公開中
真也の異能を解くために、魔王が魔力を開放することになった。
真也の異能は強化系であり、相手の魂を吸収することで自身の肉体を強化することができる。真也は、魔王の異能で強化された状態で、さらに魔王の異能で魂を奪われることになる。それはすなわち死を意味することだった。
真也は涙を流しながら、心の中で叫んだ。
ごめんなさい! ごめんなさい!! 僕が弱かったから……。
その言葉を最後に、真也の意識は途絶えた。
魔王は真也の異能を封じることには成功したものの、予想外の事態に陥った。
それは、真也の異能が強く発動してしまったことだ。
真也に異能を使うよう促した後、魔王は真也を抱きかかえるようにして、その異能を待った。
真也の異能は、魔王が予想した通り、その効果を発揮した。
しかし、その強さは彼の想定を遥かに超えていた。
最初は、真也の異能によって魔王の魔力が吸われているだけかと思われた。
しかし、魔王が真也に抱きつくと、その異能はさらに強力になっていく。
魔王は自身の体に異変を感じ、真也を放り投げると距離を取った。
その次の瞬間、魔王の体は光に包まれた。
その光は一瞬で消え去ったが、魔王は体の不調を感じていた。
魔王の左胸のあたりに、火傷のような跡が残っていた。
魔王はそれに目を向けるが、傷自体は既に治っているようで、痛みなどはない。
魔王はその傷を不思議に思いつつも、真也の異能を解除する方法を探るため、真也の異能の分析を始めた。
そして、魔王は気づいた。
この異能は、ただ単に魔王の魔素を吸い取るのではなく、魔王そのものを侵食しているということに。
真也は、魔王の魂を取り込み、魔王を乗っ取ろうとしているのだ。魔王は焦燥感を覚えた。
このままでは、自分も真也の異能に取り込まれてしまう。
しかし、どうすればいいのかわからない。
真也の異能を解くために、魔王は考えた。
そして、一つの結論を出した。魔王は真也の異能を打ち消すため、自身に眠る膨大な魔力を開放する。
その瞬間、魔王の全身に激痛が走る。
魔王は歯を食いしばり、その痛みに耐えた。
魔王の異能は、その身に流れる血液を操ることだ。魔王の血は武器となり、あらゆるものに干渉することができる。
真也の異能は、その血さえも飲み込み始めた。
真也の異能が魔王の血液を飲み込むほどに、魔王の体にも変化が現れる。まずは、魔王の右腕に赤い鱗が現れた。そして、その肌が赤く染まる。
魔王は構わず、自らの異能を全開にした。
魔王の血はやがてその形を変え、剣となった。魔王はそれを握りしめる。
魔王は、その剣に自らの血を流し込んだ。そして、その剣を真也に向けて振り下ろす。
その刃に触れたものは、全て両断された。
魔王は次々にその剣を振り回す。その度に斬撃が飛び交い、周囲の木々を切り刻んでいく。魔王は自らを傷つけながら、ひたすらに剣を振るい続けた。
そしてついに、真也の異能は解除された。
魔王は荒く息をしながら、空を見上げる。月は沈みかけており、夜明けまでそう時間は無いことが見て取れた。魔王は考える。
この世界において、ピカソの力は絶対だ。
しかし、その力も無限ではない。
いずれ限界は訪れる。そしてその時に魔王の異能は失われるだろう。
その時に、魔王は殺される。
魔王は自らの運命を悟った。この世界に、魔王という存在の居場所は無くなるだろう。
そう思った時、魔王はふと疑問に思う。
ならばなぜ自分は生きているのだろうかと。
魔王はこの世界で最強の存在であるはずだ。
その自分が、ピカソとしての力を失ったら、一体何が残るのだろうか。
魔王は自嘲気味な笑いを浮かべた。
魔王はゆっくりと立ち上がると、城へと歩き出す。
真也の異能によって破壊された道を通り抜け、魔王は城の中へと消えた。
真也は、モネの話を聞き終えた。その話を聞いて、真也は思う。魔王の力になりたいと。
自分が弱いせいで、魔王に迷惑をかけてしまった。
真也は、魔王に恩返しがしたいと思ったのだ。
真也はモネに言う。
僕にできることを教えてください。
モネは微笑むと、真也の頭を撫でる。
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、彼女は口を開いた。
モネは真也の手を握ると、彼の顔を覗きこむ。
君はね、私と一緒にロシアに来てもらうよ。
え? どういうことですか? 困惑している真也に、モネは説明する。
私はこの学園を、魔王様のためだけに創った。でもそれだけじゃダメだ。この学校の生徒達も救わなくちゃいけない。
真也はモネの言葉を真剣に聞いていた。
真也にとって、
「みんなを助ける」という言葉は心に響くものがあった。
モネは続ける。
真也くんの異能で、私の『記憶継承』を使ってほしいんだ。君も知ってるでしょ? 自分の持つ力なら……ってさ。
真也はそれを聞いて納得するとともに、あることに気がつく。
「それならわざわざロシアの学校なんか作らずに、日本でやればよかったんじゃないんですか?」
モネは笑うと、「まぁまぁ、それはおいおい説明していくからさ。とりあえず今はついてきてくれるかな? 準備はもうできてるんだけど……」
そう言って、
「じゃあ行こっか!」
と、真也の手を引っ張り歩き出した。
その様子は、年相応の少女に見える。
真也はモネに引かれるまま歩く。
(この人が、僕のお母さんなのか?)
しかし、彼女の見た目は自分よりもずっと若く見えた。真也は自分の母親というものがどのような人か想像しようとしたが、結局うまくイメージできずに諦める。
真也の母は、彼を生んですぐこの世を去っていた。
そのため真也の記憶にある母の姿は幼い頃に見た写真だけであり、実際の母の年齢を知らない。
真也は今まで一度も、本当の親に会いたいと思わなかった。そのため、彼の中では未だに母親の年齢は小学生くらいの女の子なのだ。
彼は、これからその少女と旅をするのかと内心少し緊張していた。
真也は彼女に着いて行きながら考える。この世界のことについてだ。
真也はまだ、この世界をあまりよく知らない。それはつまり、この世界について何も分かっていないということだ。
そして、真也が知っていることはあまりにも少ない。
真也にはこの世界で、もっと知るべきことがあるのではないかと考えたのだ。
真也は思い切って質問をしてみることにする。
あの、一つ聞きたい事があるんですけど……。
なーに? 真也は、この世界に来た時に、モネから受けた忠告を思い出した。
それは、異能のことを他人に喋ってはいけないということだった。
もし喋ったら、元の世界には帰れないと。だが、今の真也にそんなことを考えている余裕は無かった。それよりも重要なことを思い出したからだ。
実は、僕の能力なんですが……。
うん。
その………………まだ使えないみたいなんですよ。
真也は、この異世界に来て初めて、本当のことを言う決心をした。それは、自分が弱すぎて異能を使うことができていないという事を正直に伝えるためだった。
異能というのは、使うためには訓練が必要なのだという事は理解できたが、実際にどうやって訓練をすればいいのか分からない。
真也がモネの方に目を向けると、彼女もこちらを見ていたようで目が合った。すると彼女がにっこりと微笑みかけてくるので思わず目をそらす。