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黒猫と町並み。
クロアの過去編です、死ネタ、クロアが可哀想かも
登場人物ぅ(紹介というより一言)
クロア:無邪気な8歳。好物はチョコクッキー。得意なことは歌と粘土、お母さんよりお父さんが好き。最近覚えた言葉は「げせぬ」
ヘレナ:クロアのお母さん。クロアには厳しくしたいけどにこにこクロアを見る度悶々としている。そういうところだぞ。
ダニエル:クロアのお父さん。クロアを溺愛中。でろでろに甘やかすのがすき。おかげで骨抜き娘が出来上がります。
かきなぐり、長いよ、あとがきもたっぷり、急展開だったりしまくるごめん
クロアは両利きやで
あのさ、馬鹿ながい、過去最高、ながいしくぎりへんかもだけどなんとなく脳内変換して読んでもろ手
なにやらわめきながら雪に埋もれるわが子を見て、ダニエルは慌てて言った。
「クロア、風邪ひくぞ」
「いいもん」
「早くお城に入ろう…そうだ、クッキーあるぞ!」
「やだ」
「本を好きなだけ読んであげよう」
「べつにいい」
「お母さん呼んじゃうぞ?怖〜いぞ?」
「やっ、帰る!!かえるかえるかえる!!」
母親を怖がる子供もいるが、逆にそれが役立つこともあるんだな__。
しみじみとかみしめながら、小さいうででめいっぱいに抱きついてくるクロアの小さい体をそっと抱き上げた。
そこでやっと気づいたのだ。自分たち以外の存在に。
言うまでもなく、ヘレナである。吹き流した白髪も相まって、立ち塞がる姿はまるで大きな龍のよう。そこでキッと目線を夫に向け、唸るように聞いた。
「私がなんですって?」
「キミハトッテモステキナヒトダナァッテ…」
「嘘はよしなさい、クロア?あなたも聞いてたでしょう」
ぎくり____。母から向けられる厳しい目線におもわず首をすくめ、クロアはよれた水色のマフラーに頬を埋める。
「クロア、正直に言いなさい、お父様はなんて言ってた?」
「お母様はいいひとだって…」
「クロア」
「えっと…えっとね、ほんとは、少しだけこわいひとって言ってたの。ほんのすこしだけ」
「…ダニー、あとで書斎に来なさい」
「はい...」
ため息をついて悲しそうに眉を寄せながら、ダニエルはヘレナの後ろをとぼとぼとついていくのであった。
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外から帰り、ヘレナの部屋の中で、二人は向き合った。
「お外いっちゃだめなの?」
ピンと背筋を伸ばしてヘレナは深くうなずく。真剣そのものだが、いまだに落ち着きのないクロアは元気が有り余っているのか、ヘレナの周りをぴょんぴょこうさぎのように跳ねながら、しきりにそう繰り返していた。
「なんでー?」
「近頃雪が吹雪くでしょう、それで命を落とす者が絶えないのです」
「雪たのしいのに?」
「貴方は将来この国を統治するのです、遊んでばかりではいけません」
「とうちってなに?」
「国を治め、民を導くのです」
「おさめるってなに~?」
始まった。ヘレナはうんざりしながら、娘からの絶えない問いにゆっくり答えていった。
「おさめるとは、秩序を保つこと、この国を正しくおさめなさい、それが貴方の役目」
「げせぬっ」
「そんな言葉使いをしてはなりません、あなたは王女なんですよ」
おほんと咳ばらいをし、凛とした佇まいで、ヘレナは説く。だがクロアにはよくわからないようで、しきりに首をかしげては、悩ましげな声を漏らしていた。
「な~ん~で~?」
「言葉は性格や知性、運命を示すもの、貴方が汚い言葉を吐けば、それは本当になってしまうのです」
「しけいって言ったらし~ぬ~?」
「…どこでそんな言葉を…まあ…その者が大罪を犯したのならば」
「たいざい?」
「正義に背いたものが行き着く罰です」
「へぇ、ねぇお母さま」
「?」
きらきらと瞳を輝かせ、興味津々といったように、クロアはヘレナの膝に手を置き、身を乗り出していった。
「お母さまはなんでそんなに知ってるの!?」
「さぁ、なんででしょうね」
「ものしり~?」
「母様は何でも知っているのですよ、貴方が先ほど盗み食いしたタルトの事だって__。」
一瞬きょとんとした顔で、それから顔が青ざめ、ぴゃっと声を上げて逃げだそうとしたクロアを抱きかかえ、ヘレナはいたずらな笑みを浮かべながら、脇腹で指を躍らせた。
「クロア、黄色いメモの意味は何かわかる?」
「やめてっ、くすぐっ、たいってば!!」
「答えなさい、教えたでしょう」
「わっかんないっ!」
「嘘言いなさい!」
「しらないの!!クロアわかんないのっ!!」
わあわあわめくクロアの目をのぞき込み、そっと床へ下す。耳を真っ赤にして脱力しきった娘を立ち上がらせると、一つ聞いた。
「青いメモの意味は?」
「クロアのおやつ…」
「緑色のメモは?」
「クロア…じゃなくておかあさまのおやつ」
「黄色のメモは?」
「食べちゃダメなおやつ」
おほんとわざとらしくヘレナがせきこんでみると、クロアはまたしてもはっとしたような顔で、もじもじと身をよじり始めた。
「嘘は?」
「いけません…」
「母様にバレない嘘などありませんからね」
「ゔ…」
ぽんぽんと不貞腐れたクロアの頭をなでながら、ヘレナはうんうんとうなずく。
そんな二人のところへ、ダニエルが飛び込んできた。
「…ヘレナっ、急に出ることになった!クロアをよろしく頼む」
「えぇ!?ちょっと…貴方昨日帰ってきたばっかでしょう…疲れているでしょう…」
「大事な会合の一つだ、私が出ないでどうする」
「でも…クロアも貴方が返ってくるのを楽しみにしてたのに」
「そうだよっ、かくれんぼするって言ったでしょっ!」
「ごめんなぁクロア…お父さんもう行かなきゃいけないんだ。」
「む…いつかえってくるの、お父さんは」
「いつだろうか…明日の夜までには帰ってくるよ、愛してるぞ、二人共」
二人の頬にキスをして、足早にダニエルは部屋から出ていく。
父親が去った廊下を、クロアはしばし唖然と見つめていた。
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寒々しい部屋の中、温かいベットの中で、クロアは不安げに聞いた。
「お父さんは今日は帰ってこないの?」
「聞いたでしょう、明日の晩までに帰ってくると」
「そっかぁ、ねぇ、お母様、ご本読んでよ」
「早く寝なさい、今日のご本はなし。」
「な~ん~で~?」
不満げに唇をとんがらせ、音の外れた歌を歌うクロアの唇にヘレナはそっと人差し指を当てる。
「むっ」
「静かに、早くお眠りなさい」
「お母さまがお歌を歌ってくれたらねるよ」
「…仕方のない子ね」
上半身を起こし、深呼吸すると、規則正しい音色がクロアの耳を打つ。ぼんやりと母の歌う歌に耳を傾けていると、とろりと意識が溶け、まどろみ、少し経つと、すうすうとか細い寝息が聞こえてくる。
そっとクロアの髪をなで、ヘレナは満足そうに笑った。
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父親が出てから早二日。
甲高い小鳥の鳴き声が響き、部屋に光がそっと差し込む。そう、朝である。
しかし城の玄関には小さな嗚咽が響き、朝の空気は一人の悲しみを置いてけぼりにしてしまっているようで、爛々と輝く空も、ヘレナにはくすんで見えた。
今も父親の帰りを待ちわびて、部屋ではクロアがきっと絵を描いているだろう。
「ヘレ_さま_ほんと__ざん_んです」
嗚咽にかき消される声の一つ一つ、言外に含まれる思いをヘレナは掬い取り、インクが滲んだにぬのきれに、涙を零し続けていた。
「大丈夫ですか、ヘレナ様」
「だいじょうぶ、だいじょうぶよ、オリヴァー、あたしはだいじょうぶよ」
「…辛いでしょう、私も同じことです、立派でしょう、大変立派です、ダニエル様は」
「そうね、あたしも、わかってる」
ちぎられた布には、走り書きで、めいっぱいに書き込まれていた。残された妻と子供へ向けた愛の言葉だけが。どうにも城に届いたのは、ダニエルの声ではなく、青色の磨かれたブローチと、とどめいろがしみた、ぬのひときれであったのだ。
国王の訃報は、なによりも早く、国民全員に伝えられた。立派な”死”は、皆かなしみ、なげき、いかりくるった。
国王は、途中で盗賊に襲撃され、剣をとって勇敢に戦い、盗賊とともに雪の中に姿を消した。たった1人の家来と、馬たちを守るために。
悲しみに沈む国にはひとり。父親の死をしらない無垢な少女だけが、今は部屋に取り残されていた。
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ヘレナは部屋の前で深呼吸をし、そっとドアノブを回した。
「お母さま、お父さんはまだなの~?」
「…もうすぐ、きっともうすぐ帰ってくるわ」
「ほんとっ?!クロアねぇ、絵描いたんだよ、みて」
三人が並んだつたない絵をみながら、ヘレナは笑った。
「クロアは、絵がじょうずねぇ」
ないちゃだめ__。ヘレナは強く手を握った。それでも、とめどなく涙があふれてくる。
「…なんでないてるの?」
「あんまり上手だから、かあさま、ないちゃった」
「…なかないで、わたしがいるから」
「ちがうのよ、あんまり上手だから」
「お母様はうそが下手だね、いつもお母様、わたしの絵を見るとわらうじゃない」
小さな手でぎゅっと抱きしめられ、ヘレナはきつく、ぎゅうっと抱きしめ返すと、クロアは「ゔっ」と声を上げた。
「お母さま、なかないで、一人じゃないよ」
「そうね、そうね、あなたがいるわ、クロア」
「お父さんもいっしょ!まだ帰ってこないけどね」
「いっしょね、いっしょ、ずぅっと一緒だわ」
「んふふ、でしょ?寂しくないでしょ?」
「ええ…」
『こんな小さい子に慰められて、情けない。』そう思いながらも、ヘレナはじっと、クロアの小さい体をかき抱いたまま、なき夫に思いをはせた。
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あれから数か月。冬は過ぎ去り、春の息吹が感じられるころ。少女クロアは、呪文のような数字や記号が書かれた紙を前にして、首をひねっていた。
最後の問題、それがとけない。
「ねぇ~えぇ~オリヴァーっ、こたえ教えて?」
きゅるりと目を輝かせて、かわいらしい猫なで声で聞くと、「ダメです」と案の定な答えが返ってくる。昔はこれで効いたのにな…と唇をとんがらせ、ちぇっと舌を鳴らした。
「クロア、そろそろお茶に…って、まだわからないのですか」
「だって…これもう…クロアの年齢の問題じゃないぃ…」
「解きなさい、それが当たり前です」
「だってぇええええ、みんなこれまだやんないでしょっ、まだやんないって!!はやーい!!」
”あれ”から数か月。やはり子供にとって数か月という歳月はずいぶん長いもので、今ではすっかり口達者になったものだ。机に突っ伏してうめくクロアに冷たくオリヴァーは言い放つ
「…クロア様、もうしばし考えて、お答えできなければ仕方なく答えをお教えします、だけれど明日は一時間、たっぷりお教えしますから」
「…はぁ~い」
「それもそうだけど…オリヴァー、もう少し考えさせたほうがいいんじゃない?クロア、貴方ならわかるでしょう、こんな問題__。」
クロアに教え始めたヘレナを見やりながら、オリヴァーは気づいた。クロアの口に浮かぶうっすらとした笑みに。その笑みにピンときたのか、オリヴァーはヘレナに耳打ちをした。
「ヘレナ様、クロア様はこの後のマナーレッスンをないがしろにするつもりです、わたくしは分かっております」
「なんですってぇ?!」
机をばんっと叩き、ヘレナは声を張り上げた。とんでもない気迫に驚いたのか、早口でクロアが言い放つ。
「なわけないよお母さまだってクロアこんな問題すぐ解けるよほら!!!!」
びっしょり冷や汗をかきながら急いで答えを書き記すと、それでもヘレナの厳しい目線がおくられる。
「なにが”わからない”ですって?」
「嘘つきましたごめんなさい!!」
「無理ね、今回は許せないわ、オリヴァー、レッスンの方をいくらか長くしておきなさい」
「承知いたしました」
「ゔぇぇぇ…」
腕を組んでふんっと鼻を鳴らす母親と、腰に手を当ててこちらを見やる執事を交互にみやり、クロアは頭を抱えた。
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さらに月日が流れ、季節は夏。クロアは乗馬場にいた。馬術を叩き込まれているのである。
蒸し暑い夏。だらだらと汗がこぼれ、水を飲んでも飲んでものどが渇く。少し前に誕生日を迎え今や9歳。あまりにもやりすぎではないか?それを一番肌で感じているのは、やはりクロアである。
手綱の重要性や、馬との絆の深め方。よくわからないことを熱弁する講師をうんざりした目でみつめた。
「今日はここまでです、お疲れさまでした、クロア様__」
クロアは講師が言い終わる前に突風のごとく小屋に駆け込んだ。日陰にあるおかげでいくらか涼しく、ふうと息をつく。汗をびしょびしょにかいたグラスを傾け、さわやかな酸味がすうっと喉を通っていく。
またレモネードかぁ、クロアはむっと顔をしかめた。
クロアはぽかっとどこか、体に穴が開いたような気がして、机に突っ伏した。誰かに見られている気がして、不安でしょうがなかったのである。
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無情にも過ぎ去る季節にうんざりしながら、迎えた秋。
初めての長い休みに、クロアは小躍りする気持ちで、母親からフレンチトーストの焼き方を教わっていた。ふわふわとやわらかい分厚く甘いフレンチトーストは、大好物の一つである。
しかしまだ火を扱うには危なっかしいので、書き込まれたレシピを読みながら、焼いている姿を動画にとったり、写真に撮ったりしているだけである。カメラは誕生日のプレゼントで、いろんな場所に出かけるようになった。
ヘレナも外出を拒まなくなり、自由奔放にのびのびと、クロアは休みを満喫している。
「もうすぐできる?」
「もうちょっと、お皿、取ってくれる?」
「ん!」
甘い匂いに自然と顔がほころび、おもわず笑みをこぼしながら母親の元へ皿を持っていくと、ふわりとフレンチトーストが乗せられる。
「ホイップクリ~ム」
「かけすぎちゃだめよ」
「げせぬ~」
たっぷりクリームをかけて、甘いフレンチトーストを口にほおりこんでいると、ヘレナが顔を覗き込んでくる。
「あなたはほんとにお父さん似ね」
「ほぉ?」
「そっくりよ、目も、髪色も。でも肌と鼻は私そっくり」
「たひかに」
「飴玉みたいで綺麗な目ねぇ…」
「はずかしいってば…」
ごめんなさいね、そう笑いながら、今度は髪を指でいじくられた。
「この巻き毛なんかも__。」
「んもう、お母様ったらどうしちゃったの、クロアはお父さんじゃないって…」
「そうね、ごめんなさい」
この秋にうちあけられたのは、ずいぶん前に死んだ父親の死の事。ヘレナが申し訳なさそうに、涙ぐみながら言っても、クロアはそれが当然というような顔で、顔色一つ変えなかった。心のどこかで分かっていたのだ。
こうして父親は、クロアの心の中で、ゆるやかに死んでいった。
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月日は経ち、冬。クロアは窓の外のふわりとつもった雪を見つめた。部屋の明かりできらきらと輝いて見えるようすに見入っていると、ヘレナが口を開く。
「きれいね、クロア、似合ってるわ」
よれた胸のクラヴァットを直してやりながら、仕上げに青いブローチを首元に飾り、袖を整え、折れたスカートを直す。
「ねぇ、どこいくの?」
「少しお散歩」
「ゆきふってるよ?」
「そうね、もう少し暖かくしていきましょうか、マフラーはどこかしら」
「お母さま、体悪いんでしょ、お城でゆっくりしよう」
「今日はきっと星がきれいよ」
「そうだけど…」
「お星さま、見に行かない?クロアは嫌?」
「ううん、わたしも行く」
どこか不安げな娘の手を引き、城を出る。外は案の定の寒さで、息があっというまに白くなる。しばらく歩いていると、待っていたかのように、雲が引き、空が見えた。
「ほら、星がきれいでしょ」
「きれい…」
瞬く星々を見上げながら、クロアはさくさくと雪を踏み鳴らした。やはり雪というものは、子供の心をひいて仕方がない。
「ねぇお母さま、ちょっと遊んでもいい?」
「いいわよ、母様はここにいるから、遊んできなさい」
「やった!!」
一面の銀世界に飛び出していくクロアの背中を見つめながら、ヘレナは子犬のように走り回るわが子を見つめ、緩やかに笑う。雪に埋もれて笑うクロアの姿に夫の姿を重ね、弱弱しい母の背中は、森に飲まれ、消えていく。
クロアはしばらくして、雪から顔を上げ、あたりを見渡した。母親の姿が見つからず、慌てて立ち上がった。雪に足を取られながら、必死に名前を呼ぶ。返事はなく、虚しい声が木霊している。
周りに家一つ見つからない銀世界。遠くに家々の光が見えても、クロアはぎゅっと雪の中でうずくまった。
小さな体では寒さにかなわず、すぐに寒さで体が震え、ゆったりと眠気が襲う。
小さな声はやがてかすれ、声にもならない吐息が、ふっとあふれた。
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女王と王女の失踪は国王の訃報とおなじく、何よりも早く、国中に伝わった。女王の名前と、その娘の名前が国中に響いた。吹雪く雪の中、国一団となって捜索隊が組まれ、あちこちを探し回った。足跡は雪でかき消され、誰も行方を知らない。
しかし失踪から数時間、雪の中で埋もれる王女が見つかった。かろうじて息をしていることから、急いで治療が施され、数時間後にははっきりと息を吹き返したという。
王女のバックには、女王の筆跡と思われる手紙が入っていたらしい。
それから数日、国王と同じく、葬式が挙げられた。遺体のない葬式が。
人々は思っている。こんな吹雪の中、人が何日も生きていられるわけがない。そう、ブーゲンハープの冬は、凍てつく寒さ。
ベットで目を覚ましたクロアは、ぼんやりと考えた、なぜ自分だけ助かるのだ、と。
すっかりおいてかれてしまった少女は、一人病室で、ぼんやりと物思いにふけっていた。
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母親の失踪から7日目、クロアは部屋のベットに身を投げた。あの冬の寒さ、案の定凍傷を引き起こしていたので、右手がうまく動かないのが不満だった。
頭の隅であの夜に消えた母親も、盗賊に襲われた父親だって、まだ生きているかもしれない。だけれど国は死んでいるとみなした。
憎らしくなり、城に帰った初日、思い詰めて窓から飛び降りようとしたせいで、今や監視つきで部屋にいる。監視といっても、数時間に一度、見に来るだけであるが。
窓から見える景色はやはりくすんでいて、気分もいいわけではない。
「クロア様、失礼いたします。」
「どうぞ、はいって」
できるだけ愛らしく、にこっと笑うと、見知らぬ顔の召使は、安堵したように微笑を返してきた。
「お食事のご用意ができたのですが…お持ちになられますか」
「いや、大丈夫、わたしがそっちにいくから」
「承知いたしました、お待ちしております」
召使が出ていき、重い腰を上げた。できるだけ左手で身なりを整え、そっと廊下へ出る。
すれ違う料理人や、若い執事などから、軽蔑の目を浴びせられ、いい気持ちはしない。けれど今は怒こる気力もない。ふらりと夢遊病者のように歩きながら、クロアは食堂のドアを押した。顔なじみのオリヴァーと、母親によく似た、一人の女性がいた。
「出来損ないのお出ましかね」
クロアを見るなり毒つき、ふんっと鼻を鳴らした。水色の目できっとにらむと、案外ひるんで、「ひっ」と声を上げる。
「すいませんクロア様…あちらヘレナ様のお母様になります…本当にすいません…あなたに会わせろと」
「きにしないで」
「悪魔よ!!!悪魔の子!!あたしの娘を殺しておいて、なぜのうのうと生きているの!!」
醜い体を揺らし、わめきつづける。食事どころではなく、うんざりしてオリヴァーに聞いた。
「食事はへやにはこんでほしいんだけど…」
「ええ、、勿論、あちらのお母さまには私から言っておきます…申し訳ありません…」
悪魔!!悪魔!!甲高い声でそう叫んでいた。その言葉は食堂を立ち去ってもなお、クロアの心に深く沁みついてしまった。
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食事をとってから、オリヴァーが部屋へ数学を教えに来て、クロアは思わず後ずさった。王女に休みというものはもはやないらしい。
唸りながら紙に鉛筆を走らせるクロアを横目に、オリヴァーは小さな声で、気まずそうに聞いた。
「あと大変いいにくいのですが…許嫁の…」
クロアはそっと布団をかぶった。私まだ9さいよ、そんな言葉がのどでつっかえている。
「おことわりって言って」
「そうにもいかないのですよ…」
「むり」
これから始まるうんざりするほど嫌な日常を頭で思い浮かべながら、あの時死んでいればよかった、そんな思いがよぎる。
「ねぇ」
「なんでしょう?」
「外に出かけてもいい?」
「今夜は吹雪いています、御遠慮ください」
別にいいでしょ、と心の中で悪態をつきながら、クロアはぐいっとオリヴァーに顔を近づけて言う。
「庭だけでもいいから」
「…庭、ですか」
両親が死んでから、とたんに静かになったクロア、自分の望みを訴えることもめっきり減り、周りの召使いは助かる、楽になった、そう言う者ばかりであったが、オリヴァーはやはり気の毒で、願いを無下にすることは出来なかったのだろう。
しばし考え込み、クロアを軽くおしのけながら、こくりと頷いた。
「暖かくして行きましょう、あなたが凍えてしまうのは、もう懲り懲りなのです」
「やった」
「それ以上お身体を壊されても困りますし…」
「私は大丈夫だってば」
「あなたが生まれた時からお傍にいたのです、嘘などお見通しですよ」
「お母さまみたいだね」
「そうですか…」
ワイン色のケープを羽織りながら、クロアは懐かし気に遠くを見てから、にこりと笑う。まだ幼さが残る笑顔に、オリヴァーは首をすくめた。
「なんです?そのバックは」
「何でもない、お菓子でも食べようかなって」
特別何かを疑うわけでもなく、オリヴァーは部屋のドアを開いてやりながら、クロアの手をじっとみつめる。
「手袋を忘れていますよ」
「途中でつけるって、行こうよもう」
「行きましょうか…」
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「今日は冷え込んでいますね…」
「お母さまも寒い寒いって死んだのかなぁ」
自虐的な物言いにオリヴァーが苦笑いすると、クロアは雪をすくっていった。
「みて、ふわふわ、死にかけのわたしみたい」
「……」
屈託のない笑顔に思わずつられそうになりながら、オリヴァーはまたもや頬をひきつらせた。構わずクロアは続ける。
「みてこれ、虫が死んでる、オリヴァーさん虫食べてみる?」
「あの……」
「多分お父さまもこんな感じ、雪に埋もれて死んでると思う」
「あのぉ……その虫…生きておられるかと…」
「虫?あぁ、お父様?お父様は死んでるよ?」
「いや…その虫が…」
「あ、ほんとだ、生きてる、オリヴァーさん、キャッチ」
クロアが満面の笑みで投げた虫をひょいとよけながら、何事かを言おうと前を向くと、雪の塊が飛んでくる。
「っ…クロア様!!」
「似合ってるよ」
まさかとんでもないストレスで性格がひねくれてしまったのではないか、オリヴァーが天を仰いでいると、右足に衝撃が走り、視線がぐらついた。
あしもとの階段が凍っていたらしく、つるりと滑り、どすっと派手に尻もちをつく。またクロア様の仕業に違いないと周りを見渡すと、今にも塀を乗り越えそうなクロアが一人。
「クロア様!!」
急いで駆け寄るも、塀の上から嬉しそうにクロアは手を振る。
「じゃあね!!お先にいくから!!」
「お先!?お先とは何ですか!?お出かけは庭のみのはずでは?!」
叫ぶオリヴァーの声を聞きながら、クロアは軽快なステップで走り出した。
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寒い寒い、骨も凍えるふゆの夜。
海を目指して、クロアは走った。いい加減うんざりするほどの生き方に幕を閉じるために。うんととおくのしらないところへ。
川の上にかかる橋を通るころ、ちらりと目の端に何かが移る。
そろりと橋の下をのぞく。鉄格子や金網でよく見えないが、何かの息遣いを感じた。不規則な、今にも消えてしまいそうな、か細い呼吸。
梯子を伝って降りて、橋の下まで行けそうな場所を探していると、少しばかり金網に穴が開いているのが見えた。身をかがめて、するりと通り抜ける。
なにか見えない力に誘われるように、クロアは薄暗い奥をめざした。
奥のほうでうずくまっていたのは、小さな妙なイキモノ。
白くて、黒いしっぽがあって__。
ぱちっと花火がはじけるように、クロアは思い出した。昼下がりの散歩のとき、みかけたちいさいイキモノ。
駆け寄りたい気持ちを抑えて、そうっと近づいた。ピクリとも動かず、心なしか息をしていないような、刺激しないように、近寄って、かがんで、そばに座り込んだ。イキモノの顔をなでると、すこしばかり温かい。けれど動かない。
急に悲しさがこみあげてきて、涙がぼろぼろとこぼれだす。お母様もこんな気持ちだったのかな、とクロアは小さく嗚咽を漏らした。
背後で衣擦れの音がする。ゆっくりとイキモノが上半身をあげた。
青い目を伏し目がちに、じとりと見つめてくる。生きていたんだ、とぎゅっと抱き着くと首をかしげたのを見て、クロアは笑いながら話した。
「あのね、あなたをごみ捨て場にいるのを見かけてね、それで行こうとしたのよ、でも、オリヴァーさんに止められちゃって…オリヴァーさんってのは執事さんでね、それでお外に出れなくなっちゃって…」
イキモノは悩まし気に首をかしげて、ゆっくりとうなずく。けれどぐうっと腹の虫が鳴いたのを聞いて、クロアはバックからクッキーを取り出して、包み紙をやぶって、手渡す。
さくさくとよい音を鳴らして平らげ、イキモノは黒い尻尾をゆらりと揺らした。なんだか心が温かくなり、クロアは優しく笑って、聞いてみる。
「うちにくる?」
イキモノはクロアの顔を覗き込むように見ると、深くうなずいた。それを見て、クロアもおだやかに笑う。
「わたしねぇ、クロア、クロア、ミード……覚えてないや…むずかしいんだよね、名前。そういえば君の名前は?」
イキモノはそれを聞くなりみょうなうなり声を出し、首を少しかしげ、ふるりと横に首を振る。
クロアはびっくりしながらも、身を乗り出して言った。
「あなた……目がきれいよね、その、宝石みたいな」
クロアはうなりながら考えを絞り出そうとする、あとちょっとのところで浮かばないのがもどかしい。
「あっ、あの、青いやつ、えっと……」
頭にビックリマークが浮かんできそうな勢いで、ぱっと、目を見開いた。
「ラピってのはどう?かわいいでしょ」
イキモノは目を細め、さもうれしそうにこくりと頷く。クロアはラピの服装を見て、凍えてしまったら危ないと、ケープを着せ、マフラーを巻いてやる。どこかはかなげに笑うような顔つきが、よく母親に似ている。
「…うちのこになろ、一緒に暮らそ」
涙がまたこみあげてきて、ぎゅっと、ラピをクロアは抱きしめた。ゆらゆら、ぱたぱたとゆれるラピのしっぽを見て、面白げに笑った。当のラピは、恥ずかしそうにうつむいていた。
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昼下がり、城の中、物置にて、クロアとラピはあるものを探していた。赤いカバーの、いわゆるアルバムである。
箱をいくつも開け、探し回る。やっと見つけた赤いカバーのパンパンに膨れ上がったアルバムを見て、ラピはクロアに声をかけた。
「これさぁ、見つけたんだけど…分けたほうがいいんじゃない?明らかにキャパオーバーしてるでしょ…」
ずっしりと分厚く重たいアルバムを手にすると、はらりと一枚の写真が落ちる。古びた写真を手にして、ラピは思わず笑みがこぼれた。
「あ、ちょクロア見てこれむっちゃ懐かしいやつ…!」
思わずクロアにかけより、拾った写真を見せる。写真の内容は、昔に取った二人の姿。どっちも幼げな顔つきで、クロアに至ってはまだまだ子供である。
「ラピちっさ…棒じゃん、ガリガリ」
「今はこんなに大きくなりました…って見るのそこ?」
「じゃあラピはどこみるの…」
「このクロアとか、クロアとか、クロアとか」
「ここに本物がいるでしょっ」
「いひゃっ」
頬をつねると、ひーひーラピが抗議の声を上げた。眉間にしわを寄せながら、クロアは写真のラピと、いまのラピを比べる。
「雑草みたいに伸びちゃって…伸びすぎよ」
「ほっへ、いひゃって、はなひえ」
「見えない、屈めよ」
「ひゃーい…乱暴だなぁ…」
それから二人は物置を後にし、部屋の中、ベットの上で、アルバムを開いてみた。
クロアや父親や母親の写っているものは、ある日を境にラピやクロアを映したものになる。ベットで同じポーズで寝ている姿は、おそらくオリヴァーに撮られたのだろう。
月ごとのフレンチトーストの写真は、日にちがたつにつれて、上手く、おいしそうになっていっていたり、ラピの手形や、ましてやしっぽの毛までもが張り付けられている。
クロアのつたない絵も、日を追うごとにつれて、見事な似顔絵へとなって行った。
「こう見ると歴史を感じるな…」
「そう?あっという間すぎてあくびが出るんだけど」
「これからもっと長いからなぁ…」
しみじみつぶやくラピを差し置いて、クロアはピッと指をさす。指の下にあるのは、窓に頬をくっつけて寝たラピの姿。どうやらクロアが外から撮ったらしい。
「見てこのラピ、アホ面」
「むっちゃクールだろ、この顔、クロアにはわかんないか…」
「いやどう見てもアホ面でしょ」
「こっちのクロアのほうがバカっぽく見える」
雪に突っ込んで上下がひっくり返っているクロアの写真を指差すと、唸りながらクロアは頬杖をついた。
「今すぐあの世送りにしてもいいけど」
「やっぱ僕のほうがバカっぽいかも」
つたない字で『あたらしいかぞく』と書いてるところの下には、くてっとだらけきったラピの姿。おそらくあの冬の日の後日の写真のようで、窓から光が差し込んでいる。
「君に拾われたときは神様かと思ったね…あのままだったら僕凍え死んでたよ」
「…っふ」
「なにがおもしろいのさぁあぁ~」
間延びした声で、ラピはベットに転がった。
「あのときのクロア、すごかったなぁ、オリヴァーさんと話してる時の」
「ああ言う人間は情に訴えるといいの」
アルバムから目は話さずに、少し上ずった声でクロアが答える。
「怖いなぁ、もしかして僕にもどうすればいいかわかってる?」
「手を絡めて上目使い」
「…あれわかってやってたの?」
「…前はね」
「前…っまえってなに前って今はどうなの」
「教えてあげない」
がばっと起き上がって詰め寄ってくる体を押しのけながら、クロアは無言でアルバムのページをめくる。
「教えてくんないのぉ…神様はきまぐれってやつ…??それとも悪魔…?」
「さぁね、私はそろそろ二度寝するけど」
「ゔぁぁああ…前ってぇ、まえってぇ…」
先ほどの答えを諦めきれない、そんなラピには見向きもせず、クロアはぱたりとアルバムを閉じ、するりと表紙を撫で、ぼそりとつぶやいた。
「…貴方のためになら、神様にだって、悪魔にだって、何にだってなってあげる」
小さなつぶやきは、ラピには聞こえていないようだった。どこか懐かしい心地になって、窓の外を見やると、ラピを見つけたあの日と同じ、わたのような、白雪が降っていた。
ラピってだれ?そんな君は「みずいろマフラー」を読みなさい
ダニエルってなんか違和感はんぱねぇ、なんでかな、
パッパの登場少なくてごめん、パッパとマッマの出会い編で腐るほど書くから許して
クロアパッパはマッマから「ダニー」って呼ばれてます
クロアなんで悪魔って言われたん?を少しだけ解説…クロア住む国は北の方にあるので、言わばグロージャーの法則(北に行くほど色素が薄くなるみたいな法則)
なのでクロアの髪色は珍しいし、黒は悪魔の色だと忌み嫌われてます。だからブーゲンハープの葬式とかではおもに浄化とかの意味で水色の何かしらを身につけて死者を弔うんやけど
やはり葬式に使われるとなれば「死」とかいう不吉なイメージがつくよね、クロアのおめめは水色、不吉な容姿&父母死亡のダブルコンボでおめぇ正真正銘の悪魔やんか!といわれてしまうわけです、クロアは悪くない
他にもパイを食べる日や、日本でいう灯篭流しのようなイベントもあるよ。
王族というか国王だとかを弔う花火大会みたいなもんもあるし、代々成果を上げてきた(クロアのパッパとか)国王とかは記念日とかも設けられる感じ
そんぐらいブーゲンハープでは王政リスペクト、でもやはり15歳の小娘に何ができるか!!って感じで治めている今でもクロアはちょっと不評、やっぱり子供ってところが不安なんだろうね
クロアのおかあさんが歌ってたお歌の歌詞かもしれないものを、、
よいこよ おねむりなさい めをおとじ きこえてくるのは ゆめのこえ
おねむり おねむりなさいな よいこよ ねむってしまえば みつからない
くろねこ おばけ ふえふき おそろしまじょに からすがないている
よいこよ おねむりなさい めをおとじ うたえうたえよ ゆめのうた
おはやく おねむりなさいな よいこよ ねむってしまえば きこえやしない
ヘレナが詩にリズムをつけて歌ってるとおもう
リズムできてもすぐ忘れちゃうんだよな、、
いつかパッパとマッマの話も描きたいけど容姿も出したい
あとそこのお前も夜になったら寝ろ、寝ないと彼女(彼氏)できないぞ
自分は天涯孤独の身!!とか言ってないでねろ、きっとさみしくなるぞ
さみしいぞ!!!!