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となり
憧れている人がいた。その人は、転校生として私の学校にやってきた。私が話しかけると、ニコニコと笑顔を浮かべて返事をしてくれた。あ、きっとこの子はみんなに好かれるな、と直感した。そしてそれは当たった。その人はすぐにクラスの中心人物になった。でも、その人は私と一番親しくしてくれた。どうしてかわからなかった。ある日、私は意を決して聞いた。
「どうして私と仲良くしてくれるの。」その人はしばらく黙った。聞かなければよかったと後悔した。数十秒して、ようやくその人は口を開いた。「なんか、好き。」私は困った。その人ですら言葉にできない『なんか』が私から失われてしまったら、離れていってしまうのか。でもそれ以上追求できずに、会話は終わった。
その人は勉強もできた。テストではいつもいい点数を取っていた。その人は運動もできた。体育祭で誰よりも輝いていた。その人は気遣いができた。その人はどこか品を感じさせた。その人は行動力があった。その人は努力家だった。その人のことを知れば知るほど、羨ましいと思った。やっぱりすごいと思った。私のずっとずっと先にいるなと思った。
その人が隣にいると、窮屈で仕方なかった。差を見せつけられるたび、しんどかった。その人は私に対してマウントを取るようなことはしなかったんだ。私が勝手に比べていただけなんだ。悪いのは私なんだ。その事実が余計に私を苦しめた。
もう離れてしまえばいいんだと、ようやく気づいた。
私はその人と距離をとった。その人はそれから少しの間、寂しそうな顔をしていた。私は心の中で、仕方がないんだと自分に言い訳した。罪悪感を必死にかき消そうとした。
ある日に登校すると、私の机の中に手紙が入っていた。まだ誰もきていなかった。封を切って中を見た。手紙の中心に、端正な字でこう書かれていた。『好きだったよ』。すぐに誰からの手紙かわかった。そして、ああ私はやってしまったんだと理解した。私はもうその人に近づく権利なんてないんだと、思った。自分から離れたはずなのに、涙が落ちた。一粒だけだった。