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遥かな君の悪夢を見た
グラムの001の夢小説です。
※本小説はミルグラム公式YouTubeチャンネルに投稿された「アンダーカバー」の囚人カバー動画から着想を得て執筆されております。読者の方には、本小説を見る前に、カバーを聞いてみる事をおすすめいたします。
※夢主ちゃんは囚人で、001君とは恋人設定です。Not看守である事についてもお気を付けください。
「……はぁっ、はぁ……!」
深夜、私は冷や汗や悪寒と共に目が覚めた。頬や首筋に伝っている汗が、どうしようもなく不快感を呼び覚ます。
「……どうしよ」
とりあえずこの大量の汗を拭いたいので、ベッドから体を出そうと、私はもぞもぞ動きはじめる。隣ですやすやと寝ている、青い髪の彼を起こさないように、ゆっくり慎重に。彼と寝る時、私はいつも壁側に追いやられているので、出るのも少し手間だ。でもこの定位置を変更する程でもないかな、とは思う。そして、慎重にベッドから出る。下手に彼を起こすのも忍びない気持ちになるので、本当に慎重に。
「ふぅ……」
そうやって、ベッドから無事に出れたはいいものの、汗のせいもあって、私の先程まで毛布に守られていた体は急激に冷えだした。このままじゃ明日の朝には風邪を引いてしまいそうだ。早くこの汗達を拭わないと、そう思いながら暗い部屋の中をよたよたと歩いた。真っ暗闇でほぼ何も見えないが、とりあえず、汗を拭える程度の布でも探せられれば良い。確かこんな所に置いていたような、と記憶を頼りに部屋のぐるぐる回る。
「どこだっけ……」
手を静かに振りかざして感覚で確かめてみるが、ちょっとやそっとでは見つからない。探している間にも体は冷え冷えとし始めていて、このまま行くと十分後にはくしゃみが出そうだ。早く寝てしまいたい、そう思った。
「…………あれ、あれ。#名前#ちゃん……? いる……?」
だがその時、後ろから聞き馴染みのある、何より大好きな声が聞こえた。この声の持ち主は、さっきまで私の隣ですやすやと眠っていた青髪の彼で、声が若干狼狽えていた。
「あ、遥君……。起こしちゃってごめんね。いるよ」
かろうじて居場所が分かる彼の方を見ながら、私は小声でそう答える。流石に深夜なので、他の囚人の人達が起きないためにも、小声でひそひそと声に出す。
「あ、#名前#ちゃんいた……。よかったぁ」
私の言葉が耳に入った途端、青髪の彼こと遥君はほっとした様子だった。起きたら私が隣に居ないっていうのが不安だったのかな、と思うと、なんだか遥君の事がとても可愛らしく思えてしょうがない。
「あ、えっとじゃあ、#名前#ちゃんどうしたの……? 早くこっち来て寝よ……?」
遥君は、そう言いながらほら、と言わんばかりに両手を広げている。純粋な表情に連続でキュンとしつつも、私はちょっと待ってと彼を止める。
「実は今汗かいちゃってて……。汗拭くから、待ってね」
「そ、そうだったんだ……。分かった」
「うん」
遥君と小声でお話していると、手に柔らかく望んでいた感触があった。ようやくハンカチを見つけた。これで一旦拭いてから、早く遥君の隣で寝てしまおう。
「ふぅ……」
「……あ、あのさ。#名前#ちゃん、なんで今汗かいちゃったの……? 僕、暑苦しかった、かな……?」
「ん?」
額から綺麗にしていると、突然に遥君がそんな事を言い始めた。その顔は、純粋に私を心配しているようで、なんだか子犬みたいとくすぐったい気持ちになりながらも、私は静かに声を出す。
「遥君の体温のせいじゃないよ。ただね……ちょっと、悪い夢見ちゃっただけ」
「悪い夢……?」
遥君がこてんと首を傾げる。
「えっと、どんな夢、だったの……?」
続けて遥君は言う。この質問、別に答えてあげてもいいのだが、個人的には、少しばかり悩ましい気持ちもある。少し逸らして、それでも話題に持ち出してきたら言ってあげようかな、と思って、私は一旦迷うフリをしてみた。
「……んー、それはね……。言おうかな、どうしようかな?」
「えぇ……?」
「ふふっ、聞きたい?」
「う、うん」
きっと遥君は、興味とか好奇心でこう聞いている訳じゃないんだろう。ただ単に、私が心配なんだろう。それは薄暗い中でもぼんやりと見える表情、そして若干上ずったような声色から伝わってくる。
「……じゃあね、教えるね」
私は、もうとっくに用済みのハンカチをそこら辺に置いて、ベッドで座っている遥君に近づく。そしてこそっと、耳打ちするような距離感と声量で言った。
「……遥君が……ここから居なくなっちゃう夢。こんなの、悪夢でしょ……?」
「え……?」
そう、私がさっきまで見ていた悪夢。それは遥君が、このミルグラムからきっかり居なくなる夢だった。存在が消滅していたのか、遥君がそれ以外のなんらかの形で居なくなっていたのか、それは夢なので、詳細には分からなかった。けれど、櫻井遥が居ない、そんな内容だったのは、くっきりと記憶にこびりついている。嫌になってしまう程に。
「あ、えっと、僕が……?」
「そう。おかしいよね、恋人が居なくなっちゃう夢を見るなんて……。ごめんね、こんなんだから言いたくなかったの」
遥君は、私のこんな話を聞いて隣でわたわたしはじめた。そんな所も可愛いが、私からしたら、そんな彼をしっかりと見る事さえ、今はどうしてか叶わない。ただじっと、俯いて自分の脚と両手を眺めていた。
「……あの、なんか……聞いちゃってごめん……」
でもそんな私に対しても、遥君はいつもと変わらず、優しく接してくれる。すごく焦っていて子供っぽいけど、まぁ実際に遥君は十七歳で、まだ子供だ。私はそんな彼が、すごく健気で大好きだ。
「ううん、いいの……。ねぇ、遥君」
「は、はい」
遥君をじっと見つめる。私の目線に遥君は驚くような素振りを見せているが、それもお構い無し。私は続ける。
「もし、遥君が居なくなっちゃっても――私は遥君の事、大好きだよ」
本当に居なくなった時の事なんて、考えたくはない。だからその気を紛らわすために、私は愛の言葉を伝える。
「え……。あ、はい……」
それに照れて頬を赤に染める遥君。なんだかそっけないなと思う。けど次の瞬間には、遥君も口を開いていた。
「ぼ、僕も#名前#ちゃんの事…………大好き……」
はにかみながら笑顔でそう言ってくれる遥君。私はそれに照れる素振りをわざと見せた。
「……嬉しいなぁ、ありがとう」
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それから数分後。遥君は私の隣ですやすやと眠っている。寝顔が少年みたいで、この子は本当に何から何まで子供みたいで可愛いな、と感じる。
「……」
遥君が、ミルグラムから居なくなる夢。あの夢には、果たしてどんな意味があるのだろうか。夢占い的には、確か恋人が死ぬ夢は、恋人との関係が変わるという意味を持っていたはず。
その言葉通りに考えれば、あの夢は、私と遥君の関係性がこれから何かしら変化していく、という事の暗示なのだろう。監獄だから結婚とかはないとして、破局とかそういう感じだろうか。それはそれでネガティブで嫌になってしまうが。
私達が、もし外の世界で付き合っていれば、死に対してこんなに怯える必要も無かったのだろうか。関係性が変わるって事は、結婚するって事なのかなとか、平和的に考えられただろうか。
ミルグラムは、常に死と隣り合わせであり、死というものに対して、ミルグラムに居る全員が深い価値観を持っている。それは私も同様だ。人殺しである囚人と、それを裁く使命を持つ看守。死という概念は、この監獄において重要なものである。
だからこそ、怖い。周りには人殺しが居る。その中には、ミコトの裏人格やコトコなど、とりあえずで誰かを殺しかねない奴も居るのだ。
最悪の可能性が、頭をよぎり続けて上手く眠れない。もし誰かに遥君が殺されたら、そう考えてしまうのだ。
「……遥君」
「ん……」
遥君の名前を呼んでも、目を覚まさない。今は眠っているだけだと頭では分かっているのに、心はこの状況に対して、謎の不安と恐怖を覚えて、とめどなくドロドロとした感情が溢れた。
「はぁ……」
汗もかいてないし、早く眠りたい。今一度毛布を自分と遥君の体にしっかりかけて、私は半ば強引に目をつむって寝る事にした。遥君の事は、また今度考えてしまおう。今は睡眠優先だ。
悪夢の続きを見ませんように、あの悪夢が正夢じゃありませんように。私はそう考えながら、段々と眠りに落ちた。
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その後、次に目覚めた時には、遥君は既に死んでいた。私が寝ている間に自殺したらしい。私はそれを、被害者面をしているムウから聞いた。
ハルカ君とムウちゃんの関係は本編と変わりません。なので夢主ちゃんはハルカ君を間接的に殺したムウちゃんを嫌っています。
新アンダーカバーに遥君がおらず、死亡説が囁かれた事に激重感情を抱いたので書きました。多分……多分死因はムウちゃんが赦されなかった事による自殺ですよね……?ボイスドラマの宣言通りって訳ですよね……?すごく、すごく辛いです。