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冬馬くんの、過去
「とうま…くん?」
声が震えた。
そこに立っていたのは、間違いなく冬馬くんだったから。
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「村山…」
冬馬くんが、震える声で私の苗字を呼ぶ。
「なんで…きた、の…?」
私も声を震わせながら言う。
「…」
冬馬くんは一瞬、口を閉じた。
私には、その一瞬がとても長く感じた。
「とりあえず…柵の向こうに戻って来れるか?」
冬馬くんが、声をかける。
声もかっこいい。
さすが女子にモテるイケメンだな…
って、今考えることじゃないけど…
すると、冬馬くんがゆっくりと歩いてきた。
「…?」
「ほら、手貸してやるから。戻ってこい。村山は良くても、俺は村山に死んでほしくない」
手が差し伸べられた。
「…!?え、えと…」
私は目を逸らしながら、冬馬くんの手をそーっと握る。
あったかい。
安心する…
「落ちるなよ。ほら、ゆっくりこっちに」
「…!」
冬馬くんと目が合う。
自分の心臓が、ドキドキと高鳴り始めたのを感じた。
そーっと、柵を跨ぐ。
「あっ…」
柵を越えた。
「え…えっと」
「良かった」
「話を聞くから、少しずつ話してみな」
「へ?」
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「…ってことがあったの…」
私は、うさちゃんがトイレの便器の中にあったこと、それから今までのいじめの内容をほとんど話してしまった。
こんな話を人にしたの、初めてなのに。
なんか…安心する。
「そんなに…ひどかったのか。俺も昔、|自殺《・・》しようとしたことがあるから…」
「…え?」
今…じさつ、って言った…?
「あぁいや、ごめん。なんでも…」
「聞くよ」
「え?」
「話、私で良かったら…聞くよ」
何故こんな言葉が出たのかは自分でもわからなかった。
でも、理由はわからなくても。
今、話を聞いておかないと、と思った。
「わかった。軽く話すね」
「うん。軽くでいいから、話して」
「俺、小2の頃、病気にかかったんだ。なんの病気かは伏せるけど、運動すると吐きそうになって、咳が出るの。今は何の支障もないんだけど…。それで、俺は差別を受けた」
「え…そんなことが…」
「差別の内容は、悪口とか陰口とかぐらいだったんだけど、俺はすごく傷ついた。サボってるわけじゃないのに疑われる。それがものすごく嫌で…。ある日、俺は|自傷《・・》を始めた」
「えっ…」
「今も、リスカの跡が残ってんだよ。だから俺、夏でも上着着てんの」
確かに、冬馬くんは夏でも、薄い上着を羽織っていた。
でも…それに、そんな深い意味があったなんて。
「それで、|自殺《・・》も試みたけど、勇気が出なかった。まだ、生きたいって気持ちが残ってたのかもな。それで今に至る」
「そんなことがあったんだ…。話してくれてありがとう。私を頼ってくれてありがとう。何というか…今は何も言えないけど、否定する気持ちはないよ。だから安心して。…ありがとう、今日も助けてくれて…」
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その日は、そのまま教室に帰った。
なぜか、いじめはいつもよりされなかった。
もしかして、私が|自殺《・・》しに行こうとしたの、わかってたのかな…?
そしてその日はそのまま下校した。
いつもは"明日"が嫌なのに、今日はすんなりと受け入れられたんだ。
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次の日。
「行ってきます」
「あら、今日は元気じゃない!気をつけてね」
あ…お母さんも、元気がないこと、一応気づいてたんだ。
学校へ向かう。