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第6話:お祭り
馬車が付いたのは、もう夕暮れ近くの時間帯だった。
今日は、王城にも近い玄破師匠のご自宅にお泊りするとのことで師匠の奥さんに「弟子です!」と伝えたら、「可愛いお弟子さんができておばあちゃん嬉しいわ!」と言われた。
優しそうな人で何よりだ。
ちなみに、師匠のお嫁さんの事は鈴音おばあちゃんと呼んでいいと言われた。
なんでも、娘や息子たちがなかなか会いに帰ってきてくれなくここで過ごす数日でいいから孫代わりになってほしいとのことだった。
私としては、優しい人なら大歓迎のためその話を承諾した。
荷物も自分の部屋に置きメイド服のまま出発しようとすると、鈴音おばあちゃんが引き留めてきた。
「このはちゃん、まさか…その格好でお祭りに行くの?」
「うん?お祭り?私、温泉に行くって聞いたんだけど…。」
「あら、そうなの?でも、せっかくなら今お祭りやってるし一緒に見に行ってみればいいんじゃない?」
鈴音おばあちゃんにそう言われ、温泉の事をすっかり忘れた私はお祭りの準備に取り掛かることにした。
その間に、フミや棗にお祭りに先に行くことを伝えるとすでに行く準備ができていたようであとは私待ちらしい。
「じゃあ、私の昔の服を貸してあげるわ」
鈴音おばあちゃんがそういうと、私は奥の部屋に連れて行かれ服を着替えさせられた。
その時に、服について色々聞くと私が今まさに着させれれている服は和服と言うものらしく女性は綺麗に着飾り男性はかっこよく着飾るものだという。
私は、動きやすさ重視で言うならば巫女服の上着に内側に黒いシャツとミニスカという現代風和服?みたいな服装になった。
髪型は、サイドで編み込みをしてポニーテールで縛った感じだ。
白と黒の上下別れのツートンカラーな髪がいい感じの味を出しているのか、鈴音おばあちゃんもフミも棗も可愛いと言ってくれた。
嬉しい…。
「お小遣いよし!鞄よし!行ってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい。ほら、貴方も」
「!?」
「師匠、無理しなくて大丈夫ですよ!」
無言で手を振っていた師匠に鈴音おばあちゃんが無茶ぶりをしたせいで驚いた顔でこっちを見てきたからすかさずフォローに入った。
「ま、まぁ楽しんで来い…」
恥ずかしそうにそういう師匠に内心ニヤつきながらお祭りへと出かけた。
「そういえば、このお祭りって何のためにやってるの?」
「確か、この温泉街の100周年記念だったはずです」
100周年…。
「凄い前から温泉街ってあるんだね…」
「そうですね、今の魔王様が人と起こした戦争の途中で軍人を癒すために作ったと言われています」
温泉って、なんか凄い身体温まるもん。
そりゃ、軍人にも愛されるよね…。
「このは、これは一軍人としての余談だがな…初めの頃の温泉は魔王様が魔法で作ったせいでお湯がマグマみたいに暑かったんだが…上からの命令でその温泉で死にかけたやつが多数いた…。ちなみに、俺もその一人だ。」
急に、フミが話し出したと思ったら温泉での恐怖話を聞かされた。
「え、フミって100年以上生きてるの!?」
正直、温泉で死にかけたという話よりもその見た目で最低でも100年以上生きているという事実のほうが驚いた。
「…、言ってなかったか?」
「うん、聞いたことない」
「このはを迎えに行った全員100を軽く超えてるぞ?俺は、今年でたしか…154になるはずだ」
私は、絶句した。
自分より小さかったつむぎちゃんやななちゃんですら私より年上という事実に…。
「大丈夫ですよ、100年なんて直ぐですから」
「人間の私は100年経ったらお陀仏なんだけどね!?」
なんだかんだ、話しているとお祭り会場についた。
そこには既に多くの人がいて私のようなお祭り服を着てる人も居れば貴族のような礼装の人もいる。
さらに、殆どの人に人間とは違う角や羽、尻尾等が付いていて本当に魔族の国に来たのだと実感した。
「まずは、何から遊びますか?」
「うーん、おすすめは何?」
「そうですね、射的などはどうでしょうか?あとは、温泉街名物の舞等も魅力的ですよ」
ふむふむ、舞に射的…。
「じゃあ、射的から順繰りまわってこ!」
「ああ」
「承知しました」
射的屋につくと、そこには魔力量で威力の変わる魔銃と商品、そして点数の書いてある的が置いてあった。
「お、嬢ちゃん射的やっていくかい?一回銅貨10枚だよ」
店主さんが、そういうと棗が直ぐに銅貨30枚を渡した。
どうやら、二人もやるようだ…。
「ルール説明はいるかい?」
「うん、お願い」
「ルールは簡単、そこにあるコルク球を銃の先端…銃口って呼ばれるところに入れて魔力を込めて打つだけだ。ただ、嬢ちゃん達に渡すものは玩具の魔銃だ魔力を100でも込めれば壊れちまうからそんなに込めすぎないようにな」
「はーい!」
魔力は込めすぎない、よし覚えた!
「弾を込めて、魔力も入れたら引き金を引いて的に向かって打つだけ。的がこんな風に倒れれば横に置いてあるポイント表に倒した分のポイントが記入される。最終ポイントの合計数に応じてもらえる景品が変わるからポイントの高い的を倒すことをお勧めするよ、質問とかがあれば今聞いてくれ」
質問の前に、的について説明しよう。
上に行けば行くほどポイントが高くなる三角形の構造の的で、下の方は多分木でできてるが、一番高いポイントは金属…それもとても固いもので作られているとおもう。
色がそれだけ違ったし…。
で、倒れたらいいっていうのも気がかりだ…。
店主の撃ち抜いた的だけ、跡がたくさんあったことを考えるとあそこだけが倒しやすいのか…それとも、あそこ以外は倒れないのか…。
他の部分も狙われた痕跡はあるが、倒れたような雰囲気はない。
不正を働いていると考えるのがいいだろう。
まぁ、楽しめればいいから関係ないのだが…。
それにしても、質問か…。うーん、そうだ…。
「あのでっかい人形とかは何ポイントでもらえるの?」
「あぁ、犬のぬいぐるみか?あれは、100ポイントだ。他に質問はあるか?」
「個人で100ポイント取らないともらえないの?」
「あぁ、チームゲームじゃないからなこれは…」
個人ゲームでポイント制、一番ポイントの高い人に最後倒させればいけそうな気がするけど…。効率が悪いな…。
「じゃあ、最後に…もし嘘ついてたら、どうするの?」
「そんな事は無い!」
よっぽど自信があるのか…。
「ありがと、じゃあ始めていい?」
「あぁ」
こうして、不正射的が始まったのだった。
弾数は20発。
3人でやるから、計60発。
魔力は…あれ?100以上入れても大丈夫なんだけど…。
…もしかして、あの店主そんな序盤で嘘つき始めてたの?
壊れそうになる直前までゆっくりと魔力入れてみようか…。
………
……
…
おう、これは…。
魔力最高量は多分、1300くらいだ。
流石に壊してはいけないから、正確な量は確認できないけど…。
しかし、この数値は座学で習った魔力銃火器…略称:魔銃に近い数値を叩き出している。
つまり、これが玩具っていうのも嘘か…。
本物を持ったことのある二人は、それにすぐ気が付いたのか目の色が変わっていた。
多分フミは、心置きなく打てるとでも思っていそう。
棗は、今までの感じから冷静にどこを撃ち抜くのか考えていそうだ。
しかし、鉛玉ではなくコルクを魔力で発射…。
座学で習った、非殺傷弾と同じ感じだろう。
しかし、コルクであの鉄っぽい的は倒せるのだろうか?
多分、コルクって非魔導製品…。つまり、魔力通りにくいものだろうし…。
無理な気がする。
いや、ひ弱になっちゃだめだ!
私は、あれを撃ち壊す事ができる!
魔力充填1200、魔力伝導率…多分皆無!!
でも、魔力で押し出せば…。
ーキーン
鉄とコルクでは絶対にありえない音が鳴り響いたが…やはり、1発では一番上の的は倒れなかった。
じゃあ、もう一発…。
「ちょ、ちょい待て!お嬢ちゃん、あんたその魔銃にどれだけ魔力をつぎ込んだんだ!」
弾を装填中に、店主が私の射撃を遮ってきた。
その顔には、驚き…というよりも、焦りが現れていた。
多分、”普段なら感じない”異常な魔力を感じたからだろう。
「なにか、問題でも?」
「ルール上、100以上は入れちゃダメ!これは絶対だ!」
「始めに、これは玩具だから100以上は入れられない…そういったよね…。でも、この魔銃…1300近い魔力を挿入できた…。つまり、店主さん貴方は嘘をついたんだ」
「うぐ」
私の言葉に店主は苦虫を噛んだかのような顔をした。
「そういえば、店主さん…貴方、さっき言ってたよね?嘘はついてないって…さて、嘘が一つ見つかったけど…どうする?」
私の言葉に心が傷ついたのか店主の顔には怒りが浮かんでいた。
「だ、黙れ!!」
そう店主が叫ぶと、魔銃を私に向けてきた。
慣れた手つきで、魔力装填を行い引き金に手をかけた。
その時だった…。
「店主…いや、犯罪者。そこまでだ…。」
殺気が駄々漏れのフミが店主の頭に銃を突きつけていた。
多分、店主が引き金を引くよりも早くフミが発砲するだろう。
「店主さん…私を殺して最悪の刑にかけられるか…自首して軽い刑を受ける…。それとも、今すぐあの世へ走っていく…さぁ、どれがいい♡?」
すごくドキドキして、胸が高鳴る。
もしかしたら、今この瞬間に命の灯が消えるかもしれないというのにゾクゾクしてままならない。
あぁ、愉しい!
その後店主は自首を選び警備員に連れていかれた。
正直、店主が自首を選んだ時…胸が少し満たされなかった。
もし、私を殺すことを選んでいたら…もし、彼が死を選んでいたら…私の心は満たされたんだろうか?
そんな疑問が残りモヤモヤした感情だけが私を包んだ。
ちなみに、店主はその後…裁判で詐欺罪として鉱山で4年強制労働となった。
お読みいただきありがとうございました!
今回のお話はどうだったでしょうか?
ぜひ、応援コメントなどを送ってもらえると幸いです!
それでは、また来週~