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𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓽𝓱𝓻𝓮𝓮 暗闇の決闘
―奏者視点―
暗闇の中、私は個室から飛び出した。
バタン!!という、ドアが閉まる音が、やけに大きく鳴った。
荒らしはその音でようやく、まだ人がいたと気付いたらしい。
あの部屋防音になってて良かった···。
「まだいるのか!?」
荒らしがゆっくりと動き出す。
なんて愚かなんだろう。
自分で明かりを消しといて、何も見えてないから、あちこちに身体をぶつけている。
奏者「···。フフ···アハハ···!!」
なんだかそれが可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだ···おい!!」
「まて、この声···!!」
どうやら荒らしの1人が、私の笑い声を聞いて全てを悟ったらしい。
焦った様な、そんな声。
「···魔軍···!?嘘だろ···!?」
荒らし共の、恐怖に歪んだ顔。
それもそうだ。
だって私達は、「警備がいない所に荒らしが現れたら、迷わず倒してくれ」と、管理人からお願いをされているのだ。
警備が荒らしを見かけた場合、「追放」の処罰が下される。
魔軍が荒らしを見つけた場合は···
最悪の場合、待ち受けているのは「死」。
奴らはそれを恐れているのだ。
···嗚呼。愚かな悪質プレイヤーよ。
―生き残れるといいな。
「クッ···ソ···!!こうなったらヤケだ!!お、おい!!これ以上動いたら···撃つぞ!?」
だから、アンタ達何も見えてないでしょ?
「撃つ」とか言っておきながら、銃口は誰もいない方向を向いている。
何時の時代も、どの世界も、馬鹿な人はいるんだなぁ。
奏者「―時は満ちた。」
私の腕が、万年筆の様な形に変化する。
その腕を一振りすると、先から刃の様に鋭い黒インクが飛び出し、荒らし達を切り付けた。
「いったあ!?」
奴らは悲鳴を上げる。
その声を聞き、一瞬昔を思い出す。
「あの時」もこんな感じだったな。
前線にいた時と違う、悲鳴。絶望。そして永眠。
アッという間に崩壊し、消え去ってゆく世界。
私が最後に見たのは「黒」。
この世界が壊れる時も、きっと黒いんだろう。
だから守るのだ。
世界が二度と壊れない様に。
黒い過去を背負ってきた訳アリの私達を快く受け入れてくれた、この世界が。
私は荒らしに一歩近づいた。
その瞬間···
耳を劈く様な銃声が鳴り響き、私の左目付近に強い衝撃が加わった。
特殊な魔材で作られた仮面をしていた為、怪我はしていないものの、「ビシッ」と、嫌な音が鳴った。
ショットガンの威力に耐えきれなかった仮面にヒビが入ったのだ。
心の中で、激しい怒りが|蜷局《とぐろ》を巻く。
そして···
もう二度と、物を見る事が出来ない左目に。
―光が宿った。
---
―クロウ視点―
奏者さんが荒らしに向かって行ってからも、僕達はこの部屋で待機していた。
しかし、|永遠《エンダー》さんは憔悴し切ってしまっているし、てふてふさんも、若干頭痛がする様で、頭に手を当てていた。
彼女達の「過去を思い出した」という発言が脳裏に過った。
一体過去に、何があったのだろうか。
そんな事を考えていると、突如として再び銃声が鳴った。
てふてふ「アイツら···やりやがった!!」
てふてふさんが、険しい表情をして言う。
クロウ「ど···どうしたんですか!?」
てふてふ「君は暗闇に目が慣れてないから見えないか···。あ、気にしなくていい。それよりあの荒らし共、奏者に向けてショットガン放ちやがった···!!」
てふてふさんが言った言葉は、衝撃的なモノだった。
奏者さんが···撃たれた···?
一気に不安になる。
クロウ「大丈夫なんですか、それ···!!」
てふてふ「普通のピーポーなら、まず助かんないかな。クロウ、君、ショットガンって知ってる?」
急に質問された。
いや、銃の種類分からないんですけど···
クロウ「い···いや···。」
てふてふ「へぇ···。いい?ショットガンってのは、散弾銃のコト。あんな近距離で放たれたら、間違いなく普通のピーポーの頭はフキ飛ぶね。」
けっこう残酷な事を、表情一つ変えずに言っている。
クロウ「じゃあ、奏者さんは···。」
―死んじゃうんですか!?
そう言いかけて、口を閉ざした。
暗闇であるはずの店内に、1つの赤い光が灯ったのだ。
それも、ルビーの様な美しい輝き方ではない。
血の様な赤黒い色が、鈍く光っていた。
クロウ「あれは···?」
てふてふ「あの感じだと···仮面にヒビでも入ったかな。奏者、あの仮面気に入ってるからなぁ···」
独り言の様に呟いているてふてふさん。
すかさず僕は、どういう意味か質問する。
てふてふ「ん?あぁ、そう。奏者はね、大切にしているモノ···つまり、あの仮面とか、仲間とか。それが傷付けられるとめちゃくちゃキレるの。んで、あんな風に、普段は見えない左目に光が宿る。」
左目が見えない?
視力が弱かったりするのだろうか。
でも、あの仮面、左目しか見えない構造になってなかったか?
てふてふ「あの仮面さ、右側がスモークガラスみたいになってるんだよね。だから一応、外の景色とか分かるらしいよ?」
心が読まれたかの様に話しを続けるてふてふさん。
じゃあ···。
クロウ「"普段は見えない左目"って、視力が弱い···とか?」
その質問の返答は、またしても衝撃的だった。
てふてふ「いや···。"全く"見えないらしい。昔、大怪我をして···その···失明、したんだ。」
失明···。
やはり魔軍には、|惨憺《さんたん》たる過去が存在する様だ。
一体何があったのか。
彼女達は何故、此処に来たのか。
―すごく気になる。
その時、聞いた事の無い異様な音が鳴った。
てふてふ「あ。」
てふてふさんが、意味深そうな声を上げる。
そして次の瞬間···。
店内は光を取り戻した。
|永遠《エンダー》さんが一目散に駆け出して、奏者さんの所へ行った。
他のお客さんも全員無事の様だ。
···あれ?
何かがおかしい。
クロウ「···荒らしは···?」
そう。
さっきまでいた荒らしの姿が何処にも無いのだ。
てふてふ「全員、奏者が描いたブラックホールに呑み込まれて消えたァ。」
クロウ「···え。」
そんな事もしちゃっていちんですね、魔軍って。
奏者「てふてふ |永遠《エンダー》 それに えっと ク···くろう、さん!! 全員 無事。 よかった!!」
奏者さんは、手をパタパタとさせて喜んだ。
そんな彼女に、思い切って尋ねる。
クロウ「あ、あの!!皆さん···過去って···何があったんです···か···?」
最後の方の声が小さくなってしまった。
一気に空気が重くなる。
マズい事聞いちゃったかな···。
てふてふ「···君、そんなに知りたいの?魔軍の過去が。」
僕はゆっくりと、首を縦に振った。
てふてふ「···そう。じゃ、教えてあげる。」
クロウ「えっ?」
てっきり、ダメなのかと思っていたが、アッサリ許してくれた。
|永遠《エンダー》さんが、1枚の紙を渡す。
|永遠《エンダー》「僕達のギルドの場所、そこに書いてるからさ。明日でも来てよ。」
クロウ「あ、ありがとう!!」
奏者「今日 もう 遅い。 みんな 帰ろ!!」
ふと時計を見ると、よる10時を過ぎていた。
てふてふ「んじゃ。また明日ね〜。待ってるから。バイバイ♪」
僕と魔軍は別れを告げ、各自の家へと歩き出した。
てふてふ過去解明まで
あと3話