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真也が魔王に「お前の能力はなんだ?」と問いかけられた
そんな二人の様子を見て、周りの従者たちは驚愕した。しかし、その驚きは尊敬や憧れといった類のものであり、真也に対する嫉妬や妬みの感情は一切なかった。むしろ、魔王が真也に心を開いていることに喜びを感じている者すらいた。
その証拠に、真也が魔王と二人で食事をすることを知った時、従者たちの顔には安堵の色が浮かんでいた。そして、その日の夜、魔王が真也を自室に招いて二人きりで食事をするという話になった時には、歓喜の声が上がった。
そして現在、真也は魔王と共にテーブルにつき、料理を口に運んでいる。
メニューは白米、味噌汁、焼き魚、卵焼き、漬物だ。
どれも真也の口に合い、美味しくいただいているが、真也は昨日から疑問に思っていることがあった。
それは……
なぜ魔王はこんなにも自分に優しくしてくれるのか? ということである。
魔王は真也に様々なものを与えてくれた。衣食住はもちろんのこと、知識や娯楽まで幅広い。魔王曰く、真也の世界の文化や生活水準は高いらしく、それらの品々は真也にとって新鮮かつ興味深いものだった。
さらに、魔王は時折、真也を外に連れ出した。最初は城の敷地内だけだったが、徐々に行動範囲を広げ、城下町にまで足を運んだこともある。その時の真也は、まるで子供のように目を輝かせていた。
そして、今や真也は魔王城の中で自由に動き回ることができるようになっていた。
これは魔王が許可したからではなく、真也が自分でお願いしたからだ。魔王は最初こそ渋っていたが、真也の熱意に負け、条件付きではあるが了承した。
その条件とは、必ず誰かと一緒であること。一人で出歩かないこと。
この二つだった。真也はこの約束を守り、今もこの城にいる。
「どうした? 真也よ」
真也が考え込んでいるのを見て、魔王が心配そうに声をかけてくる。
「あ、いえ! なんでもないです」
「そうか? 何かあれば遠慮せずに言うのだぞ?」
「はい、ありがとうございます」
真也は魔王に感謝しながらも、思考を続ける。
魔王は優しい。しかし、優しすぎるのだ。
先日の、木綿の話を思い出す。彼女は、魔王の優しさは偽物であると言っていた。
真也は魔王の笑顔を見ながら思う。魔王のこの優しさは本物なのか?それとも……
「ん?どうした? 真也よ」
「あ、いえ、なんでもないです」
真也は再び考えるのをやめた。
朝食を終え、しばらくすると魔王は仕事があると言い、真也の元から離れていった。一人残された真也はすることもないため、あてもなく城内を彷徨っていた。
「あれは……モネさんか」
真也は廊下の曲がり角から見えた姿に、声をかける。
「モネさん」
「あら、真也様」
そこにはモネがいた。モネは真也に気づくと、駆け足で近づいてくる。
「あの、どうしてここに?」
「真也様にお会いするために」
「僕にですか?」
「はい」
真也は首を傾げる。真也に会いに来たというのであれば、魔王との食事の時に一緒にいればよかったのにと思った。わざわざここまで来る必要はなかったはずだ。
真也が不思議に思っていると、モネはクスリと微笑んだ。
「真也様は鈍いですね」
「へ?」
「私は真也様と一緒に居たかったから、ここに来たんですよ?」
「そ、そうですか……」
真也は恥ずかしくなり、頬を掻く。
「それよりも、真也様」
「はい」
「魔王様のお部屋にご案内します」
「え? 魔王様の部屋ですか?」
「はい。魔王様が真也様をお呼びになっています」
真也は驚く。まさか自分が来ることを魔王が予想していたとは思わなかった。
「あ、でも、僕まだ準備とかできてないですよ」
「大丈夫です。全てこちらで用意しておりますので」
「はぁ……」
真也は気の抜けた返事をする。しかし、魔王が呼んでいるとなれば断るわけにもいかない。
「わかりました。行きましょう」
「はい」
真也はモネについていくことにした。
魔王の私室に入ると、そこにはすでに魔王の姿があった。
「来たか、真也よ」
「はい。お待たせしました」
「気にするでない。さて、早速だが本題に入ろう」
魔王はソファに腰掛けると、向かい側の席を指差す。
「そこに座るがいい」
「失礼します」
「うむ」
魔王は満足そうに笑うと、話し始めた。
「さて、今日はお前にやってもらいたいことがある」
「何でしょうか?」
「まずは魔法だな」
「まほう?」
「ああ。真也よ、お前の能力はなんだ?」
「ピカソの力を使うこと、ですかね?」
「そうだ。その能力、我はあまり理解していないのだ。だから、お前の能力を調べさせてくれ」
「ええ!?」
魔王の申し出に真也は驚いた。自分の能力を知ろうとする人間など初めて見たからだ。
「嫌か?」
「嫌ではないんですけど……その……どうやって調べるんですか?」
「お前の体に直接触れればわかる。我の異能ならばな」
「なるほど……」
真也は少し考える。正直、自分の能力がどういうものなのか興味はある。しかし、未知の力を他人に触れられるというのは不安がある。
真也が悩んでいると、魔王は言葉を続けた。
「安心しろ。我も他人の力を見るのは初めてなのだ。だから上手くできる保証はない」
「……わかりました」
「よし。では、行くぞ」
魔王は立ち上がり、真也に近づくと手を差し出す。
「手を取れ。我の目を見ろ。そして、心の中で『我に見せよ』と唱えるが良い」
「はい……」
魔王は真剣な表情をしている。その様子に真也は緊張しながら言われた通りに行動する。
数秒後、魔王が目を開くと、その瞳が黄金色に輝き始めた。
「……っ!」
「……ふむ。やはり、真也の力は『強化型』か」
「……え?」
真也は自分の力を知った時よりも驚きながら魔王の言葉を聞き返す。
「……え?……えええええええええ!? 僕の力が分かったんですか?」
「うむ。お前は強化型の異能者だ。それで、どんなことができる?」
「ぼ、僕は……」
魔王の問いかけに真也は答える。
「僕の力は、『強化』です。ただそれだけです」
「……そうか」
魔王は短く呟くと、顎に手を当て、再び口を開いた。
「……なら、我が教えよう」
「え?」
「お主の異能の使い方を教えてやる」
「ほ、ほんとうですか?」
魔王は力強くうなづく。
「ああ。我を信じろ。さあ、時間が惜しい。今すぐ始めるぞ」
「はい!よろしくお願いします!!」
こうして、真也の特訓が始まった。
まずは魔王による魔法の講義から始まった。
魔王が真也の目の前で手のひらを広げると、そこから火球が現れた。
その大きさはバスケットボール大であり、真也はその火力に驚愕した。魔王は真也の反応に気をよくしたのか、さらに魔力を高め、火球を大きくする。真也が見上げるほどのサイズになったそれは、真也に向かって放たれ、真也の脇をかすめていった。
炎が消えると、真也は驚きの声を上げた。その横で、魔王は自慢げに語る。
これが魔法の初歩の初歩だ、と。真也はこの世界に来てから何度も驚いている気がするが、それでも驚くものは仕方がない。
続いて魔王は、手のひらの上に氷塊を生み出した。それは野球ボール程の大きさで、魔王がそれを握り潰すと水滴となって地面に落ちた。