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第七夜:記憶を拾う井戸
語り部は町の酒屋を営む女主人・野村登世。彼女はかつて灯籠会館のすぐ裏にあった“六つ井戸”について語る。
「井戸に落ちると、忘れたはずの記憶を拾ってしまうって話、知ってる?」
その井戸は、戦前に埋められたが、ある雨の日、登世の幼馴染がそこに落ちたという。その後彼は、誰も教えていないはずの過去の出来事を語りはじめ、奇妙な言葉遣いと表情をするようになった。ついには、自分の名前を「陽一」と名乗るようになった。
登世は十年前、その井戸に赤い下駄が落ちているのを見たと語った。その夜の大雨で、裏庭の地面が崩れ、一部がまた井戸の形に凹んでいた。
翌朝、灯籠会館の中庭に、何者かが泥まみれのメモを残していた。
そこには「俺は思い出した。帰れない」と記されていた。