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軽く消せて、クズがまとまる
冬の街は、白い吐息を吐きながら眠っていた。
屋根の上には雪が薄く積もり、路地には誰も歩かない静寂の影が落ちていた。
そんな夜の片隅に、古びた看板が揺れていた。
「クリスマス、今宵限り」と、
錆びた釘で打ち付けられた文字が、風にそっと揺れる。
私はその看板に導かれるように、石畳の道を歩いた。
道の向こうに、赤いテントが月光を吸い込むようにぽつんと立っている。
そのテントの下から、低く、時折ひそやかに、呻くような声が聞こえてくる。
テントに入ると、そこには奇妙な行列があった。
最初に目に入ったのは、煙の中でうずくまるドラゴンだった。
黄金の鱗が微かに光り、まるで粉雪をまとったように静かに呼吸している。
その目は人間のように悲しげで、しかし怒りに満ちてもいる。
私は思わず息を止めた。
そのとき、背後から声がした。
「お客様、クレームは受け付けておりますか?」
振り返ると、サンタの服を着た男が、長いひげをくるくると撫でながら、
じっと私を見つめていた。
赤い帽子の先がテントの梁に触れ、かすかに音を立てる。
「クレーム?」私は問い返す。
「はい、あらゆる不満や抗議、願い事の不調、すべてこの夜に受け止めます」
と、サンタは微笑む。
しかしその微笑みは、どこか痛々しく、
まるで自分自身を慰めるために笑っているかのようだ。
私は少し考え込む。
日常の些細な不満、他人の無理解、消えない孤独そんなものは、
このクリスマスの帳の中で果たして意味を持つのだろうか。
ドラゴンが静かに頭を持ち上げ、口から煙を吐いた。
その煙は星屑のように揺れ、テントの天井に黒い雲を描く。
するとサンタが手をかざし、煙を受け止める。
煙はまるで、夜のクレームそのもののようだった。
怒り、悲しみ、欲望、すべてが渦巻き、渦の中で小さな光に変わる。
「この夜、あなたの不満を私たちは形にします」サンタは言った。
その声は鐘のように響き、私の胸に小さな震えを残した。
するとドラゴンが立ち上がり、羽を広げる。
翼の裏には古い手紙が貼り付けられていて、
そこには「許されたい」「わかってほしい」といった文字が揺れている。
まるでこの世界のすべての思いが、
ドラゴンの背中に宿っているかのようだった。
私はその光景に、言葉を失う。
だが、サンタは静かに私に近づき、手のひらに小さな鈴を置いた。
「これを鳴らしてください。」
「そうすれば、あなたの心の声も、ドラゴンの声と一つになります」
私は鈴を手に取り、ゆっくりと振った。
かすかな音が、テントの奥深くまで響き渡る。
するとドラゴンは目を閉じ、まるでその音に安らぎを見出すかのように息を整える。
やがてテントの天井に、白い光が差し込んできた。
それは外の雪明かりで、粉雪の粒子がひとつひとつ、幻想的に輝く。
サンタは立ち上がり、ドラゴンの肩に手を置いた。
「すべてのクレームは、夜の光の中で形を変える。」
「怒りは風となり、悲しみは雪となり、願いは星になる」
私はテントの出口に向かう。
振り返ると、ドラゴンは静かに眠り、サンタは赤い影の中で微笑んでいる。
その姿は、まるで夢のように揺れて、決して現実では見えない光景のようだ。
夜の街に出ると、雪はますます白く、音もなく降っていた。
手に残った鈴の感触は、まだ微かに温かく、胸の奥に小さな希望の火を灯している。
私は静かに歩き出す。
冬の路地に消え入りそうな足音を響かせながら、サーカスの帳の奥で、
ドラゴンとサンタは今日も誰かの心のクレームを受け止めているのだろう。
雪は、私の肩にそっと触れ、そして消える。