公開中
知識戦
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 27
☆
3 minute
ナレッジ サヴァイバル
☆
京都にしては奇しく爽やかに空気が乾いた青く晴れた昼下がり。
八坂の五重塔に向かって何かに操られるようにフラフラと足を進めて集まり来る男が5人、女が5人の合わせて10人。
俺も何故かその男5人の一人に含まれていた。
10人の男女が五重塔の正面で歩みを止めた瞬間、突然のスモークが立ち込めた。
立ち込めたスモークに包まれた刹那、轟く雷鳴に全員が尻餅をついてた。
スモークに包まれた暗闇の中で俺は他の9人の気配を感じようと神経を集中してゆこうとした時、突然灯りがつけられた。
何が何だかわからず気も動転し、声も出せない、突然の灯りで視界も冴えない状態の耳に機械的な音声が聴こえてきた。
『ゆとり世代より選ばれし10人よ、3分間の知識の戦の始まりだ。』
※
ルール1
3分以内に男女ペアになり壁際に備えられたテーブルに付き、備え付けのタブレットへデータとして各個人を特定するコードカラーをインプットする。
ルール2
タブレットに示された課題を3分以内にクリアする。
クリア出来れば上階への通路が示される。
出来なければタブレットはその場で爆破され、そのペアは爆死する。
ルール3
課題は5題あり全てをクリア出来れば生きたまま解放される。
そして賞金としてペアチームに30万円が与えられる。
※
以上であると説明音声が止まった。
俺は他の9人の様子をチェックをし成り行きを眺めていた。
機械的な音声が言うように全員がゆとり世代ならば俺を含めて1995年前後の生まれのはずだ。
それぞれの男女は顔見知りでは無く初面識の様だが自然の流れのように次々にペアリングされてゆく。
勉強しかできないって感じの男女。
おバカ丸出しって感じの男女。
暗い雰囲気って感じの男女。
無駄に派手って感じ男女と自然とペアになってゆく。
そして俺の目の前には気弱雰囲気で見た目オタクぽい長い黒髪に黒ずくめの衣装の少女?が立っている。
年齢は不詳って感じだが、ゆとり世代に間違いないなら少女と言うより女性と言ったほうが良い年齢なのだろう。
俺と彼女は自然と寄り添い空席になっていたテーブルへ腰を降ろした。
タブレットの画面をタッチするとデータ入力ページが表した。
先ずは個人を確定するコードカラーを打ち込むため隣りに座る彼女の瞳を俺は見つめた。
モジモジと照れ顔で俯いている。
そのまま声を発しない、かと思うと自分のスマートフォンを取り出し文字を打ち込み俺に見せてくる。
〈今の状況に声を出すのは得策とは思えません。文字で会話いたしましょう〉
俺は見せられたスマホから彼女の瞳を再び見つめ直し、暫く考えて頷いた。
他のペア達は口々に言葉を発している、こう言う状況判断の足りなさの行動がゆとり世代の欠点なのだ。
俺は彼女が少女のような容姿のわりには内面は意外としっかりしているのではないのかと思えた。
俺もスマホを取り出し文字を打ち込んだ。
〈君の名は?〉
彼女はやや首を傾げ困り顔を浮かべたので、次の質問を俺はスマホに文字を打ち込んだ。
〈君の好きな色は?〉
すると彼女は微笑みながら〈赤〉とスマホに打ち込んだ。
俺はオッケーだと頷いてタブレットにレッドと打ち込み、俺の名前をブルーとして打ち込み彼女に見せた。
彼女の表情は疑問形を示されたかと思うと直ぐに納得顔に変わった。
タブレットにペアのチームコードカラー、ヴァイオレットと示されていたからだ。
それに気付いた俺は彼女のレッドと混じり合えばヴァイオレットになるカラーはブルー言う事に気づいたからだ。
その意味を彼女も理解できた様だ。
やはり頭の回転は早いと俺は確信し彼女に対する信頼度を少し高めた。
おそらく与えられたペアのチームコードカラーにも意味を持たせているのではないかと俺は思った。
☆
タブレットの画面が変わり課題が現れた。
「課題1
200問の漢字書き取りを3分以内におこなえ」
テーブルにはタブレットへ手描き記入するためのタッチペンが備え付けてあった。
画面に現れる問題の下に回答記入スペースが有る。
俺は直ぐさまタッチペンを手に取り書き込みを始めた。
おバカ丸出し男女ペアが突然大声で喚き散らし始めた。
何だよこれー意味わかんねぇよ。
その大声に集中力を乱されながらも俺は解答を続けた。
がっ?思い浮かばない問題に手が止まってしまった。
手を止めたまま考え込んでいると隣からすっと白い手が伸びてきタッチペンを取り上げられた。
彼女はタブレットに向かってスラスラと問題に解答を始めた。
そこからは彼女の独壇場となり3分間の終了を待たずして全問正解で終えていた。
おバカ丸出し男女ペア以外はギリギリで終わった様で安堵の声が囁かれていた。
3分間の終了ブザー音と同時におバカ丸出し男女ペアのタブレットが閃光を放った。
同時に爆音が響き二人の頭部が消え鮮血を吹き出していた。
不正解があったのか?タイムオーバーか?
残った8名、4ペアは、躊躇も容赦もない目の前の現実に唖然としていた。
☆
タブレットの画面が切り換わり上階への通路が示された。
4組のペアはその通路で上階へ場所を移動した。
そしてまた備え付けのテーブルへ付くと新たなタブレットが置かれていた。
各ペアチームカラーと各個人のカラーは既に表記されている。
息をつくまもなくタブレットに課題が示された。
「課題2 設問の人物の解説を記入せよ。問 黒田勘兵衛」
タブレットに表示されると同時に無駄に派手ペアの男の声がした。
誰?こんな奴知らねぇよ。
ペアの女が応える、えー、ドラマでやってじゃん。
男、ドラマって架空の人間だろ?
女、戦国時代のなんかーだった。 男、はぁ、戦国時代って何時代よ?
なんと無知な会話を耳にしながら俺は考えを巡らせた。
確かに大河ドラマにもなった程の人物を3分間で書き込みできるのだろうかと。
すると俺とペアになっている彼女は微笑みながら会話のためのスマホの画面を俺に見せるとタッチペンを手にタブレットに書き込み始めた。
〈任せて〉とスマホには表示されている。
何なんだろこの女性は、と思いながらタッチペンで書き込みを続ける彼女の横顔を見つめていた。
好きな色は、赤と言いながらも彼女の服装に赤色は無くモノトーンでまとめてある。
スマホやバッグも赤色では無い、なんとも不思議な女性だとおもいを思い巡らしている間に彼女はタッチペンをテーブルに置きひと息つくと3分間終了のブザーが鳴った。
同時に無駄に派手男女ペアのタブレットが閃光を放ち爆音を轟かせた。
先程と同じ様にペアの頭部は吹っ飛び鮮血を溢れさせている。
3組みが残りタブレットに表示された上階への通路へ足を進めた。
前回、前々回同様にテーブルが備え付けられタブレットもペアチームカラーと各個人のカラーが表示されていた。
3分間という時間に縛られ二度も爆死、見せつけられストレスもかなり貯まっていた。
「課題3 元素記号に変換せよ」
空気・水・アンモニア等々が200問表記されている。
暗い雰囲気男女ペアが唸り声を上げ頭を掻きむしり始めていた。
俺はタッチペンでとりあえず記憶にある元素記号からランダムに書き込み始めた。
ペアの彼女も顔を近づけタブレットをのぞき込んでいる。
俺は一応の記憶が出尽くすと解答が空欄の問にタッチペンを持って行き考え込んでいると彼女が俺の耳元で小さく囁いた、Mg。
初めて聞く彼女の声に一瞬戸惑いながらも空欄に書き込みをすると、次はAu。
次々と彼女のささやき声に助けられながら空欄が全て書き込まれたと同時に3分間終了のブザーを聞いた。
暗い雰囲気男女ペアのタブレットは閃光を放ち爆音を轟かせた。
前回、前々回同様にペアの頭部は消え鮮血を溢れさせていた。
俺と不思議な女性のペアと、お勉強しかできないって感じの男女ペアの2組が残り、タブレットに次への上階への通路が示された。
テーブルが2組が背中合わせになる様に置かれタブレットが備え付けられている。
ペアチームカラーと各個人のカラーも表示されている。
疲れ果てた気持ちのまま席に付くとなんの遠慮もなく課題が現れた。
「課題4 方程式を完成させよ、問は四問」
とたんにお勉強しかできないって感じのペアはタッチペンをタブレットの画面に走らせ始めた。
俺は自分の記憶と不思議な彼女の耳元での囁きを頼りに書き込み始めた。
3分間終了のブザーでタッチペンを置く。
だが、どちらのペアのタブレットは爆発せず次の上階への通路案内が現れた。
爆死の惨劇を見なかったおかげで気持ちがほんの少し落ち着く感じだった。
☆
上階へ足を踏み入れた瞬間、俺は息を呑み目を疑った。
そこにはテーブルもタブレットも無く、その部屋の中央に八角型に金網で囲まれたスペースが有ったからだ。
アメリカのメジャー格闘技団体で使用されオクタンゴに近い物の様だ。
タブレットの代わりに壁に液晶パネルが掛かっている。
その液晶パネルの画面に課題が現れた。
「課題5 闘え、生か死か」
ペアチームカラー・リーフグリーン。
個人カラー・イエロー 3分間、個人カラー・グリーン 3分間。
どうやらお勉強しかできないって感じ男女ペアを示しているらしかった。
呆気に取らている間に二人は操られているようにオクタンゴの中へと足を進めていた。
誰と何と闘うのか疑問に思っていると壁の一部が開かられた。
とたんに咽るような獣臭が漂った。
姿を現したのは全身剛毛に被われた二足歩行の姿だった。
まさかゴリラかと思ったが身体と手足のバランスは人間の様にみられた。
しかし、人間にしては背丈は2メートルを楽に超えているし体重も200キロはありそうだ。
その容姿に俺はたとえペアである二人が共に力を合わせて闘って勝てるとはとても思えなかった。
しかし、何の躊躇も無く闘い開始のゴングが鳴った。
ゴリラ人間は両手を高々と上げ虎咆を上げながらお勉強しかできないって感じのペアの男に襲いかかった。
その野生のような姿と虎咆の激しさにペアの男は悲鳴を上げながら腰を抜かしその場にへたり込んでしまった。
俺は、思わずお勉強男に向かって叫ぶように声をかけた、動け、止まるな、動き続けろ。
オクタンゴがアメリカのメジャー格闘技団体と同じなら直径8メートルはあるはずだ、動き続けて捕まらなければ生き延びれると思ったからだ。
お勉強男は悲鳴を上げながら逃げまわった、転げ回りながら逃げまわった。
必死に動いたお勉強男の息が上がり動きが止まった時、3分間終了のブザーが鳴った。
ブザーと同時にゴリラ人間は身体の向きを変えお勉強女に襲いかかった。
瞬間、お勉強男がゴリラ人間とお勉強女の間に割り込みゴリラ人間が振るった猛烈な右手の張り手を脇腹に受け反対側の金網へ吹っ飛び激突しその場に崩れ落ち吐血した。
内臓破裂か肋骨が折れ内臓に刺さったのだろう。
お勉強女は泣き叫びながらお勉強男に駆け寄り抱き締めた。
ゴリラ人間は容赦無くお勉強女の背中に再び右手の張り手を振るった。
お勉強女は声を発する間もなく身体ごと項垂れ息を引き取った。
二度目の3分間終了のブザーを聞くことなく二人は殺されたのだ。
ゴリラ人間はオクタンゴを何事もなかったように出てゆく。
液晶パネルに3分後にヴァイオレットチーム。
レッド 3分間、ブルー 3分間の課題を開始する。と表示された。
俺はレッドである彼女に耳打ちをした、金網を背にして常にゴリラ人間を視界に捉えながら左右にサイドステップで動く様に策を伝えた。
俺に構わず自分を守る事に集中する様に伝えた。
液晶パネルにオクタンゴに入れと指示がでた。
俺達はオクタンゴの中へと足を進めて対角線上になる様に離れ見つめ合う態勢をとり気を引き締めた。
ゴリラ人間が相変わらず獣臭を漂わせながらオクタンゴへと入って来る。
闘い開始のゴングが鳴った。
俺はゴリラ人間に向かって雄叫びを上げ注意を自分に向けさせゴリラ人間に向かって走り出し足下をスライディングですり抜けた。
ゴリラ人間の後方へ位置を取り素早く振り向きゴリラ人間の左足の膝裏に向かって再びスライディングキックを放った。
俺の足裏にはかなりの衝撃が有ったが、ゴリラ人間の左足は残念ながらダメージはみられなかった。
しかし、止まってはいられないと思いその場で左手を軸に身体を回転させ回転蹴りを放った。
蹴りはゴリラ人間の左足の膝の内側へヒットした。
ゴリラ人間は何事もなかったように右手を横殴りに振るってくる。
俺はその横殴りを間一髪で左へ転がり躱した。
ゴリラ人間は身体の向きを変え俺の正面に位置を移動させてきた。
また俺はゴリラ人間の左足の膝へ低空飛行のドロップキックを放った。
正面からの蹴りなら膝関節にダメージは与えられるはずと考えたからだ。
思惑通り?だか若干だがゴリラ人間の表情が歪んだ様に見えた時、3分間終了のブザーが鳴った。
ゴリラ人間はあっさりと身体の向きを変え俺のペアである彼女に向かって左足を踏み出した。
踏み出す瞬間に俺は膝裏にもう一度スライディングキックを放った。
ゴリラ人間は意識が彼女に向かっていたせいか意外に脆く後方へ倒れてきた。
不意打ちで倒れたせいかゴリラ人間は後頭部を強かに床に激突させた。
床に倒れたゴリラ人間は暫く動かなかったが、ゆっくりと上半身を起こしたが様子がぼんやりしている。
俺は脳震盪を起こしているのだろうと察し、ゴリラ人間の背後に回り込み座り込んだ状態の後頭部へ向かって若干の助走を付けてドロップキックを放った。
ゴリラ人間の頭はガクッンと前に倒れた、が首を左右に振ると右手で後頭部を押さえながら顔を俺の方へ向けギロリと睨んできた。
おもむろにと言うよりは、鈍間に左足の膝を立て立ち上がろとしている。
がかなり動きが鈍っている。
ここが勝機!?
今だと思った俺は ゴリラ人間の正面に立ち左足の回し蹴りを右の脇腹に思いっきり蹴り込んだ。
反射的にゴリラ人間の右手が下がってくる、下がってきた腕と脇腹に俺の左足は挟まれた。
すかさず右足をゴリラ人間の片膝立ちになっている左足の膝に乗せ跳ね上がり両手の掌をゴリラ人間の両眼に押し付け前方へ重心を預けた。
ゴリラ人間はその勢いのまま後方へ倒れ再び後頭部を床に激突させた。
ゴリラ人間の頭蓋骨を透して掌に衝撃が伝わっくる。
俺はこのまま動かないでくれと願いながら床に伸びているゴリラ人間の傍を残心しながら離れた。
が、次の瞬間、ゴリラ人間の眼が突然、カッと見開かれた。
見開かれた同時にモノトーンの疾風がゴリラ人間の顔面めがけて両手を振り下ろしていた。
それは俺のペアである彼女がゴリラ人間の左眼にタブレットの書き込み用タッチペンを突き立てた光景だった。
ゴリラ人間は叫び声、悲鳴こそ発したが動き出す様子はなかった。
俺は彼女に近づきそっと肩を抱き寄せゴリラ人間の傍らから引き離した。
☆
二度目の3分間終了のブザーが鳴った。
液晶パネルに課題修了の文字が写しだされ、液晶パネルの下の壁の一部がスライドし賞金の30万円が出てきた。
同時に何処からか声が聞こえてきた、その声は機械的な音声ではなく、少し嗄れた年配男性の肉声だった。
『これより君達二人には夫婦となってもらい子孫を作り出してもらう』
呆気に取られながらも俺は叫ぶように疑問を問いただした。
「なんなんだこれは、そのうえ勝手に他人の人生を決められると思っているのか」
年配男性の肉声はしばらくの間を置いて応えた。
『世の中に溢れている使えないゆとり世代、社会のお荷物になっているゆとり世代の選別と排除のためだ、今後この国家プロジェクトは国内の各地で行なわれる。君達二人は栄誉ある第一号優秀認定者だ』
その声を最後に音声もなく、液晶パネルの向かい側の壁が開け放たれた。
開け放たれた壁の上部には、登竜門と記されていた。
俺は吹っ切れない思いのまま彼女の手を握り登竜門の外へ出た。
そこは八坂の五重塔の最上階の外回廊だった。
辺りは夕暮れ時になっている、夕陽の赤に染まる京都は美しく心を落ち着かせてくれた。
彼女は俺の顔を見つめ自分の顔を近づけ来て囁いた
「あたし、青子」
「俺は、快斗」
二人の唇は触れ合っていた。
終了。