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〖死怨が嗤う冥土〗
何度も同じ夢を魅る。
赤く灯った提灯の林の中で、黒い狐の面を被った男性が肩を掴んで逃さないと言わんばかりに口説いてくる。
「私は君の傀儡だから。君も私の傀儡だから。
君が好きなようにしたことを私が実現させよう。
君が救おうとしたものを、私が救おう。
永久に続く階段の中で、私が君の手を引いて上へ上へと登ろう」
まだ、足りないのか。
そう考えては勘違いした傀儡に「木偶の坊」と返してあの時と同じように首に手を伸ばす。
幻の類ではない。妖の類ではない。最も神などではない。
腹の底から煮えたぎって吐き戻しそうな不快感ばかりが夢が増える度に感じる。
自らを神だと語る者は、己に溺れているか何かに呑まれているようなろくでもない者ばかりだ。
そもそも、神様は一人だけだ。自分じゃない。
狐に踊らされて喰われた父でもない。どこへでも飛んでいくような母でもない。
ましてや、夢の中の男性でもない。僕は一つのものに縋るような弱者ではない。
欲しいものは自分で手に入れるし、今までもこれからもそうしていく。
だから、首筋に添わせた指に子供を嘲笑うに言い放つ。
「お前の思い通りになんてなるわけない」
狐の面に隠れた瞳がいやに鋭くなったような気がした。
そして、醒める。
父が悲しんで、愛してくれないような罪悪感ばかりが渦巻いた。
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時折、夢と現実が分からなくなる。
大きさの違う細い手と厚い手を重ねては、何度も肌が擦れて熱を帯びる。
私を呼ぶ声が愛しい人なのか、何者かも分からない獣なのかさえ、分からない。
それでも微かな優しさと喰おうとする荒々しさの明確な違いが身体を重ねる度に分かる。
獣に抱かれる筋合いはない。ましてや、名で選ばれただけの可哀想な人に抱かれる筋合いもない。
彼は確かに哀しくて、愛らしくて…でも、彼じゃない。
救けてくれるのは、いつもずっと傍にいるあの人だった。
私は自分で運命を変えて、本当に自由に生きたい。
たとえ、どんなに代償を負ったとしても私とあの人が一緒ならなんだっていい。
血筋や伝統よりも、私らしく、自分らしくありたい。
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黒が基調とされ、いやに古ぼけた表紙に『✵Good Boy ↹ Monster✵』と名前のついた本を閉じた。
閉じた直後に無意識に空いている片手が口元へ動き、大きな欠伸が出る。
窓には二匹の小鳥が朝日の下で鳴いている。
弾けるような音を聴きながら、額に手をやった。
田中栄子は死亡。真宮真緒は失踪。そして、神宮寺朔も失踪。
立て続けに三人が消え、目撃がないというは些か疑問に残る。
少しでも情報がないかと村内の猟師や広報に訪ねてみても何も得られず、奇妙だと感じたのは浜辺にやけに鳥が集まるところを調査したところ、小さく傷ついた白い破片のようなものと肉のようにぶよぶよとしたものが転がっているという情報だけだった。
さしずめ、獣の肉か何かだろうと地元の猟師は口々に宥めるものの、心の底では何かが可笑しいと勘づいている。
何しろ、この周辺には大きな骨を持った魚がいないのだ。
鯨も、|鯱《シャチ》も、|海豚《イルカ》も…食い尽くされたとはいえ、浜辺まで流れてくるほど付近で死んだ魚などいるだろうか。
ましてや、山で死んだ熊や鹿の肉だとしても川から流れて海へ着き、浜辺へ届くなどあり得ない。
明らかに自然の範疇を超えている。人為的ではないと説明がつかない。
誰かが付近の海に近しい場所から正体不明の何か、食品を投げ込み、そこから浜辺へ流れ着いた…しかし、これも予測不能な自然では絶対的ではない。
そうでありながら最近は人を狙う野生動物の被害が増えたと聞く。
どれも浜辺の鳥ばかりだが、海辺付近の葬式場に|烏《カラス》がやけに止まったり、幼児の傍で何かを狙う|鳩《ハト》がいたりする。
人が何も持っていなくても近くで何かを狙っているらしい。
願わくば、何もなければいいのだが。そればかりが現状、できることでしかない。
何もできないものだから、何もしない。ダメだと言うことは分かっている。
それでも立場上、何か行動を起こさねばならない。
才を持つなら有意義に扱うべきという思考が頭から離れないのだ。
額から手を離して、扉を開けた先に蓮が斧を両手で持って突っ立っているのが必然的に視界へ映る。
斧の所持を常に許可した覚えはないが、本人の意向には従うべきだ。
「ああ……どうした…?」
「…畠中家付近の森で、奇妙な気配があったことを修様はご存知ですか」
やけに神妙な顔で言う蓮に何か奇妙な感覚を覚える。一先ずと言われた質問のために言葉を返した。
「いや?特には、何も。軽い安心感があったくらいだ」
「…安心感、ですか?」
「そうだが…その気配って具体的には?」
「…長身の人のような、ものを」
「長身?…180cmくらいか?」
「ええ」
「180cmくらいの身長なら、湊や大和、十綾…ああ、それと記者の上原もだな」
「……仮に記者や当主だとして…何を?」
「森でも探索してたんだろ」
「報告も無しで、ですか?」
いやに引こうとしない蓮に若干の違和感が強くなる。
「その長身が湊なら説明がつくじゃないか。一緒にいただろう」
「……湊殿ではない、別の長身だとしたら…?女性という線もありませんか?」
「村内に180cmの女性はいない。それに、本当にそんな長身がいるなら湊側も見ているはずだ。
相手側が何も言わないのだから、見ていないんじゃないのか?」
「ですが…」
「そんなに言うなら、もう一度見てみるか?」
「よろしいのですか?」
「気になるんだろ、行った方が杞憂も終わるさ」
軽い提案だったが、彼はそれに頷いて視界から遠くへ動いて行った。
動く後ろ姿がやけに釈然としなかった。
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遠くで二匹の赤蜻蛉が身体を重ねて自由に空を飛び回る横、珍しく額に青筋を立てた八代亨が伊鯉と葉狐にやや押さえつけられながら吠えていた。
「朔ちゃんが失踪って、一体どういうことなんだ!」
我ながら抑揚がないと感じる声で、「お伝えした通りです」と素っ気なく答える。
本当に心配していそうな空色の瞳がいやに羨ましい。
畏怖しつつも疑問をもった勇気の頭には、少なからず関心する。
「君はちゃんとお姉さんを見てるのか?!」
「見ているからこそ、早めに気づいてお伝えしたでしょう」
「伝えることはできても、しっかりと見てはいないじゃないか!」
君だって全部は見てないだろ…そう言いたくなる。
喉から飛び出そうな言葉を呑み込んで、亨の顔を見た。
やや肌質が悪く、目つきが普段と比べて悪いように感じられる。
じっと見られていることに気づいたのか、やや亨が怖気づいた。
それに伊鯉が誘導の言葉を呈する。
「すみません、客間へご案内しますね」
少し怯んだものなら、女性でも対象できるだろう。
何かを言おうとした亨に伊鯉が“乱花”で視界を塞いで、こちらへ亨の手を伸ばした。
「なん…大和、妙な噂がたつのはそういうところだよ!」
「……………」
目元が植物で覆われた男性が何かを言っている。
伸ばされた手を引いて、居間へ案内すべく歩みを進めた。
居間に入った辺りで亨の目元から植物は枯れて、空色の瞳が酸素に触れた。
居間の中には障子を挟んだ窓の向こうに神木である赤く染まり紅葉が茂っている。
訝しんだ顔を浮かべたままの亨を座るように促し、愛知が持ってきたお茶を彼が啜った辺りで言葉を絞り出した。
「…何て名前お茶?」
「アヤワスカ茶です。お気に召されませんでした?」
「……いや、別に…」
「別に?」
「…ふわふわ、として………その、いや…ごめん、続けて」
「……少しお休みになられますか?」
亨が思った通り、首を縦に振った。
やや濁って混合した空色の瞳に笑いを噛み殺すばかりだった。
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「あのさぁ…オカルトとかスピリチュアルな話に興味ないんだけど」
「話だけでもお願いします」
「君って結構しつこいよね…」
紺に近い青髪の男性が、黒く濁りの見える瞳でこちらを睨んだ。
明らかに見える敵視に笑いが止まらず感情の高ぶりを感じた。
「この、上原慶一さんですか。その方が亨さんに渡された本に…」
「神宮寺家の宗教関連があったんでしょ、知ってるよ。知ってるから帰って」
「いや、いや、いや…帰れるわけないじゃないですか!オカルトですよ!」
「オカルトだから帰れって言ってんの、日本語通じてんの?!」
そう声を荒らげて一触即発な様子に見える梶谷にふと、疑問を投げた。
「時たまに思うんですが、そんなにオカルト嫌いなのは何故なんです?」
投げられた疑問に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて、珍しく押し黙った梶谷に少しだけ罪悪感がした。
状況に巡った思考の中で梶谷に唯一の育ての肉親が亡くなっていたことを思い出し、つい口を開いた。
「ああ……えっと…お父様関連ですか?」
「…まぁ、そうだね」
静けさに気まずさが乗り、梶谷の視線が空へ向いた。
朝に小雨が降っていたのか、雨上がりの空は陽の光が指して薄く虹がかかっている。
それがなんとも、異様でしょうがなかった。
逃げるように軽めに笑って言葉を本題へ続けた。
「それで、神宮寺の話なのですが…よろしいですか?」
「これだけ言って帰らないんだから、もういいよ。聞くだけ聞くよ」
苦笑いしながら言った梶谷に「有り難うございます」と謝礼を入れた。
「では、梶谷さんは例の本をお読みになられましたか?」
「いいや…カルトって言われたから読まずに断ったよ。嫌な思い出しかないから」
「はぁ、そうですか……神宮寺は今のところ、どう思います?」
「どうにも。神職はあまり詳しくないし、興味がない。ただ…」
「ただ?」
「…あまりよくない噂はあるね。家柄は大きいが、盲信的な繋がりの深い人が非常に上へ上げているようにも見える。
それに、閉鎖的で透明性がない。あれじゃ噂がたつのも納得だよ」
「大和さんや朔さんの話は聞きました?朔さんの失踪から噂は減ったような気がしますが…」
「変なこと聞くね…?…相変わらず、何にも。病気が治ったとか、そういう業績の話は聞くよ。
確かに以前より噂は大人しめになったけれど、逆に当主の次期当主に当たる大和の話が盛り上がってるね。
まぁ…元々、神宮寺の子じゃないし、地毛は暗い茶髪だから…熱狂的な人々からしたら認められないんだろうね」
「なるほど…」
「それで、結局何が聞きたいの?」
「……なんというか…やはり、黒かと思いまして」
「何が?」
「…本の中には、古くからの暗黒的な習わしである人身御供のことが綴られていました。それを今も行っているなら…黒だとは思いませんか」
「……要は人殺しってこと?」
「ええ、仮に生贄足りなさに人殺しをやっているという線はあると思うんです」
「…だとしたら、巫女にあたる朔がいないのは奇妙じゃないの?」
それはそうだ。自分でも勝手な理屈であることは重々に理解している。
再び、彼の瞳に睨みが戻り、眼光が鋭くなって焦りが募る。何かしら警戒されているのだ。
猛獣の威嚇を解こうと口を開きかけた瞬間、彼の携帯から穏やかな曲調の着信音が鳴り響いた。
彼が制止して電話に出た直後、聞いた名前は『楓』だった。
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「ここまで来ると、村周辺に警戒心がないよね」
できるだけ、分かりやすく会話が続くように話題を投げた。
赤く蛇のように鋭い瞳に自分の姿が映る。自分自身が映っているようで、いやな感覚が走る。
飛ばした言葉のボールがキャッチされるのを待ちながら、積み重ねられた枝の山に火の玉を投げつける“不知火”が枝に炎を纏わせて、ゆっくりと己の身を焦がす。
やがて、それは大きくなり炎と化して、焚き火に成長する。
焚き火が成長するにつれ、言葉を掴み取られて上手く返された。
言葉のキャッチボールがしっかりと投げ合いを掴んだのだ。
「…確かに、三人もいなくなったら……いや、一人が出た時点で厳しくなりますよね」
少し怯えを感じる低い声が、折りたたみ式の小型ナイフで太い枝を削り切りつつ、渡された言葉のボールでキャッチボールを再び始めた。
震えて嬉しさのある高ぶった声でこちらも言葉を喉から絞り出す。
「……朔さんは、どこに行ったんだろうね」
「分かりません。八代家を出てから、なんですよね?」
「…多分……そう。大和さんも知らない様子っぽかったから」
「…失踪じゃなくて、ただの家出なんですかね?」
「なぜ?」
「だって、朔様って…家柄にかなり悩んでらしたので…」
「そうだったかな」
「な、悩んでましたって!」
ああ、間違えた。素直にあまり聞いていないと言うべきではなかった。
慧香には肯定しなければならなかったらしい。
そのまま気まずさばかりが雰囲気に残留し続ける。必死に引き裂いて、誰かに向けられている愛しさだけを引き抜いてしまいたくなる。
怯えたような、伺うような瞳が刺さって抜けることがない。
また空回ったんだ。空回ってしまったんだ。
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ガリガリとペンが紙に擦れる音が響く。
二人の女性の間の机にガトーショコラが記者である女性の正面へと置き、ガトーショコラを運んだ隣で丸椅子を運んで腰を降ろした。
古くながらの家庭の食卓といった様子の部屋で、すり硝子の窓から昼間の温かな光が射し込んでいる。
その中で、従者らしき女性の隣に座った俺が話を続けるように口を開いた。
「…要は、親の借金を理由に祖父からここを紹介されて…パティシエの経験を生かして働いてるだけって感じですね」
「広竹……悠斗さんはそんな理由なんですね…由香里さんは、どのような理由で雇用されたんですか?」
そう記者らしく質問をかける百音が由香里へ視線を動かした。
同様に、それと比例して由香里の口が開いた。
「その…ちょっと、主観的な理由でして……あまり多くいうものではなく……」
「…分かりました。有り難うございます……畠中秋人さんはどのような方ですか?」
「なんというか……いつも殺気立っているというか…どうにも暗くて恐ろしいような圧のある………いえ、とても…責任感のある…ええっと…すみません、よく分からなくて。
最近、従者の一人がいなくて…どこか不安定な人なんです…」
申し訳なさそうに目を伏せて、怯えを感じる返答に百音のペンは止まらなかった。
次に俺も聞かれるが、「少し疲れていらっしゃる方なんです」と返答した。
更に、百音の質問は続く。
「畠中秋人さんの…その、☓☓☓☓株式会社は現在どのような状態ですか?」
これには、俺が答えるのが早かった。
「なんとも…あまり仕事の話はせず、自室にいらっしゃるか、出張などの不在が多いので俺らには分からないですね。
最近…いや、昔から大海さんという方と親しいようで、夜や朝に出かけては次の日にお帰りになられることが多いかと」
そう答えて、腹の虫が鳴り、焦った瞳が置かれたガトーショコラに焦点を合わせる。
それに気づいた百音がにこやかに微笑んで、「どうぞ」とデザートを差し出した。
由香里もそれに頷き、俺は礼を述べて口の中に自分が作ったものを放り込んだ。
口の中いっぱいに柔らかい蕩けるような甘さが広がり、腹が満たされていくような感覚がする。
視界の端で、百音の質問にどこかぎこちなく返答していた由香里の顔が自然と綻んだ気がした。
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優月がどこか不安な様子で盆を下げる。
何もかもが敵だと言うような視線が、黒髪のカーテンの隙間から見える。
それが、なんとも奇妙でしかたがなかった。
とはいえ、それを当主が気づいた様子はなく、遥と談笑を続けている。
時折聞こえる大海という名前がダム建設の会社の社長と同じだと他人事にものを結びつける思考がうっすらと湯気が立つ湯呑へ溶けていく。
しかし、目の前で仲睦まじい兄妹を見ていると、真っ青で冷たい思考がやんわりと熱を帯び懐かしさを思い起こす。
兄貴の名前を呼んだのはいつ頃だったか。もう随分と“亨”と名を呼んでいない気がする。
あの皮を被ってばかりの狂信者をどうにか離れさせたいものが、中々手を引けないばかりに苛立ってしまう。
心底、あの家は透明性がなく、不気味でよく思えない。
聞こえていた会話が終わり、真っ直ぐで無垢な深い緑色の瞳がこちらを刺した。
ひどく心配するような眼差しが安心できてしょうがない。
常にこちらを気遣う血の繋がった兄より、血の繋がらない他人の方が安心できるのは不思議だった。
「…あの」
「悪い、待たせたな」
綺麗な緑が悦を帯びて、はっきりと正面から顔を映す。
かきあげた黒髪の下に兄貴と同じ空色で、くまの目立つ瞳。
肉落ち骨秀でた浮浪者のような顔がいやにちらついた。
「それで、朔についてだったよな」
「ええ…何かお聞きしましたか?」
「……早朝に株価が上がったという話を」
「世間話ではなくて…」
「分かってるよ…ちょっとくらい、笑ってくれ。君が笑っているのを久しく見ていないものだから」
「…それは…有り難うございます」
礼を述べて見る修の顔はいやに気まずそうな顔をしばらく浮かべて、思い出したようにすぐに笑って唇が動いた。
「自警団から何も聞いていない。山を捜索する猟師達も、何も見ていないそうだ。
木々の青葉が紅葉に赤や黄色に染まるように着飾って、肌寒くなってきたこの季節で人が一人消えるのは非常に危険だと話を耳にしたよ」
「…それは……熊などが冬眠のために餌を求めて人里へ降りてくるからですか?」
「いや?ここ最近、山に山菜や果実が実らず不況とは聞かないから、単にここまで探して見つからないのだから山にいるのではないか…そう判断した結果だよ。
神宮寺の本家は山中の神社だろう?熊も、猿も、鹿も…なんだって出るさ」
「…そういえば、湖もありましたね」
「酒内湖か」
「ええ、奇妙な噂をお聞きしませんか?」
「さぁ…水質や地質の話には、如何せん関心がない。稀に聞くのは…百年程前に、酒内湖の周りの木々に性別すら判別不可能なほど、鳥に喰い尽されて無残な肉塊が木々に釘で打ちつけられていた…という噂話だな」
「ああ、ありましたね。噂的に該当するのは鹿狩…亨?でしたっけ。ちょうど、兄貴と同じ名前の」
「そうだな。もしかしたら、亨が殺られたりな」
「冗談は程々にお願いします」
「そうだな、すまなかった」
少し笑いを含みながら言う修にほんの少し、何かが緩和されるような気分になる。
時計の針はちょうど正午を刺し、ぴったりとお互いを重ねている。
それがどうにも憎たらしくて、取り返しのつかない不安が湧き上がっていた。
席を外そうと腰をあげた瞬間に閉じられた扉の後ろから、聞き覚えのある若い女性の声と低く重々しい知らない男性の声が聞こえた気がした。
**あとがき**
✵Good Boy ↹ Monster✵の本の件は全く関係なく、日村さんがそんな本を読んでいましたよ〜…ってだけの描写であって、本編とは無関係です。
単なるシリーズの宣伝のようなものですね。好き勝手書いています。
なんだよ…たまには癖に全振りしたっていいだろ…。
Q:梶谷彰晃は~卍 狐者異 卍~の〔 摯 〕で贄になった男性ですか?
そうですね。ただ、残念ながら贄ではなくて身体の一部を捧げただけで、完全に喰われてはいません。
あまりよくないものですが、彼は残り物であって…現在は遠縁の地において四肢などが欠損し、首に手や縄の跡がついた状態で放心しています。
梶谷湊はそれを地方の営業、といった昔の濁した言い方を続けています。