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素粒子のように小さな僕と
執筆日∶2025/01/15
日替わりお題∶「男子高校生」「素粒子」「同居人」
使用したお題∶「男子高校生」「素粒子」「同居人」
顕微鏡の中には、無数の世界が広がっている。小さな物質、大きな物質。たくさんの存在がそこで生きていて、見ているだけでもワクワクする。
「……ここか」
そして僕は、そんな物理の世界に惹かれ、物理学の研究者となった。物理学の色々な側面を見つけて、論文を出す。他人からの評価なんてどうでもいいが、事実をただ求めるのが好きだった。
「うーん、この子が……」
研究に研究を重ねて、新たな世界を見出す。そんな時間が、僕はたまらなく好きだ。
だが、幸せはそんなに長くは続かない。
「おい、|紘《ひろ》。もう飯できてんぞ? まだ研究中か?」
「……もうちょい。少し待って」
「飯冷めるわ! お前のちょいは長えんだよ。ったく、三分以内に降りてこいよ」
「……はーい」
「聞いてねえじゃねえか! ざけんな、同居人の立場の癖してー!」
この男は、僕に対して凄くやかましい。
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「来たか、よし食べるぞ」
「うん」
数分後。僕がのそのそと家の一階まで降りると、そこにはいつもの彼の姿があった。あと、温かいご飯も。
「いただきます」
「……いただきます」
男二人の晩御飯。毎日繰り返している光景なので、特に何か感情が湧いてくるわけでもない。いつも通りに、白米とおかずと味噌汁を流れ作業みたいに咀嚼して流し込むだけ。何も変わっている事なんて起きていない。
「そういえば、お前そろそろ学校は? 出生日数もヤバいだろ」
そう、こいつが変な話をしてくるのも、いつもと全く変わっていない。
「……だから、僕の所は単位制だって言ってんじゃん。もう単位は足りてるの」
「あー……。あ、そういえばそうだった! すまん、間違えた。通信だっけ?」
あっけらかんとした顔で間違いを言ってくるこいつは、名前を伊織という。僕はこいつに住まわせてもらっている立場ではある。伊織から見れば、僕はいわゆる同居人。
だがしかし、僕から見れば伊織はまるで頭が空っぽだ。記憶力も無ければ深く何かを考える力も存在していない。今だってそうだ。僕の高校は通信制ではなく定時制だと何度も言っているのに、こいつはまた間違えている。
「通信じゃなくて定時制。|伊織《いおり》、本当に分かってんの?」
「どっちも変わんない気するんだよな」
「……ばーか」
「は?」
僕が煽るとすぐ怒るし、僕の研究分野である素粒子についても何も分かっていないし、なんなら常識だってない。伊織は馬鹿だ。家事と仕事ができるだけで、僕が注意しなきゃ何にもできやしない。
「怒るなよ、事実なんだけど」
「おいてめぇ、同居人の分際で……!」
「でも、この家のお金稼いできてるのは僕じゃん。そんなに言うなら、もうどれだけ論文で儲かっても金出してやんないけど」
「……くっ……。それは反則カードだろ……」
「反則なんて存在知らなーい。ばっかじゃないの」
僕がそこまで言うと、伊織はいつも悔しそうな眼差しで僕を見てくる。それを見る度に彼の事がすごく滑稽に思えて、なんだか鼻で笑ってしまいたくなる。でも前にそうしたら激怒されたので、もうする事はないと思うが。頭は空っぽなくせに、こいつは怒ると何かと面倒だ。
それに、一応怒らせたくない理由みたいなものは、他にもある。
「……はぁ。言っておくけど、別に馬鹿なのは悪い事じゃないよ」
「煽ってるようにしか聞こえねぇ」
「まぁ聞けって……。その、拾ってくれたのはありがたいんだよ」
「……ん?」
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僕の事を理解してくれる人間。そんなものは無いに等しかった。
ただ、物理学が学びたくて、素粒子の研究をずっと続けたくて。それだけだったのに、母親も父親もクラスメイトも先生も、皆が僕の事を怪しい目で睨んできた。こいつは変わってる、おかしい異常者だと、言ってくるような目線で。
「紘、もう研究はやめなさい。別の事も満遍なくだな……そうしないと大人になれないぞ……」
うるさい、そう突き放しても、ついてきて離れてくれない呪縛。大人も同年代も、僕の敵で溢れていた。僕は世界で一人きりになったような、そんな気持ちを毎日ずっと抱えて生きていた。
「……誰か、助けて……」
誰からも理解されない事ほど、辛い事はない。誰からも拒絶される、それ以上の地獄なんて、どこにも存在しない。僕はそこから抜け出したくて、ひたすらに助けを求めていた。もがいて、あがいて、喉が裂けるまで助けてほしくて。それくらいに、辛かったんだ。
だが、ある日から、僕の世界は変わった。
「今日からお前を引き取る|横浜《よこはま》だ。あ、横浜は名字で、下の名前は伊織。よろしくな」
親に言われて、僕はある男の家で生活する事になった。そのある男というのが、伊織だった。
「……よろしく、お願いします。|田河《たがわ》紘です」
最初は僕も緊張していた。いきなり親に捨てられ、連れてこられた先が他人の家だったのだから。
しかし、伊織の方は違った。なぜかずっと天真爛漫としていて、自然体な笑顔と声色で、そして何より、僕が物理学の研究をしたいと言って、彼はすんなりとそれを受け入れた。
「物理学? なんか難しい事は分かんねぇけど、高校留年しなけりゃいいんじゃね? 一応空き部屋あるから、そこ使っていいぞ」
そう言う伊織の表情は、どこの誰がする笑顔よりも温かかった。
それから、僕の世界は丸っきり変わった。その変化は、僕にとって夢に見た幸せそのものだったのだ。
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「その……僕、一応親に捨てられたでしょ。そこ拾ってくれたから。ありがと……」
僕がそこまで言うと、伊織は一瞬だけ動きを止めた。
「……お、おう」
いつもは騒がしい伊織が、なんだかやけに静かになる。なんでだと思いつつ、彼の方を見ると、なんだか照れくさくなっているのか、気まずくなっているのか、そんな表情をしていた。
「……うん」
僕もそれに合わせて、やがて何も言わなくなった。
ごめんなさい。遅れました。あとクオリティも低いです。
ちなみに私はド文系なので顕微鏡の使い方も分かりません。流石に触った事はありますが、忘れました。そして物理学なんて全く知りません。
紘くん……好きだ……。こういう子好き……。他の人の作品に出てたら絶対に推しになってました。うわー、本当に個別で作品書きたいよ……。