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Ep.8 『お話』
前回から結構期間が開いてしまいました
すみません
肌を焼くような痛みで目が覚める。何が起きたかわかっていない寝起きの俺の頭に重い衝撃が伝わる。
「っ、」
「ようやくお目覚めかァ?寝坊助がよォ」
どうやら仰向けに寝転ばされているらしい。低いドスが効いた声がした方に目を動かせば、紫色のサングラスをかけた中華風の青年が、ドラム缶の上に座っていた。床の汚さを見るにどっかの倉庫。さっきの痛みは、横にいるチンピラたちが煙草を押し付けた挙句、俺の頭を蹴り上げたものだろう。おかげさまで思考が纏まらない。
「宵宮のもんにしては警戒が薄いじゃねェか。門の番が二人やられてるッてのに外に出てくるとはよォ?」
「・・・」
「先にこっちが寄こした『お手紙』もお得意のセキュリティで弾かれちまうしよォ。まァ、自ら来てくれたから良しとするかァ」
そう言って、彼はゆるりと立ち上がる。ゆっくりと歩く度に、数々の装飾品がしゃらりと音を立て、下駄がカラコロと軽快なリズムを打つ。
そして俺の頭の隣にしゃがんで、髪の毛をひっつかんだ。
「てめェ、とりま顔上げろやァ、お話をする姿勢じャあねェぜ」
そんなドスの効いた顔で凄まなくても。こえぇよ。
確かに話をする姿勢ではない。よっこらせ、と上体を起こすと、先程の蹴りのせいなのか、はたまたこいつがまだ掴んでいる髪のせいなのか、頭の中が揺れた。
「こッち来い」
そのままの状態で立たされて、ドラム缶の上に座らされた。机替わりの錆びたコンテナの向こう側に、彼も座る。
「さァ、『お話』をはじめようじャあねェか」
「・・・その前に、自己紹介でもしろよ」
「あァ、そうだッた」
口元をにやつかせ、サングラスの隙間から鋭い眼差しを向ける。その姿はまるで猛禽類のようで、背筋がぞわりと波打った。
「南国地方の街、遠海。その街を牛耳るのが我ら『|龍楼《りゅうろう》』。そこの二代目筆頭がこの自分、|桐谷海斗《きりやかいと》。よろしュう」
「・・・|暁潮《あかつきうしお》」
「知ッてんよ」
アルカイックスマイルがよく似合う。こうして話す機会を設けてくれている辺り、明確な敵意があるわけではなさそうだ。
「で、どういったご用件でうちの構成員を騙した?」
「騙したなんて人聞きがわりィぜ。ちョッとお願いしただけさァ」
・・・俺をあまりよく思っていない奴らだった、ってことか。
「お前さん、随分嫌われてるようでなァ」
「仕方ない、そういう役目だ」
俺の雇用主と身近な幹部衆がまともだったらそれでいい。生憎、そういう環境には慣れてるもんでな。
ため息をついて、コンテナに肘を付ける。腕で頭を支えると、ぐらぐらしていた視界が静止した。
「そっちこそ、人質を取ったにしては扱いが荒いんじゃないか。拘束もしないとか、不用心にもほどがあるだろ」
「いいんだよ、てめェらとの取引は建前さァ。自分への正式な依頼主は暁だからよォ」
「・・・」
不確定な『人質』という言葉に迷うこともなく肯定。そして暁の存在を開示。・・・そういうことか。
「『新しいフェーズに移行した』ッてよォ。自分はその仲介役さァ。くれぐれも変な事すんじャねェぞォ、潮クン?」
・・・。
「要件は」
「今日は自己紹介とフェイク入れさァ。宵宮の方には、自分とは関係ねェチンピラの犯行にすり替えたカメラの映像を届けた。気付くのはてめェの『監視対象』ぐれェだろォ?なら大丈夫さァ」
「そ」
全くその自信はどこから来るんだか。どうせ、俺と影の関係を《《あいつ》》から聞かされただけだろうけど。・・・離れには、『暁』が特注した盗聴器と監視カメラが設置されているから。
「いつになったら帰れるわけ?」
「もう少しで宵宮の機動部隊が来るだろォ?そこで一芝居打ちャァ終わりだ。ほォら、」
桐谷海斗がきったない倉庫の入口に目を向けると、聞きなれたタイヤの音とランプがシャッターの隙間から漏れ出た。そして数秒後、ガラガラと大きくて不快な音を上げて車の光が視界を埋め尽くす。
「パフォーマンスには十分だなァ」
ケヒッ、と隣で奇抜サングラスが笑うと同時に、車から降りてきた人物に目を見張った。
「・・・影」
「もう、明日は学校あるのに」
海斗の入力コストがでかすぎる。いちいちカタカナ小文字入れるのめんどくさい。