると、今度は女性のアナウンスが鳴った。
「え、えー、アイス、アイスを配っております。やぐらの横、金魚すくいの横にあります、子供のみなさんももちろん、大人のみなさんも、どうぞ。ですが、どうか子供優先でよろしくおねがいします。金魚すくいの、横にあります」
そしてまた、同じ言葉が繰り返される。かき氷よりかはマシだろうと思い、いってみることにした。
周りに子供ばかりなのは、想定内だ。なんだ、大人が駄目だなんて言われてないじゃないか。歓迎されてたじゃないか。
がむしゃらに取ったのは、メロンソーダのアイスであった。袋を破り、慌ててアイスを頬張ると、濃いシロップの味がする。味はなんとも言えないが、まだ味がある。美味しかった。アイスを頬張りながら、では、盆踊りを再開します、とまたアナウンスの声が聞こえる。同時に、酒に酔っ払った大人共がぞろぞろとやぐらへ集まっていった。いい大人がふらふらになって踊る姿は、正直言うとなんともみっともないが、夏祭りというこの行事が、それを覆い隠していた。なにか食べようかとあたりを見回しても、どこも行列だった。アイスの棒を噛んで、明日でいいか、だなんて思う。
青春、までとは言えないが、いい思い出は作れたのではないだろうか。
時刻、8時5分。財布の中の1200円が、こちらを覗いていた。
どうも。しちお。です
みなさんのところでは、夏祭りは行われたのでしょうか。私の近所では四年ぶり、ちっぽけな夏祭りが開催されました。敷地は狭いくせに、宣伝カーが公園周りを走り回り、お陰で人がぎゅうぎゅう詰め。一緒に来てくれた友達と、暑いねぇなんて言いながらフランクフルトを食べました。