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File.1_亡骸
『星』が不可思議な光を放ちながら揺らめく、元日本首都。
「で、どうするのよここから」
「…考えてなかった」
「梅らしい返答ね」
未だ【あかねケ丘市立高等学校】の制服を着たままの|白羽《しらは》 |梅《うめ》はぺろりと舌を出した。明らかに反省していないが、これは梅の平常運転だ。
同じくレディーススタイルのスーツを着たままである|雨継《あまつぎ》 |楓《かえで》は呆れの感情を惜しみなく仕草で表す。
「まぁ普通に遺体探しでいいんじゃないの」
「ええ…なんかかるい…」
「そういうものよ、実感が沸かない内はね」
楓は投げやりにそう言って、スマートフォンを取り出す。
しばらくスクロールとタップの小さな音だけが飽和して。
ぱちん、と膨らませていた風船ガムが弾けた。
「ああ、あったわ…|斉興《せいきょう》海岸付近ですって」
「げぇ…近くに『迷い星』落ちてたよねそこ…」
『迷い星』。
世界を崩壊に導く、とされてきた謎の隕石から崩れて落ちてきた小さな隕石。
本体の隕石と同じように、謎のエネルギーを放っている…らしい。
もう科学者もほとんどいないようなこの世界で、この続きが聞けるとは思わないが。
ぱちん、ともう一度風船ガムが割れる。
「あとシンプルに遠い…行きたくねぇ〜…」
「私の車は『迷い星』が直撃したからね、とりあえず早めに出ましょ、ちょっとでも早くに付けるわ」
「マジで言ってる?」
「大マジよ」
「もうやだぁ〜〜、なんで世界崩壊したの〜!?」
半ば八つ当たり気味に、彼女たちは階段を降りていく。
『星』はずっと、そこで煌めいていた。
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かん、かん、かん、かん、と鉄製のビルの非常階段を降りる。
普通に使う階段はボロボロになっていたため、ここくらいしか残っていなかったのだが、非常階段は中々急し狭い。上りはもっとキツかった。
「こっから歩きでしょ?携帯食料と水足りるか、確認してからの方がいいんじゃない?」
「…確認しても配給所に寄れる余裕はないわよ」
「げぇ〜、マジぃ?」
「私はさっきから全部大マジよ」
かん、かん、かん、かん。
✦ ・ ──────────────────────── ・ ✦
階段をようやく降りきり、梅はカラダ全身で嬉しいことを表現しながらガッツポーズする。
少々大げさに見えるかもしれないが、ビルは20階建てだったのだ。
「よっしゃぁ!!」
「はいはいいいから行くわよ」
「雨継の対応がヒドい!」
2人はそうやって歩いていく。
目指すは、|斉興《せいきょう》海岸。
たった一つの弔いのために。