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死神は舞い降りる
「|彩《アヤ》ちゃん、おはよう。体調はどう?」
いつもの看護師さんが私に声をかける。
「・・・いつもと同じ、です。」
「そっか・・・ご飯置いておくから食べてね。」
そう言うと、看護師さんは出ていった。いつもの独りの病室。私の病気は治らないから。もう愛想を尽かして誰も来なくなった。いつも遊んだ友達も、ずっと仲良くするって言った親友も、最近はお兄ちゃんさえも来ない。お母さんも、来て無事だって分かったらすぐ帰る。分かってる。仕事が忙しいって。私が入院してるからお金がかかる。でも、分かってても、やっぱり寂しい。あーあ、そんな事なら早く死んじゃった方がみんな喜ぶんじゃないかな。
「ガラッ」
病室のドアが開く。
「お母さん・・・じゃない?」
病室に入ってきたその人は、青い髪でマフラーを巻いてて、コートを着てる。こちらを見るとニコッと微笑んだ。
「やあ、始めまして。」
知らない人。
「えっと、誰、ですか?」
「俺・・・か。俺は、君と友達になりたいんだ。彩ちゃん。」
「とも、だち。」
友達になりたい、なんて言葉は久しぶりに聞いた。その人の声を聞いたら、少し落ち着けた。
「彩ちゃんは嫌だった?」
「ううん、全然。何なら、凄く嬉しい!ねぇ、お兄さんの名前は?」
「ああ、そう言えば言ってなかったな。俺は・・・|七糸《ナナシ》とでも。」
「分かった。七糸さんね。」
「ああ、ごめん。仕事が入ったから帰るな。」
「うん、じゃあね!」
そうして、私と七糸さんは出会った。
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「彩ちゃん、おはよう。」
「七糸さん、おはよう!」
七糸さんは今日も来てくれた。最近人と話す機会が少なかったから嬉しい。
「今日は何する?」
「えーっと、じゃあ、絵でも描こ!」
私はベッドの近くにある机から、紙と鉛筆を手にし、七糸さんに渡した。もちろん、自分の分も持って。
「彩ちゃん、絵が好きなの?」
「うん。病気になる前から、ずっと描いてるよ。」
「そっか。いつもは何描いてるの?」
「いつもはね・・・。」
そう、会話しながら絵を描いた。時折、七糸さんは悲しそうな顔をしていた気がする。
「よぉし!描けた!七糸さん、見て!」
描いたのは、天使みたいな子。いつもより可愛く仕上がった。
「ああ、彩ちゃんは絵が上手いね。あ、俺も描けたよ。」
そう言って、七糸さんも絵を見せる。
「わぁ・・・。七糸さん、絵上手いね!」
髪が長い女の人。ニコリと笑った顔をしていて、凄く、凄く引き付けられる。
「この人は誰?」
「この人は・・・誰なんだろうね。俺にも分からないや。」
不思議な顔をして七糸さんは言う。
「ん、こんな時に仕事が入ったか。それじゃ、俺は行くな。彩ちゃん、またね。」
「うん!お仕事頑張ってね!」
七糸さんと過ごす事。それはとても楽しい時間で、終わりなんて来て欲しくない。ずっと、ああやって楽しんでいたい。・・・「楽しい」なんて久々に思ったな。
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「七糸さん、今日も来てくれるかな。」
独り、そんな事を呟いていた時。
「ガラッ」
「七糸さ・・・お、お母さん。」
「彩、今日も生きてるのね。」
「うん・・・。」
「それなら良いわ。帰るから。」
「分かった・・・。」
「早く病気治しなさいよ。」
そう言って、お母さんは出ていった。もう、慣れた。病気が治らない事なんて、もう、知ってるのに。
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「今日も彩ちゃんに会いに行くか。《《もうそろそろ》》・・・だからな。」
最近通っている、彩ちゃんの病室に行く。
「ん、誰かいるな。あれが母親か。」
彩ちゃんの母親とすれ違うタイミングで、挨拶をする。
「おはようございます。」
「何?今暇じゃないのよ。」
「いえいえ。娘さんのお見舞いですか?」
「そんな所ね。でもあの子はどうせ死ぬ運命なのよ。早く死んでくれないかしら。」
「まあ、入院代も中々かかりますからね。」
「本当そう。これから仕事があるの。私は行くわ。」
「ええ、それでは。」
典型的なハズレ親だな。本来ならコイツで良いはずなんだが。廊下を少し歩き、彩ちゃんの病室のドアノブに手を掛けた。
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「ガラリ」
「彩ちゃん、今日も来たよ。」
「なな・・・しさん。」
「どうしたの。何かあった?」
今すぐにでも七糸さんに抱きつきたい。でも、足は動かない。きっと、嫌がるから。
「何か、お母さんに言われた?」
「・・・うん。」
「そっか・・・。」
そう言った七糸さんは、こっちに近づいて、私を抱き締めてくれた。
「そうだよね。大丈夫だよ。大事にしてくれる人はきっといるから。」
そんな風に励ましてくれた。もう抑えられなくって、いっぱい泣いちゃった。そのまま、疲れて寝ちゃった。起きたら七糸さんはもういなくて、外は夜だった。
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「彩ちゃん、おはよう。体調はどう?」
「前よりは、良くなりました。」
「分かった。ご飯置いておくから食べてね。」
いつもの看護師さんは病室を出て行った。
「今日は七糸さんと何しようかな〜。」
と考えつつ、朝ご飯を食べていると、
「ガラリ」
とドアが音を立て、七糸さんが入って来た。
「七糸さん、おはよう!」
「彩ちゃん。」
「どうしたの?」
七糸さんは不思議な顔でこちらを見て、言った。
「今まで、色々遊んで来たろ。」
「うん!全部楽しかったよ!」
「あれは・・・もう終わりだ。」
「な、なんで?」
「もう、今日が命日なんだよ。」
七糸さんは私にそう告げた。私は、今日、死ぬ。ハッキリ理解せざるを得なかった。
「やだ・・・やだよそんな事!まだ、まだ私七糸さんと遊んでたい!」
「まあ、俺も仕事なんだ。彩ちゃんの回収は今日。悪いが、魂もらっていく。それと、七糸は偽名だよ。」
「え・・・?」
七糸さんは、どこからか大きい鎌を取り出して、私の体をスパッと切った。いや、切れてはない。その代わり、体を動かす意志も、何も、もうない。これが、死という事。今理解するには、早すぎるんじゃないのかな。
「彩ちゃんの魂はちゃんと持って行くからさ。それで許してくれ。」
七糸さんは病室から出て行った。
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「さて、次は誰だ。」
「おーい死神ー!」
「・・・。」
「無視すんなって。あれだ、えっと、彩のとこ終わったの?」
「ああ。「七森彩」はもう死んだ。じきに看護師が気付くだろ。」
「お疲れー。色々大変だっただろ?」
「別にんな事ない。」
「さっすが天才。そんじゃ俺も行ってくるわー。」
俺は、また次の「仕事」に行く。
はーい。前回の短編よりかは長いですね。七糸の名前は、名無しだから漢字変えて七糸ってことです。あと、彩の苗字は日記で名前決まんねー!ってしてたら匿名さんからもらったものです。使わせてもらいました。