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甘咬み
微BL気味です
本日のキャスト(?)
・おとちゅわん:13歳。キメラ、シラフでは絶対抱きつくだの撫でるだのさせてくれない。また中。
・かぬぁい(嘉内):200歳。悪魔。音ちゃんを連れて未知なるジビエを求めるハンター。農家でもある。
・ちゅくも(つくも):349歳。付喪神。浅野家の居候。最近は手芸にハマっている。
※また中とは?
・またたび中毒のこと。音ちゃんはすっかり虜。
とんとんと戸を叩くと、茶髪がちらりと見えた。そう、ぼくは今音ちゃん家にいる。正確には音ちゃん家の玄関であるけれど。
野菜のお裾分けのついでに泊まっていこうかなと、そう思った所存だ!
扉が開くと、浅葱色の目をきょろりと回して、バツが悪そうな声で歓迎してくれた。今日は珍しくTシャツらしい、肉球が控えめにデザインされている物。つくもプレゼンツらしい。
「いらっしゃい」
「おじゃましま〜す」
「お邪魔するなら帰ってや」
「つれないなぁ……」
「嘘だよ、先に座ってて、つくもがまだ寝てんだよね」
「野菜…持ってきたんだけど」
「お野菜と喋ってて」
意味不明なことばで応じながら、そっと一階の奥へ消えていった。こんな事を言うのは失礼だけど、おとちゃんのお家はさほど大きいわけでもない、だけれど、つくものいる一階の奥だけは、薄暗くて、果てしなく廊下が続いているように感じる。
手持ち無沙汰に野菜に油性ペンをお借りして顔を書いていると、眠そうなつくもを抱き上げて音ちゃんが顔を出した。お母さんかな、眠い赤子を連れ出したお母さん。
「あらぁ…おはよです…ジンギスカン…」
最後の一言が余計。
「スペアリブじゃないの?あともう昼だよ、つくも、」
僕って食べ物しか見えないのだろうか。あとそこじゃない。
音ちゃんがつくもを窓際に連れて行って、日光を嫌がる吸血鬼みたいに喚くつくもを起こしている。自然の力で起こしているというわけだ、エコかもしれない。それから少し経って、諦めたのか眠気がたっぷりのこったつくもを抱いたまま、そっと隣りに座ってきた。いつここにきても、音ちゃんの距離が異様に近い。
「ちょっと近い……」
恥ずかしくなって呟くと、嫌?と言わんばかりに小首を傾げられた。言葉に詰まってもげんばかりに首をふると、不思議な微笑を返してくる。
「照れてんじゃないんですよこのラム肉」
「僕200歳超えだよ、少なくとも子羊とは呼ばれたくないな」
「200歳も子羊も同じだろ」
「音ちゃんだって子猫って言われたくないでしょ?」
「…だね、つくも、嘉内は子羊じゃない」
「ほぉら」
むっと頬を膨らませたつくもにはたかれると、音ちゃんが怒ってつくもの頬を引っ張る。
まるで子猫のじゃれ合いのような状況に目を細めていると、こちらの目線が言外につける含みに勘づいたのか、恨めしげに二人に睨まれた。
「……庭に埋めるか」
「浅野さんもたまには良いこといいますね……」
まるで猫が獲物を狙うような、ギラついた目で睨まれると、蛇ににらまれた蛙のように、ぴくりとも体が動かなかった。
「でも樹海とか山のほうが見つかんなかったりするんじゃ?」
「それもあるけど…シシとかにこいつを食われるのは気に食わない」
「じゃああなたが食べればいいじゃないですか、ほら、食べて証拠隠滅とか…」
「羊の肉はクセがあるって聞くけど…人間混じりでしょ…」
「人間も羊もあれは浅野さんも好きな味です、保証します」
「殺るかぁ…」
本人の前で殺人計画を立てるのはいいけれど、もう少し理的な答えを出して欲しさがある。そしてつくもの答え的に人間を食べたことがあるってのがなにより恐ろしいかもしれない。なんだか変な顔をしていたのか、そっとつくもに言われた。
「あの、宗教というか、生贄的なやつですよ?やむを得なくですよ?」
たまに心を読んだみたいなそぶりを見せてくるから、なんだかぼくも油断できないなぁ……
「で、どうしますか」
「つくも食べればいいじゃん…嘉内のこと」
「まずそうなので遠慮します」
そう言いながらつくもがそっと音ちゃんの膝から降りて、ものすごい眼差しを僕に向けてくる。ほんとうに、ものすごいとしか、言いようがない。
失礼じゃない?食わなきゃわかんないと言うか、食べられたくないけど。
「あなたが食べればいいじゃないですかっ」
そう言って、にやりと笑みを浮かべながら思いっきり音ちゃんが倒れ込んでくる。つくもが押したんだろう。そして僕の心臓ははちきれそうである。今にも口から出てきてもおかしくないとおもうくらい。
「……」
じっとまあるい浅葱色の目が見つめてきて、のすっと膝に乗ってくる。そのまま猫のように不自然に見つめてくるもので、どうにも落ち着かない。このままつくもの方に押し返せば事は終わるだろうに、このまま終わってほしくない名残惜しさがある。
「タベマス?」
声が裏返りながらも音ちゃんにふざけて聞いてみると、さも真剣な顔つきでこくりと小さく頷いてから、そっと肩に手をかけられた。ふわりとやわらかなひまわりのような。匂いがする。思わず目をつぶってしまった。首筋がくすぐったいのはたぶんおとちゃんの髪の毛だろう。
それからついばむような、甘咬みにも程遠い、そんな感じだ。どうやら僕は今は食べられているらしいので、食べ物らしく静かにしておくことにする。
目は開けていいよねとぱちっと目を開けると、第一に音ちゃんの尻尾が見えた。ゆらゆらと振り子時計のように揺れていて、それから耳をごろごろというような音が打って、珍しくおとちゃんの耳が後ろ側に倒れているだとか、後ろにそっと手が回されているだとか、あと今日の靴下かわいいなとか。
前は無地の白色だったけど今日はコミカルな猫がプリントされている。これは絶対つくもが選んだやつ。シュミ的に直感でわかる。
「あの…完全に私だけ置き去りにされてますよね…」
目を伏せてなんだか気まずそうな苦笑いでつくもがそう言った。気にしてないのか変わらずおとちゃんの尻尾は上機嫌に揺れていて、時折ピタッと止まっては、また動き出す。
もはやつまらなくなったのかおとちゃんの尻尾でつくもが遊びだすと、ようやく肩口から顔があがった。
「…ごちそーさん」
起き上がって体を離したと思えば、そのまま何事もなかったかのようにすたすたと廊下に消えていく。
どうにもやるせないような、仕返しをしてやりたいような、何分もあぁと焦らされてしまっては体が持たない気がする。
そう思って、廊下に消えた音ちゃんを追いかけた。
ごめんよ、語彙力がなくて、改行がへたで
でも愛はあるんだよ…✨️