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3話「アルデニア町」
森を抜けると、まるで絵本のような景色が広がった。
――大きな門。
――色とりどりの屋根の家々。
――そして道の両脇では、見たことのない動物や人が行き交っている。
「ここが……アルデニア町?」
ミオが呟くと、ルナが胸を張った。
「うん!この地域で一番にぎわってる町だよ。旅をするなら、まずここで情報集めとか装備とかだね!」
「装備……?私、武器とか持つ感じなの?」
「だいじょうぶ、いきなり危ないのは渡さないよ!杖とかお守り的なやつからにしよ!」
「ポヨッ!」
ポヨはすでに町の匂いに夢中で、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
「ねえ、ポヨはぐれないでよ!?」
■町の人たちと、ミオの第一歩
門の前では、甲冑をつけた見張りの人が立っていた。
人間に見えるけど、瞳の色が琥珀に光っていて、どこか普通の人と違う。
「ようこそアルデニアへ!旅人さんかい?」
少し緊張しながら、ミオはうなずく。
「……はい。旅の途中で」
「あんた、転生者か?」
「えっ!?なんで分かるの!?」
「そりゃあ、その世界の服装に見えないし、ポヨ連れてる時点でね〜」
「ポヨが基準なの!?」
「ポヨッ!」
誇らしげに胸を張るポヨ。やっぱり自覚あるらしい。
見張りの人は続けた。
「この町には転生者がたまに来るんだよ。みんな最初は戸惑ってるけど、慣れたら楽しく過ごしてるさ。わからんことあったら、町ん中で聞くといい」
そしてニッと笑った。
その笑顔が、ミオの胸を少しだけ温かくした。
「……ありがとうございます」
■はじめての市場
門をくぐると――
視界いっぱいに広がる色、音、におい。
焼き菓子の甘い匂い、スパイスの香り、賑やかな声、楽器の音。
ミオは思わず立ち止まってしまった。
「わ……すごい」
「ここは“市場通り”っていってね、新しい物や情報が集まる場所なんだ。ミオが探してる“記憶の欠片”のヒントもあるかもしれないよ」
ルナが言うと、ポヨはすでに食べ物屋台の前でぴょんぴょんしていた。
「ポヨ!勝手に食べたらだめ!」
「ポヨッ~!」
店主は笑いながら、
「お嬢ちゃん、ペットかわいいね。近づいても怒らないから安心して」
と言い、ポヨの頭をぽふぽふと撫でた。
ミオはふっと微笑む。
――こんなふうに誰かと話すこと、
――こんなふうに誰かに笑いかけられること、
自分には縁がなかったと思っていた。
なのに、この世界では普通みたいに訪れる。
「……なんか、不思議だね。怖かったはずの“人”が、ここではちょっと違って見える」
「ミオが安心してくれてるなら嬉しいよ」
ルナは照れたように笑う。
■記憶の欠片の手がかり
市場の端のほうに、小さな古道具屋があった。
看板がかすれていて、店内も少し暗い。
なのに、入口の前だけがふわっと光っている。
「……あれ、記憶の欠片に似てない?」
ミオが近づくと――
店の中からしわがれた声がした。
「おや、転生者のお嬢ちゃんじゃないかい」
暗がりから現れたのは、年配の女性。
優しそうな目をしていた。
「あなたが探してるもの……“欠片”の波動を感じるよ」
「えっ、本当に!?どこにあるんですか?」
女性はミオをじっと見つめた。
「欠片が示す場所はね……“人と心が交わるところ”さ。この町のどこかにあるはずだよ」
「人と……心……?」
ルナがこっそり耳打ちしてくる。
「ミオの心に関わる出来事が起きるってことかもね」
「え、なんか怖い言い方しないでよ!」
女性は続ける。
「でも大丈夫。ひとりじゃないだろう?」
ミオは一瞬、言葉に詰まった。
……ひとりじゃない?
ポヨは足元でぴょんと跳ねる。
ルナは隣で、安心させるような笑顔を浮かべている。
ミオは小さく息を吸い、ほんの少し赤い顔で言った。
「……うん。仲間、いるから」
「ポヨッ!」
「任せてね!」
女性は満足そうにうなずいた。
「ならば欠片は、きっと近いよ」
その言葉が、次の予兆のように響いた。
■そして物語は、町で動き出す
アルデニア町のどこかに眠る“記憶の欠片”。
それはミオの過去にも、この世界にも関わる何かを示していた。
ミオは拳を軽く握った。
「よし……探しに行こう!みんなで」
ルナはうなずき、ポヨは元気よく跳ねる。
こうしてミオたちは、初めての町で新たな一歩を踏み出した。
次回4第話「危機はすぐそこに」
12月14日18時投稿!