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見えないものはすぐそこに
モブさんと鬼太郎 恋愛なし
五期イメージ
少し猫背で歩く小さな子供だとか。
からんからんと下駄を鳴らす少年だとか。
髪を針に変えたり、下駄を自在に操ったりして戦う正義の味方だとか。
ゲゲゲの鬼太郎の噂は尽きず、彼に助けられたという誰もが喝采を送る。
私は信じてなかった。
妖怪なんて居る筈がない。
「リモコン下駄!」
視界に映る警告色。揺れる茶髪と細身の身体。
妖怪少年ゲゲゲの鬼太郎。
「ここは僕に任せて、早く逃げて下さい!」
腰が抜けて立ち上がれない私を引っ張ったのは、大きなリボンを頭に付けた女の子。彼女は白い布の上に私を乗せた。
「え、え、布が自分で浮いてる…!?」
「一旦木綿よ。聞いたことない?」
女の子がにっこり笑って言った。
そういえば鬼太郎の噂の一つに、そんな名前が登場していた。いったんもめん。不思議な響きだ。
「あたしは猫娘。それで戦ってるのは…きっと知ってるわよね?」
「ゲゲゲの鬼太郎…」
空から戦うあの子を見下ろして呆然と呟いた。
まさか本当に居たなんて。妖怪がこの世に。
「妖怪はずっと居るばい。あんたの傍にもたーくさん」
「ええ」
猫娘ちゃんは可憐に微笑んだ。その笑顔は妖怪のイメージとは程遠い。
でももしかしたら、妖怪の悍ましさも恐ろしさも、人間が作り出したものなのかもしれない。
「妖怪も人間も、仲良く…」
無意識のうちに呟いて、唇に指を押し当てられた。
「だめよ」
猫娘ちゃんの笑顔。でもさっきとは違う、切なさを含んだ瞳。
「妖怪と人間は、」
眩しい夕陽の中で、言葉の続きを聞いた。
それは優しい諦めだった。遥か昔から隔てられてきた二者の、その遠さを私は感じた。
守り救い、助ける。でも交わらない。交わってはいけない。隔絶してお互いを傷つけないように。触れて壊さないように。
それでも、見えないものはすぐそばにいる。
そんな囁きが聞こえた気がした。