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求めてもいない助け船
少し会話多めかもです。
屋上から飛び降りた途端、浮遊感に包まれる。
周りの景色が上に動く。
確実に目的を遂行できるように、高めのビルを選んだ。
『こんにちは。』
何処かからの声に、私は周囲を見渡す。
紫髪の人が、こちらを見ていた。
なんで、落下中のはずなのに。
状況を飲み込むのに時間がかかっていると、
浮いている人は軽く笑った。
『そんなに驚かないでくださいよ。#名前#さん』
なんで、私の名前を。
この人の事、知らないはずなのに。
『どうせ、死ぬわけですから。僕のお話、聞いてくれますか?』
答える間もなく、口を開く
『この世界は面白いですよ。』
『適度な不完全さによって成り立っていますから。』
『例えば、この世界にいる全ての人が、善人になったら。』
『裁判官の仕事は消えます。誰も悪いことをしないのですから。』
『不思議ですよね。
道徳で習った善行を全員がする。それは正しいけれど、正しくない。』
そう言って、
紫髪は下を見下ろした後、残念そうな顔をした。
『もう時間が少ないですね。』
『どうしますか?生きたいですか?』
『僕には貴方を助ける手段があります。』
私も下を見下ろす。
とんでもない速度で迫ってくる地面。
それを見た途端、足が震えた。
「__嫌だ、__死にたくない」
『......ふふ』
『人間はここまで生に執着するんですね。面白い。』
私達は、そのまま落ちていった。
――ぶつかる
そう思った瞬間、誰かに抱きかかえられたような感触がして。
次に目を開けたときには
『起きましたか。意外とぐっすり寝ていましたよ。』
『かなり緊張状態にあったのでしょうね。』
周りを見渡すと、普遍的な部屋だった。
特段目立つ部分はなく、しいて言えば部屋がきれいに整いすぎているぐらいだった。
「ここ、どこ?」
『僕の家です。長らく入っていないので、ほぼ新築ですが。』
そういいながら、
紫髪の人はキッチンで何かを作り始める。
その様子を眺めながら、ふと疑問に思ったことを聞く
「なんで、助けたんですか?」
私が尋ねると、
彼は少し考えるふりをした後、話した。
『なんとなく。ですね。』
「え?」
『死ぬために飛び降りたのに』
『最後は怖い、生きたいって、そう思っていたでしょう?』
『その矛盾が面白いんですよ。僕にとって』
一通り話した後、彼はもう一度考えるそぶりを見せた後、
軽く笑った。
『正しいことを言うと、わからないですね』
『でも、助けたい。』
『こんな感覚、初めてでした』
『まぁ、ある一種の好奇心に近いのかもしれませんね。』
『聞きたいことがあれば、今答えれますよ。』
「じゃあ、貴方は誰ですか?」
『うーん、難しい質問ですね』
『一言で表すなら「上位存在」でしょうか』
『宗教の誕生と同時に生まれた、信仰心の神様です。』
私は名前を聞きたかっただけなのに、
急に難しい話になってしまった。
「いや、、名前、聞きたくて」
『あぁ、そういう事でしたか。』
『改めまして、剣持刀也でございます。』
「けんもち、とうや」
確かめながら、復唱する。
どう呼べばいいのだろう...剣持さん、はなんか遠いし。
「なんて呼べば、いいですか?」
『うーん。普段人間と関わらないので、具体例がないですね。』
『|友達《人外》からも、二人称でしか呼ばれないですし。』
「じゃあ...刀也さんにします。」
『不思議な感覚ですね。人間から名前で呼ばれるのって。』
『まぁ、適当に呼んでもらえばいいですよ。』
「刀也さん、何作ってるの?」
『おなかが空いていそうな#名前#の為のご飯です。
1日ぐらい寝ていましたからね。マジで死んだかと』
「へぇー、意外に心配とかするんですね。」
『いやいや』
そういうと、刀也さんは顔の前で手を振る。
『せっかく手に入れた面白そうな|玩具《おもちゃ》が壊れたらいやでしょう?』
「酷い」
『僕にしては優しい方ですよ。』
『いつもなら見殺しにしてたところを助けたんですから。』
そういいながら、
手元では美味しそうなおかゆが出来上がっている。
死のうと本気で思って、飛び降りた相手に、
ここまで優しくできるのか。
『美味しくないかもですけど、一応できましたよ。』
そう言って、ダイニングテーブルに鍋を置く。
同時に、スプーンも置かれている。
「ありがとうございます。」
お礼をして、
テーブルの椅子へ向かう。
『お茶碗は無かったので、鍋で勘弁してください。』
「美味しそう......」
思わず言ってしまうほど、
目の前に置かれた料理は輝いて見えた。
「いただきます」
スプーンを持ち、おかゆを口に運ぶ。
そういえば、ここ最近まともなご飯を食べていない。
横を見ると、刀也さんが私の方を興味深そうに見ていた。
好奇心と、何かが混ざった不思議な目線。
そんなことは気にせずに、どんどんと食べ進める。
『本当に美味しそうに食べますね。』
じっとこちらを見ていた刀也さんが口を開いた。
「刀也さんは食べないんですか?」
そう聞くと、少し驚いたような顔をして
『じゃあ、頂こうかな』
台所から、もう一つのスプーンを取り出した。
『まぁ、僕は食べなくても生きれるんですけど』
そう言いながら、刀也さんはおかゆを口に運ぶ。
食べる必要がないなら、
なんでこんなにおいしい料理を作れるのだろう。
「料理作れるんですね。」
ふと思ったことを言った。
『娯楽として、たまに作ってますよ。』
嘘なのか、本当なのか。
優しいのか、優しくないのか。
まだ私には、分からなかった。