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箱入り姫と6人の騎士 11
赤都 乃愛羽
禁忌の再会(リバース)〜
「……始めてください。私の命を、彼に」
真っ白な手術室。ちぐは意識が遠のく中で、隣の台に横たわるるぅとをじっと見つめていた。
特殊な保存処置によって、「眠り姫」のように時を止めていたるぅと。その冷たい胸の中に、再び自分の鼓動を還す。
「ちぐ、やめろ! こんなの、るぅとだって望んでない!!」
手術室の外、強化ガラスを叩きながら叫ぶのはななもり。だ。さとみも、ころんも、莉犬も、ジェルも、血の気の引いた顔でその光景を凝視している。
彼らが愛した「国宝級美女」の胸が、今まさに切り開かれようとしていた。
「……いいえ。るぅとくんは、私の心臓になってから、ずっと泣いていたわ」
ちぐは、麻酔が効き始める寸前、ガラス越しの5人に最期の微笑みを向けた。
「みんな。……るぅとくんを、もう一度、すとぷりにしてあげて」
執刀医の手が動き、ちぐの胸から、かつてるぅとのものだった「あの心臓」が取り出される。
一瞬、ちぐの心電図がフラットになった。
ピーーー……という乾いた音が、5人の耳を突き刺す。
「ちぐ……!!」
莉犬が床に崩れ落ち、嗚咽を漏らす。
しかし、奇跡はその瞬間に起きた。
取り出された心臓が、るぅとの胸へと移植された直後。
(ドクン……)
微かだが、確かな脈動。
死に体に近かったるぅとの体が、ちぐの温かい血と鼓動を受け入れ、赤みを帯びていく。
それと同時に、心臓を失ったはずのちぐの胸にも、人工心肺が繋がれ、首の皮一枚で命が繋ぎ止められた。
「……う、……ん……」
数時間後。
先に目を覚ましたのは、黄色の王子・るぅとだった。
彼はゆっくりと上体を起こし、隣で深く眠り続けるちぐの手を握りしめた。
「……ちぐちゃん。……バカですね、本当に」
るぅとの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
自分の命を救うために、命を捨てようとした少女。
恋愛音痴だったはずの彼女が、誰よりも深く、歪で、美しい愛を証明してしまったのだ。
「……るぅと……?」
ころんたちが、信じられないものを見る目で手術室になだれ込む。
「ただいま、みんな。……そして、ごめんなさい」
るぅとは、ちぐの寝顔を愛おしそうに撫でた。
「この子はもう、僕だけのものじゃない。……僕たち全員で、一生をかけて贖(あがな)わなきゃいけない、僕たちの命の恩人です」
ちぐの胸には、もうるぅとの心臓はない。
けれど、彼女を助けるために5人が、そして生き返ったるぅとが注ぎ込む「狂おしいほどの愛」が、彼女の新しい鼓動となっていく。