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死神と悪夢 6話(後)
人の声、足音、サイレン。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
気づいたら、病室のベットで寝ていた。
医者の声も、何も耳に通らなかった。
あの|女の子《妹》の声が、言葉が、頭の中を回る。
『お兄ちゃん、私だよ』
今にも泣き出しそうな、あの声。意味が分からなかった。自分は、父親と母親の三家族だ。妹なんていない。それだけなのに。
なぜ、こんなに呆然としてしまうのか。何かが手元から離れてしまった、手元にあったはずのものが、何処か遠くへ消えた感じ。こんなにも具体的に感じれるのが怖い。
だんだんと、医者の押しこもった声が聞こえてくる。
「…で、あり……妹…さ…は」
とぎれとぎれに聞こえる真剣な声は、今は子守唄のように、夢の中へ引き寄せる。
妹、へしゃげたトラック、分からない。分からない。
なぁ。
見てるんだろ。
他人のふりして。
「…つぅ。」
俺はゆっくりと体を起こす。
気付かないうちに、意識を飛ばしていたらしい。
あたりを見回すと、景色はさっきのままだ。
嫌な腐ったの匂いも、少女も、何もない。どこにでもあるような、静かな住宅街だ。
「…そうだ、任務。」
任務は成功した。俺は見事に、少女の中の“あれ”を消し去ることができたのだ。
任務が成功して、その後は、そう、先輩へ報告しないと。
俺は、西宮夜雨。16才。先輩からスカウトを受けて、一緒に仕事をしている。そう、変な力があるんだ。俺にも、先輩にも、他のみんなにも。
基本的な記憶があることを確認する。まぁ、何か忘れているとしても…この記憶さえ覚えていれば、俺は生きていける。
何か、悪い夢を見た気がする。
この力を使うと、大体こうだ。後味が悪い感覚が、背筋を伝う。何を見たのかは、わからないが。
どうやらこの力は、自分の記憶を代償に、負の感情をコントロールできるらしい。
「先輩にまた怒られるんだろうなぁ。」
ぼやぁ、とした独り言を吐いて、俺は仕事場へ戻ろうとする。
「死神サン、死神サン。」
聞きたくもない、機械のような声が聞こえた。
こいつの記憶も、しっかりある。
「お前、しつこいぞ。」
横に目をやる。
自分とは対象的に、真っ白いマントに包まれたアイツがいた。
「マダ、ソンナコトヲ、シテイルノデスカ。人殺シ、人殺シ。」
笑顔を貼り付けたままアイツが言う。
「違う、人殺しじゃない。俺は、俺は、彼女を救った。」
「少女ハ、消エマシタ。事実上ノ、死デス。アナタガ、殺シタノデス。マダ、ワカリマセンカ?」
「違う。少なくとも、“浄化”させる、なんて、まるで俺等を悪者呼ばりして、実際人情をなくす機械化をしてる、お前らよりかは、百倍増しだ。」
「貴方ハ、マダワカラナイノデスネ。」
「分からなくて結構だ。」
「貴方ガコチラ側へクレバ、今ヨリモ、モット、人ヲ救エマスヨ。救エルノ二。」
「変な交渉しやがって。」
「貴方ハ、騙サレテル、トハ感ジナイノデスカ?」
「…誰にだ。」
「ワカルデショウ?、本当ハ、ワカッテイルノデショウ?」
…先輩のことか、まさか。
「先輩は、俺を、助けてくれた。救ってくれた。先輩が、騙すなんて、そんなこと、絶対にない。」
心臓が大きく鳴っている。
「フフフ、フフフ、面白イ。面白イ。ソウヤッテ、イツマデ自分ヲ、正当化サセルコトガデキルノカ。」
「馬鹿なこと言うな。」
「コレダカラ貴方タチハ、
死神、ト呼バレルノデスヨ。」
「…うるせぇ。お前らも、天使、なんて馬鹿げたこと言われるのは、今のうちだぞ。」
「ソウデスカ、ソウデスカ。」
アイツ…天使の言葉を無視して、俺はまた歩き出す。
数歩歩いて、後ろを向く。
天使はもう、居なかった。
どうもどうも、しちお。です。
死神と悪夢。なんとなくタイトルの意味は分かっていただけたでしょうか。うん、まぁ、分からなくても読んでいただけた時点で舞い上がりますので。前回と比べれば、文章力上がったのではないでしょうか、どうでしょうか…いや無いですねぇすいません。次回もまた一ヶ月後かな…。また気が向いたら書きます。(オイ)