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4.聖女様は人気
「ミア様―! 今日も来ましたよ~!1」
せっかく敬語が外れていたのに、今日は先生は敬語のようだ。
このまえは興奮するようなことがあったからなのかな?
出来れば今日も普通に話してほしかった。
まだ、どんな話し方をすればいいのか分からなくて、敬語でずっと喋っちゃっている私が言うのも何だけど。
「先生、今日も孤児院に行く予定なので、準備をよろしくお願いします」
「ん? そのことなら聞いていますよ、ベノンが教えてくれましたから」
なんと!
どうやらベノンは魔法の才はなかったとはいえ、他のことは優秀なようだ。
「そうですか、それでは行きましょう」
「はい! ……ああ、今日は傷だけでなく病気の治癒も見られるかもしれない! なんと幸せなんだろう!!」
先生は何やらぶつぶつ呟いているが、楽しそうなので良しとしよう。
孤児院は、昨日よりも騒がしい様に感じた。
みんな楽しんで遊んでいるのかな?
そんなことを思っていたら裏口から通された。
なんでだろう?
「こんにちは~、連絡しておいた聖女のサナです」
「サナ様ですね、お待ちしておりました。裏口から来てくださったのは助かりました。ありがとうございます」
どういうことだろう?
「あなたは?」
それよりも、今日は孤児院の院長ではないようだ。
「失礼いたしました。私はこの孤児院の一番年上で、エリーゼと申します。といっても、もうすぐ成人するので、ここから離れることになるんですけどね。普段は院長の代わりをしたりしています。以後、お見知りおきを」
「……」
同い年ぐらいにしか見えない。
なのに、もうこんなしっかりとした仕事を任されているの?
すごいなぁ。
……あっ
「エリーゼは孤児院を出た後働く場所は見つかっていますか?」
「いえ。それがどうかしましたか?」
「私の手伝いをする気はありませんか? ベノンにいろんなことを任せきりにしちゃっているので、誰か欲しいなと思っていたんです。もちろんタイミングは成人してからで構いませんから、考えてみてください」
「私に……ですか?」
「そうですよ」
「願ってもいない提案です。院長と話し合ってからになりますが……出来るだけ早くそのご期待に応えられるように頑張ります」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼが仕事を手伝ってくれるなら、本当に助かる。
「あの……」
「ベノン? 何かありますか?」
「ミア様にただいま侍女がおられないので、この者に侍女を任せることは出来ないのでしょうか?」
「侍女? 別にいりませんよ?」
「いえ、これはミア様の問題ではありません! 聖女様に一人の侍女もいないとなれば責められるのはこちらです! どうかお考え下さい」
「エリーゼは? どう思っているのですか?」
「その方が都合がよいのでしたら構いません」
「だったら……不本意ですけど、エリーゼは侍女として雇うことにしましょう。エリーゼ、引き受けてくれてありがとう」
「勿体ないお言葉です」
ほんとにこの子孤児出身?
孤児院だったらなめられることも多いからそれを任されるということは実力は結構あるのかな? とは思っていたけど、ここまですごいなんて……
誰が教育をしたんだろう?
気になるなぁ。
「ミア様、もうすぐ行きませんと」
「あ、そうですね。エリーゼ、案内をお願いしていいですか?」
「はい」
「それにしてもどれくらいの人が来てくれたのでしょうね? そんなに病院で治せない傷なんて少ないと思うんですけど……」
「きっとミア様が想定している10倍以上の人数がいますよ」
「10倍? まさかベノンは200人以上もくると思っているのですか!?」
「はい」
うぅぅ……
なんかぞわぞわする。
この喧噪って、さっきは子どもたちが遊んでいるからだと思ったけど……まさかね。
急いでその考えを振り払う。
が、その想像の通りだった。
「あの水色の髪の子かな? ミア様というのは」
「なんか神々しいなぁ」
「美しい……!」
「まあ、可愛らしい子ね」
「あのおねえちゃんがせいじょさま?」
「多分ね」
うん。どうやらいろいろ言われているようだ。
「ミア様、ここにどうぞ」
そうエリーゼから椅子を貸されたんだけど。
その椅子は、孤児院で一番かそれぐらいに高いものじゃないかな? そんな気がする。
これ、壊したら怒られるよね。
別の椅子が欲しいなぁ、とエリーゼを見るも、早く座ってください、とばかりに待っている。
表情がそこまであるわけでもないのになんでそんなに伝わってくるのかが分からない。
エリーゼは不思議な人物だ。
椅子に関しては諦めて座ることにする。
「このけがをなおしてください」
始めにいたのは女の子だった。
顔には火傷のような怪我がある。
痛そう……
「光——汝の糧になれ」
そうするといつも通り、白い光が現れて傷がきえていく。
「うわぁ! ありがとう、せいじょさま! おかあさん! なおったよ!」
「よかったわね」
「俺は持病があるんだが、治してもらえるか、いや、治してもらえますか?」
「試してみないと分かりませんが。ちなみにどこら辺が悪いかは想像がつきますか?」
「そうだなぁ、ときどき呼吸が苦しくなるんだよな」
呼吸? ということは肺かな?
肺だったらこれも怪我の範疇でいいよね?
「光——汝の糧になれ」
どうだ!
無事、白い光が生まれてくれた。
「ありがとうございます! 治った気がします!」
「それはよかったです」
いいことなんだけどね。
列を見ると、先ほどよりも増えている気がする。
「この傷は病院で治療してもらってくださいね」
「そんなぁ……」
ときどきは、こんな人も現れる。
だけど、概ね上手くいっていると思う。
「はぁ……疲れました……」
魔力の限界が来たので、今日はこれにて終わることにする。
一体何人に聖魔法を使ったのかは、数えたくない。
「私は満足いくまで見れました!! ……病気はなかなか見れなかったけど」
「聖女の力とはすばらしいものなのですね」
どうやらエリーゼも先生の仲間入りを果たしたようだ。
誰か私の見方になってくれないかなぁ。
「では今日の反省会でも、神殿に戻ってすることにしましょうか?」
「え?」
「もっとうまくできるようにならなくちゃいけませんからね!」
「はい……」
そして、昨日と内容は違えど、同じような悪夢が待っていた。
指摘がちゃんと当たっているから、怒りはぶつけようがない。
「明日は休んでもいいですか?」
「んーまあいいんじゃないですか? 慣れないことをして疲れているでしょうしね」
先生の承諾は無事に得られたことだし、明日は一日中ごろごろして過ごそう。
そう思っていたんだけど、その目論見ははずれ、本を読まされることになってしまった。
本なら別に嫌いじゃないからいいんだけど、これも聖女とか魔法に関係する本だった。
そして、地理に関係する本や、神話に関係する本もおかれた。
一体どれから読めばいいわけ?
このときは本当に困った。
まずは、神話を読んで、魔法の本も手に取ったけど、先生の方が分かりやすかったからあきらめた。
そして、一日は過ぎる。
ちなみに神話は今のところ、物語の進行に関わらない予定です。
(変更する予定もあり)