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夜の風は嫌いなはずだった_1話
はい!と言うことで,皆様にご報告があるのですがよろしいでしょうか?
実は私,シリーズ系は毎日投稿しているのですが投稿日数を減らすかもしれないというご報告です。
もちろん絶対減らすと言うわけじゃないんですが...。
自信のなさもあるけど,すぐにストックが亡くなったりして忙しくなるからというのもあります。
それと,自主企画でイベントでもしようかなって思ってます!
イベント内容はまだ決まってないのですが,
小説や詩,歌詞など自分の才能や努力を使ったイベントにしたいなと思っております。
皆様に楽しんでいただけるようなイベント(企画)にできたらなと思ってます。
↑のような無駄話は置いといて「夜の風は嫌いなはずだった」をぜひ楽しんで読んでください。
(内容的に楽しめるかはわかんない!)
※ねぇ,今回の小説本文の文字数...まさかの2805文字!
それは、かつて愛する人々の体温を奪い去り、私の世界から色彩を塗りつぶした冷たい記憶の断片だからだ。
私が八歳のあの日、兄を病魔が連れ去り、続いて両親を不慮の事故が奪った。
その瞬間、私の中の「感情」という名の歯車は音を立てて壊れた。
以来、私は自分の心に何があるのかを知らないまま、ただ空虚な器として生きている。
学校では、周囲に合わせて完璧な仮面を被ることに慣れていた。
誰かに声をかけられれば、反射的に口角を上げ、用意された台詞を紡ぐ。
それは演技であり、偽りだ。
しかし、その嘘を見抜いている者がいることに気づいたのは、ある放課後のことだった。
優花「先輩ですよね、どうかなさいましたか?」
私が向けた完璧な笑顔に対し、目の前の少年――夏希は、どこか切ない眼差しを向けていた。
彼は学校でも有名なアイドルであり、常に人々に囲まれているはずの彼が、
なぜ私に声をかけたのかはわからない。
しかし、それから一ヶ月。彼は毎日、当たり前のように私の元へやってきた。
そして今日、その一ヶ月が迎えた日。
校舎の屋上へと続く階段の踊り場で、夏希は立ち止まり、静かに問いかけた。
夏希「ねぇ、なんで無理に笑ってるの?」
心臓が跳ねた。私は戸惑い、いつものように微笑もうとした。
優花「え? どういう……」
夏希「ずっと笑ってるけど、その笑顔とかって嘘でしょ? 俺にはわかるよ。優花ちゃんだっけ? もしよかったら俺の第2ファンにならない?」
あまりにも唐突な提案に、私は思考を停止させた。
アイドルとしての彼なら、熱狂的なファンを求めるのは当然のことだろう。
しかし、彼の瞳には執着ではなく、切実なまでの「救済」の意志が宿っているように見えた。
優花「第2ファン?」
夏希「そうだよ。第1ファンは譲れないからさ。俺、絶対優花ちゃんのこと笑わせたげる。自分の感情に嘘つくなら俺が何があっても優花ちゃんを笑わせたりするから」
その言葉には重みがあった。
彼はただのアイドルではない。
彼もまた、失ったものへの痛みを抱えながら、誰かのために輝くことを選んだ人間なのだと気づかされた。
私は思わず、張り詰めていた糸が緩むのを感じて、小さく笑った。
優花「ふふ。なんですか? それ。そこまで言われちゃうと本気でファンになっちゃいますよ?」
夏希は一瞬だけ目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。
彼の手元には、大切に保管されている一枚の手紙があることなど、私は知らない。
夏希が九歳の時、病で亡くなった友人が遺した言葉,
「僕の代わりに夢を叶えてほしい」という切実な願い。
彼はその重圧と責任を背負いながら、今この瞬間、私の前に立っているのだ。
二人の間に流れる空気は、夜の風よりも穏やかで、それでいて熱を帯びていた。
夏希「……約束だよ。君が自分の心に嘘をつくのをやめた時、一番近くで見守らせてもらうから」
彼はそう言って、私の手を取った。
その手の温もりは、私が失ったはずの記憶を呼び覚ますかのように熱かった。
私は初めて、偽りの笑顔ではない、本当の「何か」が胸の奥で揺れ動くのを感じた。
夜風はまだ冷たい。
けれど、隣に立つ彼の体温があれば、もう震えることはないのかもしれない。
私たちは屋上の扉を開けた。
そこには、星の輝く空と、夜の静寂と冷ややかな風が2人を包み込み、
これから始まる新しい約束の時間が広がっていた。
私は一歩踏み出し、視界に広がる夜景を見上げた。
街の灯りは宝石のように散りばめられ、遠くで鳴る車の音さえも、
この場所では穏やかな子守唄のように響く。
かつて、私はこの風が嫌いだった。
肌を刺すような冷たさが、失った人々の体温の欠如を思い出させるからだ。
しかし今、隣に立つ夏希の存在が、その寒さを僅かな熱へと変えていた。
優花「……本当に、約束してくれるんですね」
私は彼の手を握りしめたまま、消え入るような声で呟いた。
自分の内側にある空虚な器に、初めて小さな雫が落ちたような感覚があった。
それは悲しみでも喜びでもない、ただの「熱」だった。
夏希「当たり前だよ。俺は嘘つきじゃない。君を笑わせるって決めたんだから、絶対にやり遂げる」
彼は私の手を取り、力強く握り返した。
その手のひらからは、彼が背負っているものの重みが伝わってくるようだった。
アイドルとしてステージに立つ彼の輝きは、単なる虚栄ではない。
それは誰かの遺志を継ぎ、届かなかった夢を代行するという、切実な使命感から来るものだ。
夏希「優花ちゃん、君の笑顔が偽りだって気づいた時、正直……少しだけ悔しかった。もっと早く、君の本当の顔を見られたらよかったって」
彼は視線を夜空へと移し、自嘲気味に笑った。
その表情には、完璧なアイドルとしての虚飾など微塵もなかった。
ただ一人の少年として、孤独と向き合っている男の素顔があった。
優花「……私なんて、何も感じないんです。感情が壊れてしまったから、どう笑えばいいのかさえ分からなくなって……」
私は溢れ出しそうな言葉を飲み込んだ。
彼にだけは、この絶望的なまでの空虚を打ち明けたいという衝動と、それを拒む防衛本能がせめぎ合う。
しかし、彼は私の震えを察したように、さらに強く手を握った。
夏希「いいよ、今は何も感じなくていい。無理に笑わなくていいし、無理に何かを感じようとしなくていい。ただ、俺の隣にいてくれればいいんだ」
彼は一歩近づき、私と視線を合わせた。
その瞳には、かつて彼が受け取った手紙と同じような、切実な祈りが宿っているように見えた。
夏希「君が自分の心を取り戻すまで、俺がずっと隣にいる。それが『第2ファン』としての役割だろ? 僕は君の物語を一番近くで見守る。……だから、もう一人で震えなくていいよ」
その言葉は、私の凍りついた心を溶かす熱を帯びていた。
私は初めて、自分の頬を伝うものが涙なのか、それとも夜風のせいなのか判別できないまま、小さく頷いた。
優花「……はい。約束です。私を見守ってください」
私たちはしばらくの間、何も語らずに夜空を見上げた。
遠くで鳴る鐘の音が響き、私たちの間に結ばれた新しい約束が、静かに刻まれていく。
夏希「あ、そうだ。一つだけ言っておくけど……俺の第1ファンは譲らないからね」
彼が茶目っ気を込めて笑った瞬間、私は思わず吹き出した。
それは偽りの笑顔でもなく、演技でもない。
私の胸の奥で、ずっと眠っていた何かが動き始めた証だった。
優花「ふふ……わかってるわよ。そんなこと、最初から言わなくても」
夜風はまだ冷たい。
けれど、隣に立つ彼の体温があれば、もう震えることはないのかもしれない。
私たちの物語は、この屋上の静寂の中で、ようやく最初のページをめくったのだ。