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episode:1 セカイの始まり
シリーズ全般について
AUサンズはナイトメア、ドリーム、クロス、インク、エラー、ホラー、キラー、マーダーが、undertaleからはサンズ、キャラ、フリスクが登場します
1話から読むことをおすすめします
売春、OD、自傷行為、自殺、同意のない性行為などの表現が含まれます
マダキラホラはホラ受けです
『俺にとって、幸福は悪夢だ。
地獄とかではなく、悪夢なのだ。
理由は2つ。
まず1つ目。俺はネガティブの化身であるため、幸福は身を滅ぼすから。
2つ目の理由。所詮幸福は夢であり、現実になることはないから。
俺は幸福を望んだことがないだろう。そしてそんなことはこれからも絶対にない。』
これから始まるのは、「幸福=悪夢」の方程式に線を一本引く為の現実。
*
「……やあ。おはよう。この世界にみんなが来れたみたいだね。…悪いけど、今日からみんなはこの世界で暮らすことになるよ。……ここは…うーん、なんて言えばいいんだろうね。人間とモンスターが共存していて、多くの国がある惑星って言えばいいかなぁ?」
ボクは目の前にいるみんなを見とめると口を開く。みんなはそれぞれその顔に驚きの表情を浮かべている。……ナイトメアでさえも。それも無理はないだろう。前の世界の記憶があるのに、明らかに前の世界とは違う世界にいるのだから。そしてこの世界に来る経緯を覚えていないのだから。
「……まあボクらが前いたAUがいっぱいあるようなところじゃないんだ。…壊すAUもネガティブに堕とすAUもないんだよ。別の世界線や時間軸が入り乱れるような世界じゃない。ボクらはUNDERTALEのサンズをベースにして考えられたキャラクターという設定があることには変わりはないけど、この世界では違う世界線の同一人物、ということではないんだよ。だから、ボクらは此処ではサンズだけどサンズじゃな……あはは、不必要なことまで喋っちゃったね。」
ボクは苦笑いを浮かべる。不必要なことを喋ってはいけないことを忘れていた。この世界に来てからさらに物忘れがひどくなったんじゃないかとまで思う。
「あと、AUを移動出来る能力は、この世界では瞬間移動の能力しかない。ショートカットみたいな感じだね。もう一度言うけどこの世界はAUじゃないからね。前のAUが沢山あった世界から来ているのはここにいるボクらだけだよ。」
そう言ってボクは息を大きく吸う。自然に笑えるように、自然に憂えるように。
「最後にナイトメアに関わることについて言っておくね。ナイトメアはネガティブな感情そのものではなく自我として、ナイトメアとしてこの世界に存在するということ。もちろんネガティブな感情がある限りナイトメアは死なない。そしてネガティブがあったら強くなれるけど、ポジティブがあっても命や存在に関わるほど弱らない。分かりにくいよね。ドリームみたいな感じだと思ってくれたらいいよ。だからナイトメアには……まあナイトメアに限らないんだけどね……この世界で幸せになる選択肢がある。……って言うのが…お望みだったみたいだから。」
一度喋るのを止め、みんなを見回す。するとエラーから質問があったからボクはまた話し始める。自然な、笑顔で。誰にも心配されないように。
「……急にここで暮らすのは心配?大丈夫。住む場所は君たちを多分1番良く知っている人が決めてくれたから。……まぁ、そこが気に入らなければ別のところに住んだっていいんだけどね。いくらでも仕事は見つかるし、調べ物なら図書館があるから、すぐ安定した生活が過ごせるよ。この地域の地図、渡しとくね。……さあ、みんなはどうやって過ごすのかな?」
そう言ってボクは地図を差し出してみんなに笑いかけた。
*
目が覚めると…いや、目が覚めるとかいう以前にとにかく気付いたら目の前に見知った顔が沢山いた。でもオレが知っている顔全てがいたわけじゃない。ウザイくらいよく見た顔のそれ(いや、それ自体も確実にウザイ)が話し始めたので取り敢えず聞くがあまり頭が追いついていない。それの後ろの壁には額縁に入ったひどく写実的な絵が飾られている。本当に写真のような。でもそれが描いた絵ではないだろう。それの描く絵は、もっとオリジナリティに溢れていて、色使いも、もっと……
そんなことを考えていたせいでナイトメアのことについて何か言っていたはずだが頭に入ってこなかった。クソ、それのせいで話に集中出来なかった。…話しているのはそれだけれど。でも、ペースに乗せられてはダメだとで「どうやって暮らしていけばいいか心配だ」なんて出まかせを言った。すぐに答えが返ってきたがオレの頭は疑問で溢れたままだった。
オレらはなんでここにいて、その意図は?意図があったとしてそれは誰の?数々のAUがある世界はどうなった?前の世界の記憶は勿論残っているが、なぜか前の世界はどうなったのと言うことと此処に来る経緯が思い出せない。
そんな溢れる疑問より気になることがあった…今オレの前にいる“それ”に対する恐怖と違和感。“それ”は元々感情がなく、その表情も感情もインクで出来たハリボテだったが、今はどこか違う。まるで作り物のはずの感情が本物のようで、“リアルすぎて”怖い。悲壮感がある微笑みを見せた先程の顔は、オレの記憶にはなかった表情だった。オレの体の周りにグリッチが漂った。重い思考と空気で時間は過ぎていった。
*
『兄ちゃん!誰も殺さないの?』
この世界が始まったその日、マーダーは錆びれているが人通りはある道を、キラーとホラーの2人と…マーダーにしか見えない弟と歩いていた。
「殺せないこともないが、見つかるとまずいからな」
笑いながらマーダーは自らにしか見えない弟の質問に答える。世界が変わっても、幻覚は消える訳でないのだ。急に声を出したマーダーの方に、通行人の視線が集まる。
『オレさま達のことは殺したのに?』
幻覚であるパピルスがマーダーに……“マーダーだけ”に疑うような表情を見せる。
「……はは、仕方ないだろ、こっちがまずいことになる」
パピルスの追求を躱そうと、マーダーは出来るだけ柔らかい表情で笑った。
「……久しぶりにexp稼ぎしたいなぁ〜?」
話の内容が断片的に聞こえたキラーがマーダーに聞こえるようわざと大きく呟く。
「殺しをしたら捕まるだろう」
「ここら辺治安悪いからバレなさそうじゃん」
それに、とキラーが笑顔で付け加える。
「一つくらい悪い組織みたいなのがあるでしょ、そういうのに入ったらお金も稼げそうじゃない?」
「…確かに俺らまだ仕事見つけてないもんな」
ホラーが言い、マーダーが頷く。3人は顔を見合わせてそれぞれが同意したことを確かめた。
「…ちょっと探してみよっか?」
3人は辺りを伺いながら歩みを進めた。
*
「なんだ、もう来ていたのか」
「ええ。行きましょうか。ナイトメアセンパイ。」
クロスとナイトメアは待ち合わせの場所から歩み始める。これからどうするかとか、他愛のない話をしながら目的地へ近付いて行く。
「…此処みたいだな。」
モノクロの味気ない「市立図書館」と書かれた建物を見とめ、そこの入り口をくぐった。
この世界が始まってから数日経ったある日の昼下がり、今ナイトメアとクロスは図書館にいて、この国の法律の本を読んでいる。かと言ってもナイトメア達……AUのサンズだった者達が住んでいる地域は治安が悪いようで、あまり法律も警察も存在意義を成していないようだった。この図書館は比較的治安の良い場所にあるが、やはりあまり明るい雰囲気ではない。
静まり返った図書館に、ぺら、と紙と紙が擦れ、ページが捲られる音が響く。クロスが視線を上げると、シアン色の美しい瞳と目が合った。その瞳は前の世界から変わらず、鋭い光を湛えている。前の世界から変わっていないものは、ナイトメアの美しい瞳だけではない。クロスとナイトメアの関係もまた、上司と部下という平行線を辿っている。その上司なる者を見つめながら、クロスはこの世界に来てから思い浮かんでいた疑問を、ふとナイトメアに投げかける。その行動が自らの手で今の関係を壊すことになることを、クロスは知り得なかった。
「センパイは、幸せになりたいんですか?」
*
「センパイは……幸せになりたいんですか。」
ふと目が合った硬い表情のクロスの質問に思わず息が詰まる。頭を殴られたような衝撃が俺を襲った。俺は、ナイトメアはAU界きってのヴィラン、そうであったはずだ。そうであらなければいけない。ネガティブの感情そのものだ。幸福が許されたとしても彼との幸福なんかを望んではいけない。俺にとって幸福は悪夢のはずだから。そんなことを自らでも思っているのに加え、目の前の彼から言われている気さえした。
そんな思考が編み出した答えは、俺らしいものではないと自分でも分かるような物だった。
*
「急用を思い出した。」
そう言って立ち上がり、その場を去ったセンパイと俺は共に立ち上がったが、引き止めることが出来ずその場に立ち尽くした。息を吐いて本を元々あった場所へ返す。
「拒絶されたな……」
しばらくは顔を合わせられないな、と思いながら図書館の入り口をくぐる。頭の中で、「ただ前の世界で自分が役に立てていなかったのか聞くだけだったのに」と言い訳をしながら、家に帰ろうと路地裏を歩いていると見慣れた顔が3つ、前を横切って行こうとした。
「マーダーセンパイ、キラーセンパイ、それにホラーセンパイ…ですか」
「お、クロスじゃん、奇遇だね」
俺はキラーのポケットに紙幣が押し込まれているのを見つけた。
「皆さん、仕事を見つけたんですか?」
「ん、まあな」
ホラーセンパイが頷く。
「仕事というより任務に近いかもな」
含みのある笑みを浮かべて、マーダーセンパイが言った。
「は?」
思わず俺は素っ頓狂な声で聞き返す。
「クロス、まだ仕事見つけてないだろ」
ホラーセンパイに言われ、おずおずと頷く。ナイトメアセンパイにも丁度仕事をそろそろ見つけろと言われたばかりだった。
「クロスもボクらと働く?」
そう言ったキラーセンパイ達に俺は着いて行く他なかった。
*
時間はこの世界が始まった日に遡る。
ホラー、キラー、マーダーの3人が仕事探しをして歩いていた時、3人は丁度知らない顔と歩いて行く原典の世界のキャラを見かけた。知らない人間とキャラは塵と血に塗れていて、その手にはナイフが握られていた。
「お前、オリジナルのとこの、」
1番目のニンゲン、とキラーが声をあげた。
「初めまして。と言ってもお互い誰か分かっているだろう。……何の用だ」
急いでいるからとナイフをくるくると回しながら急かすキャラ。
「…お前、それ、殺しをしてたのか」
明らかに誰かが死んだ時に溢れる量の血と塵に塗れたキャラにホラーが質問する。
「ああ。“仕事”だ。お前らもするか?」
キャラが妖しく微笑んだ。仕事と聞き、3人目を見合わせる。
そうして3人はキャラについて行き、連れてこられたのは寂れたビルの最高階の一室だった。
「…此奴らを連れて来たのは何の用だ」
キャラと3人が対面していたのは、キャラの入っている組織のボスであった。ボスはオオカミの様な姿をしたモンスターで、3人を怪訝そうに見ている。
「彼等は此処で貴方の役に立てる者たちです。」
キャラは堂々とボスの鋭い瞳を見て話す。
「……殺しも出来ると?」
ボスは3人を値踏みする様に睨め付ける。
「…ホラー……真ん中の彼はまだしも両脇2人はかなり慣れておりますので。」
ボスの視線はホラー1人へ向かい、ホラーの額に冷や汗が浮かぶ。
「ですが…全員戦闘能力は高いです。彼等には金さえ与えれば充分です。」
ボスは脚を組み4人を睨みながら口を開いた。
「…分かった。使えそうだから働かせてやろう。」
キャラ達の表情が柔らかくなる。
「最初の仕事だ、キャラも着いて行ってやれ」
「分かりました」
ボスはキャラに書類を押し付け、4人を部屋から出させた。
*
クロスはそのボスの前に、今立っていた。クロスの左側にはキラー、ホラー、マーダーが立っている。
「最近はお前らと言い、新入りが多いものだな」
ボスがぼやきつつ、クロスを睨む。
「まあいい、腕が立つことも護衛経験があることも聞いた。せいぜい頑張れ」
護衛経験、それはXtaleでのロイヤルガードのことを指しているのだろう。そんなことまで話したのかと、クロスは息を吐く。
クロスはボスの視線に嫌悪感を感じていた。シアン色の瞳を持ったあの人に睨まれた時も、命令された時もこんな気持ちを抱いた事はなかったというのに。
目の前の人物に雇われるのが、着いて行くのが、どうしようもなく嫌だった。
「ええ。ありがとうございます。精一杯働かせていただきます」
いっそのこと使われるのではなく使ってやろうと、精一杯の嫌悪感を込めて、クロスは哂う。
*
「…インク、此処にいたんだね。」
「まあね……。」
丁度クロスが組織のボスの前にいる黄昏時、インクはスケッチブックと鉛筆を持って、街の高台に来ていた。そこにドリームがやって来て、インクに声をかける。
「ここの景色綺麗じゃない?丁度西日が街を照らしててさ。」
インクは両手の親指と人差し指でフレームを作り、景色を切り取る様な仕草をして目を細めた。
「…そうだね。」
「ドリーム。ボク、画家になろうかな」
ドリームの方へくるりと振り返り、ドリームを見据える。その目は夕陽を受けきらきら光っている。
「こうやって綺麗な景色を描いて、色んなところを旅してみたいんだ。」
「いいと思うよ。」
遠い目をしているドリームが頷く。
「“ここには”幸せになる権利があるんだもんね。」
ドリームは景色の方に視線を移した。
「……っていうことは僕は前の世界でみんなを救えなかったんだね。」
「キミが救えなかったものはボクにも救えないよ。」
インクの返答は答えになっていない、とドリームは思った。
「僕がやってた事は間違ってたのかな。」
ドリームは悲しそうに目を細めた。風が吹き、インクのスカーフは揺れ、ドリームのマントははためく。
「世の中は間違いだらけだろうけどね。」
「…インク、前の世界はどうなっちゃったの?」
ドリームは1番聞きたかったことをとうとう口に出した。
「……それは、言えない。……の約束だから。」
「………そう、なんだね」
ドリームがインクの方を伺いながら自分に「詮索するな、踏み込むな」と言い聞かせる様に呟いた。
「そう言えばさ、今日オリジナルの世界のニンゲン…えっとフリスクに会ったよ。」
無理矢理話題を変える様に慌ててドリームが口を開く。その金色の瞳はいつもとは違って泳いでいる。
「ああ。確かにこの世界にはオリジナルの世界のニンゲン…フリスクとキャラ、あとサンズも来ているよ。」
インクはドリームと違い、”自然に“笑っている。
「この世界が始まった時にはあの場にいなかったから、てっきりいないものだと思ってたよ。」
「まあ、この世界に試しに入ってもらったのがその3人だからね。ボクらより先に此処に来てたんだよ。ちなみにちゃんとこの世界に誰がいるか教えてあるから。」
「……そうなんだ。」
ドリームが頷き、顎に手を当てて考え始める。
「……じゃあまたね。インク。」
少し景色を眺めながら考え込んだ後、後ろ髪を引かれる思いでドリームはその場を離れた。インクはベンチに腰掛け、丁寧に削られた鉛筆を握りスケッチブックを開いた。少しずつ鉛筆がスケッチブックの白い大地を滑る。
「…世界って、なんでこんなに綺麗なんだろうね……」
インクは空を見上げて“誰かに話しかけるように”呟いた。零れた雫がスケッチブックに落ちてしみを作った。インクは目を拭い、決意を胸に立ち上がった。