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夏の幽霊
アゲハ
--- 「僕はもう死んだんだ。」 ---
君の声が耳の中で響く__
太陽が照りつけるある夏の日、私の彼氏が交通事故で亡くなった。私はその事実を信じられずに夜中もずっと彼を探していた。
「彼はもうこの世にはいない」
「君が健康に生きてくれた方が嬉しいだろう」
友達も家族も、皆そんなことを言う。でも彼は死んでなんかない。きっとどこかに隠れてて私を驚かそうとしてるんだ。そう信じて何回も学校中の教室をまわって隅から隅まで探した。登下校中も、彼がひょっこりとその角から出てこないか、と淡い期待をして何度も振り返った。
今日も、学校の花壇の側で彼を探していると、後ろから不意に声がかかった。
「僕はもう死んだんだ。」
「……え?」
振り向くとそこには彼がいた。でも、足や指先が透けて後ろの花が見える。彼がもう一度、私の目を見て繰り返す。
「僕は、もう…」
あぁ、やっぱり。心のどこかでは彼はもういないって分かってた。でもこうして探していればいつか会えるんじゃないかと期待したかった。
けれど__
「やっぱり、死んじゃったんだね。」
私はやっと、彼の声で真実を受け入れることができた。彼は、
「ごめんね。もう僕のことはいいから、僕を忘れて幸せに生きていてほしい。」
と辛そうに言う。その言葉を伝えるのが辛いのだろうか。この世に残っていることが辛いのだろうか…。
数秒の沈黙のあと、
「うん、分かった。」
弱々しく私は頷く。そんなこと言いたくない。本当は忘れたくなんてない。
でもここで頷かないと、優しい彼はずっと心にとっかかりのあるままになってしまうだろうから。
彼と付き合ってからは楽しい思い出ばかりが増えていった。でももう、そんな思い出も増えることはないと思うと。
「あれ…、」
今になって涙が溢れ出してくる。できることならずっと側にいたい。私は、彼との別れがこれ以上辛くならないように、上を向いて涙をこらえる。
「強がらないで。泣いてもいいよ。」
彼が優しく、今にも消えそうな声で言う。彼はもう消えてしまうんだと思うとどうしても涙は止められない。
最後にあなたの温もりを感じたくて、抱きつこうとしたけど、私は彼の体をすり抜け、花壇に倒れ込んだ。そのせいで花びらが舞い上がった。その様子がなんだか彼が空に消えてゆくように見えて。
彼が消えてしまう前に言わなくちゃいけない事が、最後に一つだけ。
「いつかは終わる恋でも、貴方に出会えてよかった。」
そして、彼は微笑みながら消えてしまった。
ごめんね、笑いながらばいばいって言えなくて。ごめんね、嘘ついて。君との時間、やっぱり全部覚えておくよ。