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第十話:第三の道
グライアとゲネシスの激突は、もはや制御不能な領域に達していた。北の冷気と東の生命の輝きがぶつかり合う境界は、世界の理が捻じ曲がる特異点と化し、天界の空は不安定に歪んでいた。
「世界の、理に従え、ゲネシス!」
グライアは、自身の感情を押し殺し、冥府の神としての絶対的な使命感だけで動いていた。彼女の手のひらに集束する黒い神力は、触れるものすべてを無に帰す、究極の「死」の概念そのものだった。
「僕の理想は、間違っていない!全ての命は輝くべきだ!」
ゲネシスもまた、純粋な信念を曲げない。白い神力を防御に徹しつつも、反撃の意思を見せていた。
――**殺したくない。**
グライアの心の奥底で、長年隠し続けた本能が叫ぶ。次神になったばかりの頃から共に過ごし、あの命知らずなアピールを鬱陶しいと思いながらも、愛おしいと感じてきた日々の記憶が、頭の中を駆け巡る。
「…私は、死を司る者として、この世界の欠陥を正さねばならない」
自分自身に言い聞かせるように、グライアは力をさらに高める。その視線は冷たい氷のようだが、焦点が定まっていなかった。
――**殺さないとでも言うのか、柱神たる妾が!**
冷徹な「冥府之神」としての使命感と、一人の|女性《神》としての「ゲネシスを愛する心」が、彼女の中で激しい嵐となって渦巻く。普段の「無言の圧力」など比にならないほどの重圧が、彼女自身にのしかかる。
ゲネシスは、そのグライアの苦悩に満ちた表情を見て、静かに微笑んだ。
「大丈夫だよ、グライア。君の理は正しい。俺は、君に罰せられるなら本望だ」
その言葉が、逆にグライアの心を深く抉る。彼が自らの罰を受け入れようとしている純粋さが、彼女の迷いをさらに深くした。手が震え、集束した神力が不安定になる。
――**違う。妾は、貴方を罰したいんじゃない。**
その瞬間、彼女の力が最大になる前に、突風が二人の間に吹き荒れた。
「「やめて!」」
シルフィアとゼフィールが、風と共に二人の間に割って入ったのだ。シルフィアは身を挺してグライアの攻撃を受け止めようとし、ゼフィールは冷静な面持ちで彼らの力の衝突地点のすぐそばに立った。
「貴方たちの信念はどちらも間違っていない。だが、このままでは世界が滅ぶ」
ゼフィールは静かながらも強い意志を込めた声で宣言した。
「第三の道がある!」
🔚