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【短編小説】冬の旅人
旅人「……今年もこの季節がやってきたのぉ…」
仕事を引退して以来、私は冬になると旅をする。
目的はない。行き先もない。
ただ津々浦々と、さまざまな者に出会いながら、旅をするのだ。
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私は狐と出会った。
私と出会うや否や、その者はキラキラと目を輝かせる。
その者はどうやら、冬眠のための巣を見つけられず彷徨っているようだった。
私はその者に洞穴の場所を教え、狐と別れた。
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私は猫に出会った。
その者は家の中からこちらを見つめていた。
私がそっと手を伸ばすと、その者はブルっと体を震わし、家の奥に行ってしまった。
その場には、猫の温かみだけが残る。
私は家の奥から漂う夕飯の匂いを後に、猫と別れた。
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私は恋人達に出会った。
その者達は私の置物を見るなり、互いに体を寄せ合った。
そして幸せそうに私の話をしながら、近くの建物に入っていってしまった。
私も行ってみたいが、私が行ったところで迷惑になるだけだ。
私は歩いてくる者たちを少し避けながら、恋人たちと別れた。
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私は女性と出会った。
女性は公園に一人座って泣いていた。
嗚咽の所々から『|悠陽《ゆうひ》』『なんで』『会いたい』という声が聞こえる。
その者からは、微かに『死』の気配がした。
私はその哀しい背中を見ながら、女性と別れた。
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私は男性と出会った。
鳴り響く機械音。白いベッド。私のことなど気にも止めずに泣き叫ぶ人々。
男性は、その様子を隅でそっと眺めていた。
そしてその者からは、強い『死』の香りがした。
ここは病院。その者は、突然の病に命を奪われていた。
私はそっとその者に近づく。
旅人「何をしているんじゃ?」
男 「…………う゛…?」
もはや人間の姿を保てていないその魂は、話すことすら困難なのだろう。
普通の人間には聞こえないであろうこの声に、死者は困惑しつつも耳を傾けていた。
旅人「そこにいるご家族との別れは済んでいるのかね?」
男 「……う…」
その魂は静かに揺れる。容認という意味だろう。
旅人「ではなぜ成仏しないんじゃ?」
男 「…………り…りな゛…が…」
旅人「梨奈とな?……ああ、彼女さんのことか。」
男 「……!…………じ…でる……の゛…?」
その質問に、私は静かに頷く。
その魂は一瞬光ったものの、すぐにおとなしくなってしまった。
旅人「?」
男 「…………も゛う………あ゛え゛ない………がえれ゛な゛い……から゛……」
旅人「……なるほどのぉ…」
私の全盛期の血が騒いだ。
なんとかして、この者達に笑って欲しくなった。
旅人(……できるかわからんが…やってみる価値はあるかのぉ…)
私は辺りを見渡す。
窓の外、かなり遠くに、黄色に光る花が見えた。
私は窓から飛び降りて、宙を舞って男性と別れた。
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私は森林公園に来ていた。
目の前には、大量の蝋梅が咲き誇っていた。
地面には、まだ綺麗な花びらがたくさん落ちていた。
持っていくには十分足りるだろう。
私は花が好きだ。
だから、花言葉や季節もよく知っている。
私は地面に触れる。
その瞬間、花びらが楽しく踊るように宙に浮かんだ。
私はそれらを導きながら、病院へと戻った。
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私は悠陽と出会った。
悠陽とその家族たちは、あまりの光景に言葉を失っていた。
それも無理はない。突然窓から光り輝く大量の花びらが舞い込んできたのだから。
100や200などではない量の花びらに、皆目を見張っている。
その時、悠陽の母と思われる女がつぶやいた。
母 「……悠陽…?あなた悠陽なの…?」
私は悠陽の方を見た。
旅人「蝋梅の花言葉は『先導』『導き』じゃ。これで君も来れるんじゃないかの?」
悠陽「……!!……り゛な…!!!」
私はそっと地面に花びらの一枚を落とす。
すると、悠陽はそこへと進むことができたのだ。
悠陽はこちらに体を向け、強く光り輝いた。
それを合図に、私は病室の扉を開けて、外へ飛び出した。
花びらが落ちて、まるで道のように行き先を示す。
旅人「ふぉっふぉっ…まだ早く動けるものじゃのぉ…!」
すると後ろから、父親の声が聞こえた。
父 「……!追え!この花びらを追ってくれ!!」
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私は梨奈にあった。
女は突然の光景に言葉を失っていた。
目の前には、死んだはずの彼氏が立っていたのだから。
梨奈「……悠陽?本当に悠陽なの…?」
悠陽「………り…な……」
梨奈「………!!悠陽っ!!」
梨奈は悠陽に抱きつき、糸が切れたように泣き出した。
悠陽はその背中を、愛おしそうに撫でていた。
その手は、少しずつ薄れていっていた。
梨奈「……悠陽…私ね、まだあなたに言えてないことたくさんあるの…」
悠陽「………ごめ゛んね゛……先に死んじゃって……」
梨奈「…謝らないで……事故はあなたのせいじゃないわ………」
悠陽「……ねぇ…梨奈…?僕の…こと……愛してた…?」
梨奈「……!当たり前じゃないっ……!!ずっとずっと…愛してる……!!」
悠陽「……………僕もだよ…!」
二人は触れ合えない体を寄せ合い、深く深く抱き合った。
やがて、悠陽の体が透け始めた。
悠陽「………もう行かないと……」
梨奈「……そっかぁ…じゃあ………また会いに行くね…!!」
悠陽「…うん…また会おうね………ありがとう…………」
そう言い残すと、悠陽はその場で完全に消え去った。
梨奈はその場で崩れ落ち、顔を覆ってしまった。
私は悠陽だった者に手を伸ばし、小さく上に振り上げる。
パアァァ………
その瞬間、上から光が差し込み、悠陽はゆっくりと空へ登っていった。
それとほぼ同時に、先ほどの家族が公園へと駆け込んでくる。
その者達は、一人の女性とその周りの蝋梅を交互に見た。
母 「………!あなた…彼女さん…?」
梨奈「……?お|義母《かあ》さん……お|義父《とう》さん………」
父 「……ここに…悠陽が来たのかい…?」
梨奈「!!…はい…来てくれました…!」
三人はよろよろと近寄り、抱きしめ合った。
そして感情を繋いでいた糸が切れたように泣き出してしまった。
私はそれを見つめた。
旅人(………この者達にも笑って欲しいのぉ…)
私は最後のサプライズを決行することにした。
私は全盛期の頃の技術や力の込め方を思い出しながら、とある花を咲かせた。
家族の周りに花が咲き乱れる。
その花を見た梨奈は、一言、ポツリとつぶやいた。
梨奈「………これ……ネリネの花だ……」
ネリネ…花言葉は『幸せな思い出』『また会う日を楽しみに』………
私は家族に笑顔が戻ったのを確認して、彼らと別れた。
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私は街に来ていた。
人々は私のことが見えないからか、目もくれずに歩いていく。
みんな、それぞれ幸せな家族を持っていた。
それが確認できたなら、私は満足だった。
歩いていると、子供達が楽しそうに私の歌を歌いながら歩いてくる。
私はその可愛らしい声に、そっと耳を傾けた。
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--- あわてんぼうのサンタクロース ---
--- クリスマスまえに やってきた ---
--- いそいでリンリンリン ---
--- いそいでリンリンリン ---
--- ならしておくれよかねを ---
--- リンリンリン リンリンリン ---
--- リンリンリン ---
--- あわてんぼうのサンタクロース ---
--- もいちどくるよと かえってく ---
--- さよならシャラランラン ---
--- さよならシャラランラン ---
--- タンブリンならしてきえた ---
--- シャラランラン シャラランラン ---
--- シャラランラン ---
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サンタ(全く…私はあわてんぼうなどではないぞ…)
私は少し悪態をつきつつも、笑顔になってしまう。
すると、空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
見上げてみると、赤い鼻を持つ友人が、空を駆けてきていた。
トナカイ「ちょっとサンタさん!何勝手にふらついてるんすか!?」
サンタ 「いやーすまないすまない、人々の様子が気になってね。」
トナカイ「全くもう…とにかく、早く乗ってください。」
サンタ 「ふぉっふぉっふぉっ…そうじゃの…そろそろ帰るか。」
私は友人が引いてきたソリに乗った。
そして、街の人々を振り向いて、静かにつぶやいた。
サンタ「……メリークリスマス…!」
私の旅は、今年もこうして幕を閉じた。
作品のテーマ:クリスマス、恋愛、花
作品の拘り :特にありません!適当に作ったものなので!
要望 :自主企画に参加してください…
お任せ欄 :特になし