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白の膨張
窓を開けると、ぬるい秋風が部屋の中に滑り込んできた。
厚手のカーテンを押し退け、白いレースの布地が大きく波打つ。まるで生き物が大きな息を吐き出すかのように膨らんでは、頼りなく|萎《しぼ》んでいく。
机の上で広げられたままのノートの端が、パラパラと軽く音を立てた。
ここ数日、ずっと部屋に閉じこもって何かを描こうとして白い紙を前にすると指先が固まってしまう。
部屋の中に満ちていた澱んだ空気が、風によって少しずつ外へ追い出されていくのを感じながら、ぼんやりとそのカーテンを見つめていた。
風には、匂いがある。
どこか遠くの街角で誰かが干した洗濯物の匂い、遠くの街並みを包む湿った空気の気配、そしてかすかな青くささ。
窓の外に広がる世界は、自分がここで立ち止まっている間も、変わらずに動き続けているのだと教えられているようだった。
ぽつりと呟いた声は、風にかき消されて誰にも届かない。
けれど、風に揺れるカーテンの隙間から見えた空は、思っていたよりも高くて、透明だった。
膨らむレースの手触りを思い浮かべるようにそっと手を伸ばしてみる。指先に触れたのは、ひんやりとした風の感触だけだったけれど、胸の奥につかえていた重い塊が少しだけ軽くなった気がした。
カーテンが静かに、元の位置へと戻っていく。
深呼吸をひとつして、机に置かれたペンを手に取った。