公開中
光の当たる場所で 4話
第4章:秘密の部室と、オタクの本音
「放課後、ちょっと寄りたいとこあるんだけど、付き合ってくれる?」
昼休みが終わった後、ユウトがぽつりと言った。
その声はいつもより少しだけ明るくて、どこか照れくさそうだった。
「いいけど、どこに?」
「……漫画研究部。今は実質、俺しかいないんだけどさ。空き部屋を借りてて」
「へえ、部室とかあったんだな、あの学校に」
「一応、登録はしてるから。俺、部長なんだ」
そう言ってユウトは、小さく笑った。
---
放課後。校舎の旧棟の3階、誰も通らない奥まった廊下に、その部屋はあった。
ドアには「漫研」とだけ手書きで貼られた紙。何度も貼り直された痕があって、セロテープが黄ばんでいる。
ユウトが鍵を開けて入ると、中には意外な空間が広がっていた。
本棚にはぎっしり詰まった漫画やラノベ。
ポスターやフィギュアがきれいに並べられていて、部屋全体にユウトの“好き”が詰まっていた。
「……すげぇ、普通にプロだろ、これ」
俺が言うと、ユウトは「そうかな?」と照れたように笑った。
「ここが、俺の逃げ場だった。どんなに学校が嫌でも、ここに来れば落ち着く。
でも……逃げてばっかりだったんだよね、ずっと」
ユウトは窓際に座り、曇った外を見ながら言った。
「小学校の頃からさ、“変わってる”って言われてた。
アニメが好きだと話すと、急に距離を取られて。
中学ではもう、言わなくなった。けど、なんとなくバレるんだよ。オタクってことが」
俺は椅子に座りながら聞いていた。
たぶん、ユウトの話をちゃんと聞いてやったのは、俺が初めてだったんだろう。
「だから、漫画もアニメも、ゲームも、全部“隠すもの”になった。
でも……ホントはさ、俺、描くのが好きなんだ。ストーリー考えたり、キャラ作ったり。
“誰か”に見せたかった。でも怖くて……バカにされるのが」
そう言いながら、ユウトは机の引き出しからスケッチブックを取り出した。
俺が受け取ると、1ページ目に描かれていたのは、勇者と魔法使いの少年たち。
表情が生きていて、背景もしっかり描かれていた。なにより、ページをめくるごとに、物語があった。
「……うわ、これすげえな。まじで本気で描いてるやつじゃん。投稿とかしたことある?」
「ないよ。出したって、どうせ——」
「バカだな」
俺は言葉を遮った。
「こんなん描けるやつ、そうそういねぇよ。
てか、これ見せたら、好きだって言ってくれるやつ絶対いるって。
お前の“好き”は、恥じるもんじゃないだろ」
ユウトは、俺の顔をしばらく見ていた。
そして、ぽつりと呟いた。
「……ありがとな」
---
その帰り道。俺のスマホに新しいメッセージが届いた。
---
From:ユウト
《今日、ちゃんと話せてよかった。
俺、もうちょっとだけ、学校にいてもいいかなって思えた》
---
その瞬間、俺は思った。
“助けてやった”んじゃない。
“助けられた”んだ、俺のほうが。