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6.休日と襲撃
「ねえねえ、聖女様がいるよ」
「本当ね、だけど、聖女様が狙われてしまうかもしれないから言ってはダメよ」
「どうして?」
「いろんな聖女様が狙われているのは知っている?」
「うん!」
「だから……」
この町の人はみんな親切だ。
多分、治癒してあげた人たち、もしくは話を聞いた人たちは、私を見つけたら手を振ってくれる。
そしてそれを危険だからとやめてくれる母親のなんと多いことか。
この国は、好きになることができそうだ。
「みんな親切ね」
「そりゃあ聖女様ですから。しかもちゃんと働いてくれているというおまけつき」
「他の聖女は働かないの?」
「働いたら狙われる確率が高まるので働いてくれないのですよ」
「そうなのね」
そう説明された気もする。悲しい現実だ。
「だったら私が活躍しないと」
「その通りです。期待しています」
「おすすめの店はある?」
エリーゼに聞いてみる。
「もともと孤児院にいましたからね、あまり詳しくはありません」
「ベノン、あなたのおすすめの店を教えて?」
「そうですね……ラーギッシュ商会の店なんてどうでしょうか」
「ではそこにしましょう」
私たちはベノンに先導されて歩く。
「到着しました」
「……」
とても混んでいた。
列がずっと続いているのだ。
「少々お待ちください」
そう言ってベノンは店の方に向かった。
「あっ……」
帰ってきた。
意外と早かったけど、何をしていたのだろう?
「何をしていたの?」
「一つのテーブルを開けてもらえることになりました」
「……どうやって?」
ベノン、もしかして護衛以外の仕事も有能なのか?
「もちろん交渉して、ですよ。娘さんが現在病気らしいので、それを治す代わりと言いますか……ユミ様には休みの日にまで仕事を思い出させてしまって申し訳ないのですが……。嫌ならお断りしますが、どういたしますか?」
「そうね……」
困っている人がいるのなら、助けてあげたい、
それは人間として当たり前だろう。
だけど、そのためとはいえ自分のために聖女の力を使うのは、気が引ける……
いや、せっかくのチャンスだ。この世界でぐらい少しは自分の持っているものを使ってもいいかもしれない。
「便乗したい」
「本当ですか!?」
「はい」
「ありがとございます!」
食事は、美味しかった。
昔のおいしいやつと同じくらい。
この世界は、文明は低そうだから、これくらいだったらかなりおいしい部類に入るのだろう。
「娘さんの治癒をすればいいの?」
「そうです」
ベノンが店長……商会長さんを呼んできた。
「この度は承っていただき誠にありがとうございます。娘はただいま病気にかかっているのですが、悪化したらと思うとどうも仕事に集中できなくて。いやー、今回はベノンに助けられましたなぁ」
悪い人ではなさそうな印象を受けた。
「娘さんのところまで案内していただけますか?」
「もちろんです」
娘さんの病気は、大したことが無さそうな風邪だった。
愛されているんだろうなぁ。
そんなことを思う。
「光ーー汝の敵を排せ」
この魔法にも、ちゃんと白い光がうまれてくれた。
「はい、これで治りました」
「ありがとうござます……! 本当になんとお礼を言っていいのか……」
「気にしないでください、おかげで私は並ばずに店に入ることができたのですから」
「もう、お父さん、これくらいで心配しすぎだよぅ」
「そうか?」
「うん!」
「じゃあお父さんは仕事を頑張ってくるな」
「うん、頑張ってね」
「では出ましょうか」
「はい」
「……」
エリーゼからは返事が来たが、ベノンからは返事が来ない。
「どうしたの、ベノン?」
「さっきから見られています」
「商会長さんと会っていたからではないの?」
「いえ、害そうという感じのものでして……」
「分かりました。場所はどこだったらいいですか?」
自然と声が小さくなる
「人通りが多い所で」
「では広場に移動しましょう」
「ありがとうございいます」
それはもう少しで広場だという時だった。
私たちが人通りの多い所に向かおうとしているのを感じ取ったのか、襲われた。
全身黒ずくめの男が8名。
対して護衛は6名。
少し、不利な戦いになりそうだ。
そう思ったのもつかの間だった。
形勢は逆転していた。
こちらが勝ちに向かっていた。
私には、何がどうなっているのかが分からない。
いや、分かってはいる。ある程度は予想していた。
だけど、そうとは言えども、数秒のうちに全員1人ずつ倒すとは思ってもなかった。
彼らが私の護衛として配属されたのが私にとって救いだった。
強いのに、組織では理不尽な目にあわされ、失敗するような課題を与えさせられ、みんなからも顧みられない、だけど、力は確かにある。
そんな人たちが、私にあてがわれたのだ。
結果は、彼らの圧勝。こちらには一人のけが人もいない。
「助かったわ。ありがとう」
「こちらこそお守りできて良かったです」
そして、この会話をしながら思った。
この世界の聖女がいいとは言えない組織……面倒くさいし、悪の組織とでもするとして、……悪の組織がいくら聖女を脅そうとしても、護衛の力が強かったらそれで終わりじゃない?
なんで、連れ去られるなんてことになるのだろうか?
「ねえ、昔の聖女のことを知ってそうな人に心当たりはない?」
「そうですね、ベアンクリス伯爵が知っているのではないでしょうか」
「分かった、今度会いたい」
「明後日なら時間があります」
「では明後日、向かいましょう」