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水仙の小噺
人生が色褪せて見えていた。
顔が良いというものは、妬まれることもあるが基本、良いものと見られる。
けれど私は内面を見てほしかった。
上辺だけの綺麗で澄んだものだけでは判断されたくなかった。
こんなことを言えば、顔が良いからこその特権だと蔑まれるだろう。
だが誰も知らないのだ。
人に付き纏われたこと。
目が覚めると知らない女が横にいたこと。
見に覚えのない贈り物が毎日積まれていること。
名も知らぬものに薄着で言い寄られること。
愛していると伝えられること。
その恐ろしさと不快感を知らないから、そんなことが言えるのだ。
あるものは私を、美しさを鼻にかけた嫌な奴というだろう。
そうかも知れない。事実、これらの悩みは全て顔の良さからきているのだから。
アフロディテを怒らせ、何かの呪いをかけられたこともある。
想ってきた相手が自殺したこともある。
ニンフを泣かせたこともある。
私は何もしていないというのに、勝手に寄ってきては離れていく。
なんと身勝手なのだろう。
『あなたは今後、──を拒み続ける…これは私の贈り物を無碍にした罰。一生それに囚われ続けるが良いわ』
呪詛のようにアフロディテが発した言葉。
何を拒み続けるのか、私にはまだわからない。
けれど、あの時から、世界が色褪せているように思える。
最近、ある1人のニンフがやって来た。
エコーというらしい。
父曰く、ヘラ様を怒らせ、相手の言葉を模倣することしかできなくなったそう。
「おはよう」
『おはよう』
「…何?」
『…何?』
言葉は人を模倣するばかり。
なのに、表情は、動きは、目の輝きは、彼女特有のものだった。
面白い、と感じた。これまでで初めて。
元々は、話好きで歌が上手かったらしい。
本当の彼女が知れたらよかったのに。
一人の時にはそう思う。
でも彼女に会う時に思うのは、邪魔、鬱陶しい、面倒、ばかり。
何故なのか、私にはわからなかった。
ある時、そのことについて、彼女は聞いていると信じて、話そうとした。
口を開いた時、自分の耳に聞こえて来たのは意外な言葉だった。
『君って面白いね』
「君は、驚くほどつまらないね」
何故? 私はそんなことを言おうとはしていなかったのに。
困惑しながら、はっと顔を上げると、驚愕した表情のエコーがいた。
エコーは悲しげに私の言葉を繰り返すと、煙のように消えてしまった。
呼びかければ、呼びかけた言葉が繰り返される。
どうやら、彼女は消えてしまったらしい。
その時、かすかに視線を感じたが、気のせいだと振り払った。
そこから少し経って、ネメシスという神に呼び出された。
「なんでしょうか?」
「使いを頼まれた。お前に用がある神がおる故、ムーサの山に行くように。」
「分かりました」
ムーサの山への道中は妙に暑かった。
汗で衣が体にまとわりつく。
山に着き、汗を流そうと泉を覗き込んだ。
その時、小さな耳鳴りがした。
気づくと、私は水仙になっていた。
周りの景色から察するに、随分な時が流れていたのだろう。
何故なのか、まだわからない。
END
どうも、眠り姫です!
今回の主人公は、ナルキッソスさん
ナルシストの語源であり、narcissus(水仙の英語)の語源でもあります
解説をすると、
アフロディテがかけた呪いは、「愛を拒み続ける呪い」です
そのために、彼はこれまで数々の女性を泣かせました
しかし、そんな彼にも自覚無しですが恋を知ります
相手はエコーというニンフ
それについて作中で触れているので割愛します(Wikiなどに載ってます)
しかし、愛を拒み続ける呪いをかけられている彼はエコーを前にすると相手を傷つけることばかりをいってしまうのです
そうしてエコーはただの木霊となり、ナルキッソスは神の制裁によって自らに恋をしてしまい、水仙になってしまうのでした……(作中では、操られている設定にして、記憶がない、ということにしています)
ということでした
わかりにくかったですかね
今回もかなり創作しています
元ネタが知りたい方はWikiなどで
では、ここまで読んでくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!