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1.特別アイテムの裏
「おっ?おっうっひゃあ!!あ、当たり出た?!やった!!」
わたしは、美波さくら。今話題の育成ゲーム、ぷにっとうさぎで、ガチャ引いたら1番いいお世話アイテムを手に入れたの!
「見て見て!この『夢幻のニンジン』!これでうちの『ぷにゅ太』、絶対最強になるよ!」
私は興奮冷めやらぬまま、すぐにアイテムをぷにゅ太に使った。画面の中で、愛らしいうさぎのキャラクター「ぷにゅ太」が、虹色のニンジンを嬉しそうに頬張る。次の瞬間、ぷにゅ太は画面いっぱいの光に包まれ、見違えるように成長した。
「すごい!ステータスがカンストしてる!やったね、ぷにゅ太!」
その日から、私の生活はぷにっとうさぎ中心になった。ぷにゅ太は最強のキャラクターとなり、ゲーム内のランキングはあっという間に1位。フォロワーも急増し、「さくらさんすごい!」「どうやって育てたんですか?」というコメントで溢れた。
私は有頂天になった。最高のアイテムを手に入れた「私」は特別なんだ。この輝かしい日々は永遠に続くと思っていた。
しかし、その栄光はあまりにも脆く、唐突に終わりを告げた。
ある日のログイン時、見慣れないシステムメッセージが表示された。
**【重要なお知らせ】**
**不正ツール利用者への対応について**
**この度、ゲーム内アイテム「夢幻のニンジン」の取得において、外部ツールによるデータの改ざんを確認いたしました。**
**利用規約に基づき、不正が確認されたユーザーアカウントは永久凍結処分とさせていただきます。**
**対象ユーザー:美波さくら**
「え……?」
頭が真っ白になった。不正ツール? データ改ざん? 全く身に覚えがない。私はただ、普通にガチャを引いて、普通にアイテムを使っただけだ。慌てて運営に問い合わせメールを送ったが、「調査の結果、不正は明白」という定型文の返信が来るだけだった。
アカウントは完全に消滅した。ぷにゅ太も、ランキング1位の栄光も、フォロワーからの称賛も、全てが一瞬で無に帰した。
「そんな……嘘でしょ……」
途方に暮れてSNSを開くと、状況はさらに最悪だった。「美波さくら」のアカウント凍結の話題で持ちきりになっていたのだ。「やっぱり不正だったんだ」「詐欺師じゃん」「ざまあみろ」――昨日まで私を褒めていた人々が、手のひらを返したように私を非難していた。
「違う、私は何もしてない!」叫びたかったが、声は出なかった。運営は取り合ってくれない。世間は不正者と決めつけた。
私はたった一つの「当たり」アイテムを手にしたことで、全てを失ったのだ。
画面の中のぷにゅ太が、ニンジンを食べる幸せそうな姿が脳裏に焼き付いて離れない。あれは夢だったのか。あれほど愛したゲームが、今はただの恐怖の対象でしかなかった。
「おっ? おっうっひゃあ……」
あの時の歓喜の声が、今は自分の首を絞める鎖のように聞こえる。