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    夏に現れたきみへ2
    
    
    
    第二章「秘密基地の夕暮れ」
 夕焼けが落ちていく空の下、陽翔は澪に連れられて、学校の裏手にある林道を歩いていた。
 誰も来ないような草むらを抜け、くぐるようにして辿り着いたその場所は、まるで時間から取り残されたような、不思議な静けさに包まれていた。
「ここ……誰にも言ってないんだ。風間くんになら、教えてもいいって思った」
 秘密基地、と彼女は言った。
 廃れた物置小屋と、そこから見える西の空。ひとけはないけれど、そこだけが色づいている。
 陽翔は目を細めて、空を見上げた。
 澪の横顔が、夕日を浴びて金色に染まっている。
 澪はぽつりとつぶやいた。
「風間くんって、いつも誰かのこと、ちゃんと見てるよね。自分のことより、周りのことを気にしてるっていうか……」
 陽翔は少し驚いて、でも笑ってみせた。
 それは、“優しい人”の仮面だったのかもしれない。
 本当は、自分なんかが誰かの幸せに触れていいのか、わからなかったから。
「俺さ……昔、親が事故で死んだんだ」
「俺の代わりに。……庇ったんだよね。俺がぼんやり道に出て、それで……」
 風が一度、二人の間を吹き抜ける。
 それでも、澪は何も言わずに、静かに彼の隣に腰を下ろした。
 そして一言、こう言った。
「……私も、誰かの代わりに生きてる気がしてたよ」
 沈黙が、二人の過去を包み込んでいく。
 でもその沈黙は、なぜか、あたたかかった。