公開中
傍観者のカノン
壇上で笑う男の瞳には何が映っているのだろうか。
輝かしい功績を胸に称える讃美歌を聴きながら、壇上の下で男を見つめた。
男は|相澤《あいざわ》|怜朗《れお》こと“REO”のアーティスト名をもち、この“2025年新人賞音楽祭”で見事、最優秀賞を勝ち取った若き秀才。
そして、それの地についた私が|加賀《かが》|慧《さとし》こと“ヵP”のアーティスト名で、未だに賞も何も取れていない。
ランキングこそ、ようやく10位の枠に入るようになったヵPと、初の参加で1位を掴み取ったREOでは天と地の差があるものだ。
そのせいか、今も称えるように流れるREOの曲がひどく苛立たしい。
どこか不協和音な曲調の中に独自のセンスに光る歌詞が機械の歌姫であるボーカロイドの声により、更に光り輝き、確かに稀に見る天才の“独特性”が存在している。
その独特性は壇上に立つ瞳の中でも生き生きとしていて、喉から絞り出される言葉もどこか一風変わったものがある。
ああ、やはり。天才というものには努力が勝つことはできないのだ。
私はREOの独壇場になった会場で、ヵPとして紙に指揮を録った。
指先が後悔の音を刻み、それにあったおどろおどろしい曲を構成させていく。
そうして完成したものに寄り添った歌詞を綴ろうとして、端と気づいた。REOがこちらを見て、ひどく楽しそうな天才のニヤけ面を見せている。
そして、彼は唐突に言い放った。
「その曲、聞かせてくれよ」
私にとって、それは天才と同じ位置に立てたような感覚がした。
鳴り響く讃美歌は踊りを止め、私の新曲が代わりに玉座に座って踊り始めた。