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#何度目かの忘却
yozukieye
いつだっただろうか。月が綺麗だったある日、もっと近くで月が見たいと柄にもなく2人で宿の屋根に登り、月と星々を眺めていた。藍色の大空に浮かぶ煌びやかな星々と、その中央に鎮座している大きな満月。こういうとき、なんて言うんだったか……
「綺麗だね、|宵《よい》」
突然隣に座っていた青年がポツリと言葉を零した。そう綺麗、綺麗と言うんだった。心の中で『綺麗』という言葉を反芻していると、突然青年は僕を抱き寄せ、手を強く握った。彼の茶髪が肌に触れてくすぐったい。
「……あのね、宵。俺はさ、宵が俺のこと忘れちゃっても…何度でも、思い出させるから。」
突然の告白。泣いているような、笑っているような……掠れた囁き声が僕の耳元を吹き抜ける。それが義務かのような、贖罪のような…そんな重みのある声色。やがて体が離れ、青年は「突然ごめんね」と笑って見せた。形が崩れた彼のネックウォーマーから、毒々しい薔薇の花が覗いている。それが何故か嫌で、僕はネックウォーマーを整えてやる。体がその動作を覚えているかのように、すんなりと動いた。
「……宵、」
青年は何かを言い掛けたが、僕はその言葉を遮るように口を開いた。
「……ごめん。君、誰だっけ。」
自分でも驚くぐらいの冷たい声色。心も体も、凍りついてしまったような。青年は動ずることなくふっと笑うと、僕の頭を優しく、けれど力強く撫でて、こう言った。
「俺は|夜桜 炉津《よざくら ろづ》、君の相棒だよ。」
【No.006 *屋根の上の誓い *消去済み】
解・凍!!!☆☆☆