公開中
怨恨ノ京 #3 おいでやす、大納言一家
結構、宇京は昨夜、左夜宇の家で寝ることになった。
意地を張ったとて、あんな事になったのだから。
「ふん!頼まれたから寝てやったんだよ!」
しかし、その意地っ張りは変わらなかった。
それを面白そうに見ているのはかづらだ。
宇京のような強い少女に心惹かれるらしい。
「やっぱり、宇京ちゃんは強いね〜。それに比べて左夜宇は、頼り甲斐がないんだから」
自分の弟を非難するのもまた、かづらのパターンだ。
「姉上!いつも姉上は他人事の様に…!」
そんな微笑ましい姿を影から見ていたのは、直井だった。
そして直井は、あれからいろいろ思い直した。
数日前の騒動で、なんとなく宇京の発した言葉にしんみりしていたが、あれを言ったのが今の宇京だとは信じ難い、というころである。
なんせ、ずっと偉そうに左夜宇を見下しているのだから。
身分上で言えば左夜宇の方が天にもの登るほど、宇京の何百倍もある。
それを、宇京の性格だからと受け入れる左夜宇一家の心の広さを、改めて感じたのもまた、直井だった。
そして、そんな左夜宇達にも、ひとつの雷が落ちる。
「これ、騒がしい!」
雷声で、派手な登場をしたのは左夜宇の父・|大納言《だいなごん》。
大納言とは、位の一つで、太政官の次官(二等官)であり、正三位と公卿にも入るほどの身分である。
そしてかづらと左夜宇ましてや直井までも、雷声を聞きため息をつく以外なかった。
宇京は何やらめんどくさそうに振り向く。
(変な奴が来やがった…)
大納言はドンとすまして、向かうところ敵なしとでも言うように胸を張った。
宇京を見つけると再び餌を求める鯉の様に大きく口が開く。
「なんじゃお前は!」
「あんたこそ何よ!」
宇京はこの偉そうな男が、左夜宇の父であり、大納言であることをまだ知らない。
「いい度胸をしているな。その分際で」
「あんたも、なかなかやるじゃないか」
二人はしばらく睨み合って、ニヤリと口角を上げた。
「え…」
「左夜宇、今日の父上なんか変じゃない…?」
左夜宇とかづらは二人の睨み合いに見入っていた。
いつもは、「おはようさん」と言って、ムカムカときびすを返す父が、宇京と数秒見つめ合っていることが、かづらと左夜宇には不思議でたまらない。
自分の子でさえまともに目を見ようとしないあの父が。
しばらくすると、大納言は豪快に笑って、鼻息ひとつを鳴らし、ガハガハと帰って行った。
「なんだあいつ」
「宇京ちゃん、あれ、私の父上よ…」
「ええ!それ本当か?だって全然似てねえし!」
今更だが、宇京は慌てて、微かに見える大納言の後ろ姿と、かづら、それから左夜宇を順に見渡して行く。
「嬉しいような嬉しくないような、ですね…」
宇京の言葉に左夜宇が苦笑いしながら言う。
「それでもすごいわね、宇京ちゃん。あの父上によくも目を合わせることができて…」
「合わせられないのか?」
宇京が少し見栄を張って笑う。
大納言一家は実に賑やかで楽しいものだ。
しかしそんな中、宇京は心の中で、泣き宇葉を思い出し、かづらに照らし合わせる。
性分がここまで似ているのだと、改めて知った。
唯一、宇京が尊敬する人物が、今ここにいる様だ。
不意に、何かが込み上げてくる。
事情を知っているかづらは、宇京のわかりやすい感情の変化が現れる表情を察して優しく言った。
「いつでもおいでやす。大納言一家へ」
エッヘン by威張る大納言
何馬鹿やってんだよ、、、by遠目宇京