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第三話
「じゃあそろそろ帰るよ」
「え……」
私を家に送り届け、鍵を開けた時だった。
「あ、あの……もう遅いし、泊まっていかない?」
「…………」
彼は少し困った顔をしたが、分かった、と言って頷いた。
……もしかしたら蓮くんは、私のことが好きなのかもしれない。
だって他の女の子の視線なんて気にしていなかったのに、私のことはこんなにも気にかけてくれる。優しいんじゃなくて、きっとこれは贔屓だ。
自惚れてはいけない、なんてことは分かっているが、どうしてもそんなことを考えてしまう。
「じゃあ、どうぞ……!何か飲む?ジュースくらいなら……」
彼を先に中に入れ、ガチャリとドアを閉める。
「……あのさ」
ドン、という大きな音が耳を貫いた。
目の前には彼の整った顔。少し振り返ると、ドアノブが目に入った。
「え、あ、あの……?」
「そうやって簡単に男を家に連れ込んじゃダメだよ」
切れ長の整った目で見下ろされる。
「俺だからまだいいけどさ、他の男だったら襲ってたかもしれないよ?意味分かるよね?」
体が動かない。声が出せない。
「……俺らは友達だけどさ、流石にここまでは良くないよ。じゃあ俺、帰るね」
いつの間にか彼はいなくなっていて、1人取り残されていた。
……心臓がうるさい。
どっ、どっ、どっ、と音を立てているのが分かる。胸に手を当てていなくても聞こえてきそうだ。
「……別に、良かったのにな」
なんて呟いて、私は床にうずくまった。
ぽたぽたと水音が聞こえる。嬉しさなのか、悲しさなのか。
どのくらい経ったのだろうか。
1時間?それとも30分?
もしかしたら、5分も経っていないのかもしれない。
時計を見る気にならず、お風呂にも入らずベッドに横たわった。一応その気力はあったらしい。
彼のことを思い浮かべながら、意識を失った。