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なんかヤバめ御曹司とヤバめ無気力系男子に付きまとわれてるんだけど??【中学生編】
二話目!
凪との出会い編。今回はちょっとメンヘラがいます。
凪視点もある。
あのあと、俺と玲王は違う学校に通うことになってしまった。
受験後の玲王の落ち込みようといったらそれはもう酷かった。俺が落ち込んでる暇なんかないぐらいに。
「周がいない中学なんか行く意味ねぇ…。なあ、周。中学行かずに俺と家で勉強しようぜ。そしたら俺と周、一生一緒だ。」
「義務教育って知ってる??」
玲王の口から飛び出してきた言葉に俺はさすがに冗談だと思った。ハッハッハ、玲王は冗談が上手いな~。それにしては目がガチだったのは気のせいだよな?
なんやかんやで小学校生活最後の日となった卒業式。感極まって泣いている皆、先生と写真を撮りまくった。満開の桜が俺たちの門出をお祝いしている。
俺も式の最後の方ではしっかり泣いてしまって、最後に俺が「6-1全員、桜の下集合!記念撮影しよう。」なんて言ったら、みんな涙腺が崩壊していた。クラスのやつらと抱きつきあったせいで俺の服はすっかり濡れている。これが最後だねと笑いあった。その瞬間だった。
「周、これ貰ってくな♡」
どこからともなく現れた俺様玲王様御曹司様が俺のランドセルを奪い取り、クソ長リムジンで逃走した。
突然のことに俺も皆もなかなか開いた口が塞がらない。「取り敢えず撮るか…」と声をかけ撮ったが、最後の写真は皆アホみたいな顔だった。
玲王が奪い去った俺の愛用したランドセルは、結局返ってこなかった。
あとでばぁやさんに聞いたのだが、どうやらガラスケースの中で厳重に保管されているらしい。何やってんだ?玲王。
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怒涛の勢いで過ぎた卒業式&春休みを終え、いよいよ俺は中学生になる。
俺は洒落にならないぐらい朝が弱いから、前日めちゃめちゃ早く寝て当日朝四時に起きた。さすがに一日目から遅刻は嫌だ。
ベッドの上でうだうだして、時計を見ればもう七時。ようやく目覚めた頭で朝飯を食べて新しい制服に着替えるともう八時半だったので急いで家を出た。
ちなみに、この日のアラームは計32個、ホラ貝が特徴的で開戦の合図みたいな音。全て最大の音量である。
いや長~!!
まじで長い校長の話をあくびをしながらなんとか耐える。話しすぎだろ。体感二時間。本当に勘弁してくれ。
何度か意識が飛びかけ、校長がステージから降りていく。その日一番の大あくびをかませば、いつの間にか教室に移動することになっていた。
地元の中学なので、やっぱり同じ小学校だった奴が多い。
話ながらだらだらと歩いて行くと、どうやら俺たちが最後だったみたいだ。教室の扉に貼ってある「出席番号順で座るように」と書かれた名簿を見て、自分の名前を探す。
えっと、た、つーてーとー、あった。“な”。
どうやら俺の前は「凪誠士郎」とかいう男らしい。凪って名字かっこよ。ちょっぴり羨ましい。
「ねえ、“凪誠士郎”?」
「いや、俺長谷川。」
じゃあもうちょっと前か、と思ってまた適当に声をかけた。
「ねえねえ、“凪誠士郎”?」
と白い髪の奴に声をかけると、閉じていた目が開いてこくりと頭が揺れた。
おお。ドンピシャ。ありがと、と声をかけてうしろに座れば、前の凪はまた寝始めた。多分そろそろ始まるぞ。
ようやく先生が入ってきて、先生の挨拶とか自己紹介の時間になる。一番のやつが自己紹介すると、すっかりそれがテンプレートとなってどんどん順番が回っていく。ただ、おれの前に座る凪は自分の番が回ってきてもぐーすか寝ていてなかなか起きなかった。どーしたもんかねと考えていたら、先生から声がかかる。
「南雲くん、起こしてあげて下さい。」
俺は先生の言葉に頷き、腕を伸ばしてトントンと軽く叩いた。これで起きてくれたら良かったのだか、ガチ寝しているのか凪は少しも起きる気配がない。何度叩いても本当に起きないので、しょうがない…と思いっきり背中を叩いた。バシンと音が響き、凪が体をビクッと跳ねさせ俺の方を向く。「自己紹介だって」と声をかけるとめんどくさいと顔で表しながら「…凪誠士郎。」とだけ呟いてまた寝た。
変なやつだと思いながらも、俺は自己紹介のために席を立った。
ただ、俺は凪のせいですっかりテンプレートが頭から抜け落ちてしまっていた。適当に思い付いたことをポンポン言って席に戻ると、さっきの校長の長話や凪のこともあって俺も夢の世界へ旅立ってしまった。
「おい、起きろよ。」
と言われ、ゆっくりと顔をあげると同小だった三島がいた。どうやら起こしてくれたみたいだ。
あくびをいくつかしていると、三島が口を開いた。
「お前、学級委員になったから。」
「…え??」
話を聞くと、俺が寝ている間に委員決めがあったらしい。俺は「小学校の時も委員長だった」という同じクラスの証言のお陰(せい)で学級委員になってしまったらしい。本当に言っているのか?教室を見渡すと、皆俺の方を見てうんうんと頷いている。ここまで来たら腹を括るしかない。でもこいつは絶対殺す。俺が断れないのを知っててやってる。絶対。
「いいんちょ、挨拶よろ」とニヤニヤ笑う三島の頭をスコーンと叩いて教卓の方まで出ていった。
「なんか寝てる間に決まってたみたい?だけど、頑張ります。よろしくねー。」
と軽く挨拶をすればもう一人の委員の女子がいた。眼鏡おさげをした真面目そうな人。名札に「山口」と書かれた人は知らない人。多分隣の小学校だ。
「山口さんもよろしくお願いします。」
と笑うと軽く会釈してくれた。
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入学して一週間。
俺は今、あのとき軽く引き受けた委員を後悔している。
「お願いします!南雲くん。どうか、この通り…。」
担任が今世紀最大のお願い!と言いそうな顔で俺に向かって手を合わせているからだ。
なぜこんなにもめんどくさいことになっているかというと、それは俺の前の席の凪のせいだ。簡潔に言おう。あいつは入学式翌日から今日までの一週間、全ての授業を寝てすごしている。比喩とかじゃない。本当だ。俺はあいつが休憩時間にトイレに行くこと以外で起きているところをほぼ見たことがない。
最初の方は先生も凪に当てたりして、なんとか起こそうとした。結果、凪が起きることは一度も無かった。二回ほど授業を行えばどの先生も当てなくなる。諦めた先生はほとんど凪を視界に入れること無く授業を終えるようになった。
正直、俺もこの状況を変えたい。
なぜかって?
俺がとばっちりを受けるからだ。
俺が強制的に委員になったことは一年の先生全員に広まった。そして、「あいつなら当ててもなんとか答える」とかいうとんでもない認識も同時に広まってしまうことになる。そうして、凪を当てる予定だった先生達は「後ろだから」とかいう尤もらしい理由をつけておれを当てるようになった。
回想終了。
とにかく先生方は凪をなんとか起こしたいらしい。
そこで、委員かつ人の頼みは断れない南雲クン(笑)である俺に白羽の矢が立ったのだと。
「起こすだけでいいから~!」
「…まあ、それぐらいなら。」
泣きついてくる先生に俺はまんまと折れてしまった。
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「凪、起きろ。」
突然現れ肩を叩いた俺に、凪は目を丸くした。だがすぐに頭を伏せてしまう。こいつ~!!とちょっとイライラし始めている。
「マジで起きろ。お前のせいで俺めっちゃ当てられるから。」
凪は目を開くものの体を起こそうとしなかった。本当になんなんだこいつ??
「凪、先生にも頼まれちゃったから。本当に寝るな。」
「…なんで?俺起きてるメリットないし…。」
「はあ?メリット無くても起きるもんだろ。」
凪は少し考えているようだった。まさか、それすらも教えないといけないのか?
しばらくたってから凪は口を開いた。
「南雲が世話してくれんならいいよ。」
こいつは、以外と俺のことを分かってんのかも知れない。頼まれたら断れなくて、ちょっとお節介ということを。なんか、おもしろい…かも?
「はは!なんかもう一周回って可愛く見えてきたわ。いいよ。お前の世話してやる。」
「…ほんと?」
「うん。」
ちょっぴりだけど目を輝かせて俺の方を見た。こうなったらやってやる。
「…凪。凪誠士郎。」
「OK。じゃあ…セイね。俺南雲周。周って呼べよ。」
「うん。よろしく、周。」
無表情がちょっと崩れた気がした。
…なんて思っていた瞬間、さっきのぐうたらぶりがスッと消えて先生のところへ俺を連れていった。
「せんせー。周が世話してくれるらしいから席変える。」
セイはそう言って俺とセイの机まで戻ると、荷物を全部出して抱えた。
ちなみに先生は涙目だった。「ありがとう…!」と呟く声が聞こえた。先生も大変なんだね。
「セイ、何やってんの??」
「席、変える。」
いや、それは聞いたけど。
セイは未だ混乱している俺の腕を掴んで、俺の荷物まで全部抱えたまま窓側の一番後ろに歩いて行った。
座って喋っていた奴らの前に立ち、そのまま
「席、替わって。」
と言った。俺もそいつらも周りで見てる奴らも誰一人状況を分かっていなかった。多分セイが言っていることが一ミリも理解出来ていないのだろう。彼らはセイに言われるまま荷物を全て持って立ち上がる。その瞬間セイは椅子にサッと滑り込み、あろうことか俺のことをめちゃめちゃ狭い窓際の席へ押し込んだ。
こいつでかいから狭いんだけど。
「なにこれ…???」
なんかもう理解しようとすることすら馬鹿らしい。俺を壁側にぎゅうぎゅうと押して、俺が窓とセイに挟まれる状態になっている。全体重を俺にかけ、またぐうぐうと寝始めるセイから逃げようとするも、少しも動けなくて結局授業が始まるまでされるがままになっていた。誰もこの行動の意図を掴めないままで、俺も教室に入ってきた先生に声をかけられるまで動けなかった。
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『セイ、しりとりしよーぜ。』
俺的眠くなる授業No.1である社会、しかも地理の時間。声の小さな先生ということも相まって、セイ…ではなく“俺”の眠気が最高潮だった。
何故セイは眠くないのか。それは俺の手を授業開始から20分間ずっとにぎにぎしているからである。すぐ飽きるもんだと思っていたのに、なかなかやめてくれなかった。なんでそれで眠気が飛ぶのかはよく分からないけど。
ただこれには一つ問題がある。それは、この行為はセイが眠くなくなるというだけであって、決して俺の眠気が抑えられる訳ではないということ。なんならリズミカルににぎにぎするもんだから逆に眠くなってくる。そこで、俺はセイに遊びを持ちかけたというわけだ。
『えー…。まあ、いいよ。』
『“り”スタート。お前からどーぞ。』
『じゃあ、利尻。』
いきなり北海道の地名をぶちこんできたセイに中学生である俺のツボに何故かはまってしまって、優しそうな先生から怒号を浴びせられた。
俺が不服そうにしてるとあの無表情のセイが肩を震わせていた。こいつのせいなのに。解せぬ。
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あのあと俺たちのしりとり大戦はめちゃめちゃ白熱して、午前の授業全潰しでやってしまった。あそこまで来たらもう引けなかった。
授業を受けてないくせにめちゃくちゃ頭を使っているので、とんでもなく腹が減っている。ほら。今にも音がなりそう。
そんな風に馬鹿なことを考えているうちにいつの間にか中庭に着いていたらしい。
ちなみに、本来なら昼は教室で食べることになっている。俺も完全にそうするつもりで、周りに座っている奴らと喋りながら昼の用意をしていた。だが俺が机に弁当を置いた瞬間横からセイがそれをかっさらい、俺の腕をギュッと握って「行くよ」と言ったんだ。俺は弁当が人質にとられているので、逆らえずにそのまま連行された。
閑話休題。
セイの右手には俺の弁当、左手には俺の手が握られている。ベンチに腰掛けセイから弁当を受け取った。やっと帰ってきた、俺の愛しの弁当ちゃん。弁当をパカッと開けると俺の好物であるたこさんウインナーが2本入っていた。
「ラッキー」と呟いた瞬間、俺の大事なたこさんをセイが一本奪い取って行った。
「あ!!お前何すんだよ!」
「油断してる方が悪いの。」
「俺のタコ奪いやがって!お前の昼飯よこせ。」
俺の大事な大事なタコを持っていった償いはしてもらいたい。こいつの昼飯の一番良いやつを貰ってやろう。
そんなことを決意して、セイが鞄の中をガサゴソしているのをいまかいまかと待った。ただ、俺の決意はセイが取り出したものによって呆気なく吹き飛んだ。
「え、コレだけ?」
セイの手にはinゼリー(ラムネ味)が握られていた。
流石におかしい。これ以外にもあるよな?という気持ちを込めてセイの方を見るが、セイは当たり前だと言うように頷いた。
成長期の男子がこれだけで良いはずがないだろう。面倒臭がりにも程がある。俺はなんだか可愛そうになってきてセイの口へ卵焼きを突っ込んだ。
「お前、そんな感じなら絶対朝飯とか食べてないよな。」
「まあ、めんどくさいし…」
「朝飯は大事だろ。頭働かないぞ。」
「うーん…周が作ってくれるなら食べる。」
「無理。俺朝ダメなの。」
セイは珍しく表情を動かしてこちらを見た。「絶対そんなことないじゃん」と言う声が聞こえる。ちなみにこれに関しては本当だ。というか、俺がこんなとこで嘘つくわけが無い。
「じゃあ、俺が周のこと世話する。」
「自分のことも面倒臭がるのに無理だろ。」
「出来る。…お願い。明日、取り敢えずお試しでもいいから。」
俺より目線が高いくせになんか上目遣いに見えて、俺は結局断れなかった。
あのあと、「折角なら周の家に泊まりたい」と駄々を捏ねたセイにまた断れなくて、俺は『今日一人泊まらせていい?』と親に送る羽目になった。
誰が来るのかも聞かず、即座に“いいよ👌”と返してきた両親はちょっとおかしいのかもしれない。
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「ただいま~」
「おじゃましまーす」
自宅は学校から歩いて15分なのでまあまあ近い。雑談しながら歩くとすぐに着いた。ちょっと印刷が剥がれたキーホルダーの付いた鍵で玄関を開ければ、母さんがリビングからひょっこり顔を出した。
「いらっしゃい。“凪誠士郎”くんね。家みたいに寛いでくれていいから。」
めちゃめちゃ良い香りがする。今日はカレーらしい。
「取り敢えず、二人とも手洗って来なさい。あ、そうだ。凪くん、苦手なものとかある?」
「いや、特には…」
「そう、良かった。」
辛いものが苦手な両親に合わせた甘口のカレーは、とても美味しかった。セイも気に入ってくれたらしい。
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「そろそろ寝よーぜ。」
0時10分。セイが「ゲーム好き」なんて言うから、夕食後風呂に入ってからずーっとぶっ通しでス○ラをしてしまった。
ちなみに二台のゲーム機のうち一つは弟の部屋から勝手に拝借した。多分大丈夫だろう。附属の中学を受けるつもりのあいつは勉強でそれどころでは無いらしいから。
俺が黙々とゲーム機を片付けていると、敷かれた布団でセイがもう寝転がっていた。しょうがないやつだと思っていると、一つ大事な事を思い出した。
「そういえばお前、昼の約束おぼえてる?明日ちゃんと俺のこと連れてけよ。」
「覚えてる。まかせて、多分大丈夫。」
「本当かな~」
俺はセイの言葉を若干信じることができないまま、部屋の電気を消して眠りについた。
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凪誠士郎side
「…起きて」
眠い目を擦りながら隣の布団で寝ている周を起こそうと試みる。だが周は動くことすらしない。死んでるんじゃないのかと疑うほど微動だにしない。
昨日からずっと朝が弱いとは言っていた。でも流石に、自分がやることはささっと起こして顔を洗うのを促す…ぐらいだと思っていた。
まさか無理やり起き上がらせる所からだったなんて。
布団を剥いで投げる。―起きない。
揺さぶってみる。―起きない。
力一杯叩く。―起きない!
俺はめんどくさくなって、周をおぶった。以外と重かった。そういえば昨日の夜、筋トレをしていると言っていた気がする。
俺は結局周に、
顔を洗わせ
歯ブラシを突っ込み
朝食を口のなかに投げ込み
学校までおぶっていったあと
昼食を食べさせた(ここでやっと起きた)。
逆に昨日はどうやって来ていたんだ?と思うぐらい周は何も出来なかった。
めんどくさいことばっかだし、進んでしたくないようなことだけど、寝起きのほやほやしている周を見るともっと世話を焼きたくなる。まだ出会って二日目の自分のことを完全に信用している周をバカだなあと思う反面、この顔をもっと見ていたい、可愛いと思っている自分がいる。
…可愛いってなんなんだよ。
もう考えんのがめんどくさい。ほんとにバカなやつ。周も、俺も。
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【南雲周(主人公)side】
結局、あの日から俺は毎朝凪にお世話になっている。
本当に毎日世話して貰っているので、自然とお互いの家に泊まりこむようになった。俺の家で一週間過ごしたら次は凪の家で一週間。そんなことをしていたら親同士も仲良くなったみたいで、父達はよく釣りに行っている。
母達なんか何回か話している内にお互いオタバレしたみたいで、今年の夏は二人だけでコミケに出掛けて行った。なぜ?どこでオタバレしたのだろう。
「…も、南雲!」
「ハイ⁉」
「聞いているのか?!」
「すみません、もっかい最初から…」
「人の話は聞いてくれ。もういい。単刀直入に言う。南雲、生徒会に入ってくれ。」
どうしてこんな話になっているのか。
事の発端は今より一ヶ月前。子供体温の俺でもそろそろセーターを出そうかと考え始める10月最初の週だった。
「へ~。来月に新生徒会の選挙、ねえ…」
「そうなの。南雲くん、学級委員だし何か役員しないのかなって。」
「今のとこはいいかな。」
「いや、副会長とか。あれなら多分楽だよ。」
前の席のポニテの女の子-鈴木がこちらを向いて配られたプリントを見せてくる。
生徒会が配るにしてはラフで簡潔すぎる文面のそれを見て、俺は考えを巡らせていた。
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--- 新生徒会役員募集のおしらせ---
12/1より新しくなる生徒会の役員を募集します。
【募集人数】
・生徒会長 一名
・副会長 一、ニ年生一名ずつ
・記録 二名
・各委員会委員長 一名ずつ
副会長以外の年齢制限はありません。誰でもwelcome!
役員を希望する生徒は職員室前のBOXに、[氏名、クラス、出席番号、役員名]を書いて提出してください。
選挙は11/9です。複数立候補が出た場合は決戦投票、それ以外は信任投票となります。
皆さんの立候補をお待ちしています☺
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なんだこのにこちゃんマークは。仕事内容とかも何も書かれていないし。ふざけているのか?だがしかし、これは正真正銘生徒会が配布したプリントらしい。
「俺は今のところいいかな。」
「…今のところ?」
「まあ。」
「私、聞いたからね。今、この耳で。」
「う、うん。」
鈴木は食い入るように俺に顔を近付け、その後満足そうに俺に背を向けた。なんなんだコイツ。
回想終了。
こんな感じで選挙の事を知った俺は“自分には関係ない”と早々に頭から情報を全て捨てていた。…はずだったのだが。
選挙を一週間後に控えた担当の先生から「一年の副会長だけ足りない」と泣きつかれている。
「俺以外にもいますよね。」
「どいつに頼んでも、南雲が一番合っていると言われるんだ。」
「誰に聞いたんですか?」
「鈴木と三島。」
鈴木の「聞いたから」はそう言うことだったらしい。俺、やるとは一言も言っていないんだが?
そして三島。お前だけはゆるさん。学級委員の次は副会長か?あいつは一度痛い目を見る必要があるだろう。
「なあ、頼む。この通り!」
「……わかりました。他の人が立候補したら即取り消しますからね。」
「ありがとう!助かる!」
結局俺以外の立候補者は誰も現れず、満場一致で副会長をすることになった。
後から聞いたのだが、セイも「おもしろそう」という理由で一枚噛んでいたらしい。その日の飯はセイだけおかずを二品減らした。
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「今年度の生徒会副会長は、一年二組南雲周さんです。」
名前を呼ばれた俺が壇上に上がると、拍手が俺の鼓膜を揺らす。
ふざけんな。結局俺かよ。
でも、心の中で毒を吐いても何も変わらない。俺はこの結果を受け入れるしか無いらしい。
「精一杯頑張ります。一年間よろしくお願いします!」
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【凪side】
ゴトゴトゴトゴト。
周の靴箱を開けると、これでもかというほど詰められた箱達が足元に落ちる。長方形やら五角形やらハートやらの形をしたそれらは、ご丁寧に「南雲くんへ」と書かれていて。
「……なにこれ。めんどくさ。」
気に入らない。別に俺がチョコが欲しい訳じゃない。誰が作ったかもわからない食べ物を口にいれるのは気持ちが良いものでは無いし、そもそも興味ないし。
俺はただ……何が気に入らないんだろう。多少勉強しなくてもしっかり理解してくれるこの脳ミソは、こういうときに限って全然使い物にならない。
ただ、“今日、周に彼女が出来なかったらいいな”なんて考えているだけ。
あーあ。俺がどんなこと思ってても、背中でぐーすか寝てるコイツははこういうの律儀に全部返すんだろうな。告白だって結果がどうであれしっかり聞くんだろうな。
はあ、全然ダメ。今日はなんかイライラしてしょうがない。なんで俺がこんな気持ちになんなきゃいけないの?
「ずっと南雲くんの事好きだったの。私と付き合ってくれない?」
人気の無い4階の空き教室。告白するにはうってつけの場所だと思う。
本日最後の授業を終え、多分今日は告白もこれでラスト。一刻も早く帰りたくて周の後をこっそり着けた。…ほんとはちょっと気になってただけなのかもしれない。
扉にもたれ掛かって耳をぴったり付けると、声が聞こえる。
「…ごめんね。俺、まだそう言うの分かんなくて、だから…」
「じゃあ私が教えるから!私、本当に南雲くんのこと好きなんだよ。」
お前が周の何を知っていると言うのだろうか。朝は全然起きれなくて、めちゃめちゃ機嫌が悪いときもあって、でもなんかかわいくて-そういう周を何も知らないくせに。…やっぱやめ。これは俺だけでいいや。
そんなことを悶々と考えていた俺の耳に飛び込んできた言葉に、俺は思考を止めた。
「気づいたら目が追ってて、四六時中南雲くんのことしか考えられなくて、朝昼晩のご飯なんかより南雲くんのことが大切なんだよ。こういうのを“恋”って言うんだって、南雲くんのお陰で知れたんだよ。だから…!」
いまいち意味が分からなかった。
だって俺、周のことばっかり見ちゃうし、朝起きてから夜寝るまでずっと周の事考えてて、こないだなんて夢にも出てきて、ご飯なんかより周が大切なのは当たり前で…。
-俺って、周に恋してたの?
顔に熱が集まっていく感覚がある。背中だって汗で湿っている。
今まで、ずっと名前が分からなかった。気付いたら俺の心のなかに巣を作っていたこの気持ちが。「親愛」とか「友愛」とかどれを当てはめても腑に落ちなかったのに、急にストンとパズルのピースがはまったみたいな感じがする。
「こい…」
口に出すと、もっともっと顔が赤くなっていく気がした。
俺はやっとこの何かに名前を付けられたみたいだ。