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呪術俳優
フィリー
番外編
特別講師:五条悟の「無下限」演技指導
集合時間は基本無視
「お疲れサマ〜! みんな、いい顔してるね。特に恵、その『もう帰りたそうな顔』、100点!」
1時間遅れで、高級スイーツの袋を提げて現れる五条。
「今日の授業はね——『死ぬ気で演るな、死んだ気で演れ』。以上! はい、今からこのスタジオで本気で僕を泣かせてみて」
授業内容は「丸投げ」
具体的な指導は一切なし。「僕を感動させたら合格」という超難題を投げ、自分はパイプ椅子に座ってスマホで新作スイーツの予約を始める。
「え、何したらいいかって? うーん、とりあえずアドリブで。あ、そこの虎杖、宿儺の表情でコーヒー淹れてみてよ。面白そうだし」
突然の「領域展開(独壇場)」
生徒たちが戸惑い、中途半端な演技を始めると、五条の目が(目隠しの隙間から)一瞬だけ鋭く光る。
「……甘いね。そんなんじゃ、観客(呪霊)は一人も救えないよ」
五条がスッと立ち上がり、一言セリフを発した瞬間、スタジオの空気が一変する。圧倒的なオーラが全員を支配し、生徒たちは「セリフが喉に張り付いて動けない」という極限状態に追い込まれる。
授業の締め(アフターフォロー)
生徒たちがボロボロになった頃に、ひょいと元の適当なノリに戻る。
「今の感覚、忘れないでね。それが『相手の芝居を殺す』ってこと。はい、今日のご褒美は仙台名物・喜久福! 恵の分はないから悠仁と野薔薇で分けていいよ」
【生徒たちの反応】
虎杖: 「すげー! 今のどうやったの先生!?」と目を輝かせる。
伏黒: 「……あの人、いつか必ずぶん殴る(役で)」と静かに闘志を燃やす。
釘崎: 「授業料返せってのよ! でも……さっきの間合い、盗めるわね」と手鏡でメイクを直しながら分析する。
「翻訳者」としての夏油傑と、最強の「感性」
「だからさぁ、もっと『スッ……』として『バァン!』だよ。わかる? 恵、今の全然『バァン!』が足りない。もっとこう、自分を爆発させて!」
放課後のスタジオに、五条悟の無責任な擬音が響き渡る。指導を受けている伏黒恵は、困惑を通り越して、もはや虚無の表情で立ち尽くしていた。隣で出番を待つ虎杖と釘崎も、「スッ……」のポーズを真似しては「……わかんねぇ」と首を傾げている。
その時、スタジオの重い扉が開き、もう一人の講師・夏油傑が歩いてきた。その手には人数分のスポーツドリンクがある。
「悟、また生徒を混乱させているのかい。君の感覚は一万人に一人しか持ち合わせていないんだ。それを押し付けるのは、台本を読まずに舞台に上がるようなものだよ」
夏油は五条の横に並び、苦笑いを浮かべながら、あえいでいる生徒たちに優しく視線を向けた。
「みんな、すまないね。今の悟の言葉を『役者言葉』に直そう。……悠仁、野薔薇。彼が言いたいのは『感情の初速』のことだ。セリフを吐き出す直前、自分の中に溜めた感情の爆発を、一切の予備動作なしで観客にぶつけろ、と言っているんだよ。
恵、君の場合は特にそうだ。十の役を使い分ける君は、切り替えに『間』を作りすぎる癖がある。それを0.1秒で、それこそ『スッ』と消して『バァン!』と新しい役を出す。……そういうことだろう? 悟」
五条は「そうそう! さすが傑、話が早い!」と、夏油の肩に腕を回して笑う。生徒たちの顔に、ようやく「納得」の光が宿った。
「……なるほど。切り替えのスピードを極限まで上げろってことか」
伏黒が納得したように呟き、再び集中力を高める。夏油はその姿を見届け、隣の五条にだけ聞こえる声で囁いた。
「悟、君のやり方は荒っぽすぎる。今のままだと、彼らは自分の才能に食い殺されてしまうよ」
「いいんだよ、傑。壊れるくらいじゃないと、あの宿儺とは並び立てない。……ま、壊れそうになったら君が拾ってくれるだろ?」
五条の信頼しきった言葉に、夏油は「やれやれ、最高の共犯者だと思われているようだね」と、再び深いため息をつきながらも、その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「……さて、休憩は終わりだ。次は私が見よう。悟、君は向こうでその高級大福でも食べていなさい。これ以上、生徒の脳を擬音で埋め尽くさないでくれ」
夏油が静かに袖をまくり、舞台へと上がる。五条は「はーい、お師匠様!」と適当に手を振りながら、本当に特等席で大福を食べ始めた。
芸能界最強のコンビによる、厳しくも愛のある「地獄のレッスン」は、夜が更けるまで続くのだった。