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【第六話】~静寂の前奏~
「ねえねえ、お兄ちゃんこれからどうするの?」
ツクヨミがイルに問う。
「まずはあの人のやらの目撃情報を集める。」
「お〜なんかそれっぽくなってきたな〜」
「ね!」
カイとヴェルナが顔を合わせる。
「でもどうやってするの。このことを他の奴らに言う訳にもいかないてしょ。」
ヴェルナが問いかける。
「とりあえず、観測者に情報を持ってないか聞く。」
ヴェルナが驚いた顔をして言う。
「いやいやいや、何言ってんの無理でしょ。だってイルの観測者って…」
ヴェルナの声が濁る。
「大丈夫だ。あいつは俺に好きにしていいって言ったんだ。」
「それは…偉い人が言ったことを伝えただけじゃないのか?」
カイがそう言うとツクヨミが頷く。
「あいつが毎回上の言ったこと言うはずないだろ。」
そのときのイルは堂々とした顔をしていた。
「そ、そんなもんなのか…?」
カイが驚いた顔をして言う。
「イルが異常なだけだよ。」
よしよしとヴェルナはカイの頭を撫でる。
「まあ、今は見てないようだから後になるがな。」
するとノアが口を開ける。
「……2人は観測者についても知っていたんだな。」
「ええぇ〜!そうなの?!すごぉ〜い!」
ヴェルナが顔をキラキラさせる。
「ま、まあね〜…」
カイは横を向きあははは…動揺しながらそう言う。
「そ、そ、それよりお兄ちゃん何で上向いてるの?」
カイが必死に話題を変える。
「……いる。」
ノアがいつもの変わらない表情で言う。
「あ〜来た?観測者。」
ヴェルナが異様の笑いをした。
すると、部屋の天井が光った。
「カイ、今天井光らなかった?」
ツクヨミが天井を指差し言った。
「そうか?見えないけど…」
カイが目を細めて言う。
横向くとイルが何かを小さな声で呟いていた。
「…今何言ったんだ?」
カイがイルに問いかける。
「…あぁ、ちょっとな。」
そのときイルの視界に一行の文字が映った。
――侵入者は東区画。
イルが一瞬だけ目を細める。
「……イル?」
ヴェルナが声を出す。
「……今、来てましたね。」
「え…?」
カイが何のことか分からない様子で戸惑う。
「…ま、まだいるね。」
ツクヨミが少し天井を見ながら怯えた様子で言う。
「えっ…分かるの?」
ヴェルナがツクヨミの発言に驚く。
「うん。ずっと見てる…」
「……気にするな。」
イルが静かに言う。
そのときの目は笑っていなかった。
すると、イルの視界にもう一行文が追加される。
――観測対象:月読。
イルの目が僅かに揺れた。
このとき皆は異を唱えた。
ノアは何かに気づき、ヴェルナはそれを楽しみ、イルは密かに織り込む。
カイは何が起きているのかわからない状態だった。
だがツクヨミは諦めた目をしていた。
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『バン!』
大きな音と共に扉は開いた。
「たっ、大変です!西区域にて侵入者が!」
扉から慌てて飛び出していたのは最近イルの部隊に配属した新人だった。
「それってもしかして…!」
カイとツクヨミが飛び出し、目を合わせる。
「こ…子供……⁉︎どうしてこんなところに…もっ、もしかして誘拐してきたんですか⁉︎」
新人が2人を指差しそう言う。
「それより!下っ端みたいな人!それほんとなのか⁉︎西区域のどこなんだ⁉︎」
カイが新人の服を掴み必死に聞く。
「ちょっ、急に何なんだよ!」
新人が困惑した表情になる。
「…行くか?」
イルが2人の後ろから声をかける。
「たっ隊長!それは…」
「問題ない。ついて来るだけだ。」
冷たい目でイルが言う。
「私は反対〜ついて来るだけとはいえ、邪魔なのは変わらないじゃん。」
そこにヴェルナが声を上げた。
「そうですよ隊長!もし何があれば…」
それに新人が、口を加える。
「ちゃ、ちゃんと邪魔しないようにするから頼む!俺たちも連れて行かしてくれ!」
カイが頭を下げ、そう言った。
「カイ、ツクヨミ。接触は明日だ。それまでに各自準備をしておけ。」
2人の顔がその一言で明るくなった。
一方。ノアにそのときのイルは何かが欠けている様に感じたのであった。
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「隊長…ほんとに良かったんですか…?部屋まで用意させて…ヴェルナさんもあの2人気に入ってるみたいでしたし…」
「それに関しては大丈夫だ。あいつの性格を知っているだろ。」
そう言って、イルは椅子に座り込む。
「って言うか。何で自分だけ部屋に?ノアさんも出させるなんて…」
新人がおどおどしながら言う。
「お前のせいで面倒なことになったんだ。それなりのことはしてもらう。」
イルは目を鋭くさせた。
「あぁ…やっぱりバレてましたぁ〜?それにしても面白くなかったですかぁ?あの子供の反応。あんなに騒いじゃって…馬鹿だなぁ〜」
男は本性を出すように笑い出す。
「それで。これからお前はどうするんだ。」
男が持って来た資料に目を通す。
「ん〜隊長はどうして欲しいです?」
男はイルを困らせるように言った。
「今はその下っ端のままでいろ。」
イルは万年筆を手に取る。
「は〜い。」
男が愛想良く返事をする。
「それとお前はここで待機しておけ。」
男の顔が固まる。
「えぇ〜それは聞いてないんだけどぉ。俺も行きたいぃ〜」
男は子供のように暴れる。
「……。」
イルは男に見向きもしないでペンを進める。
「隊長のけちぃ〜もう僕帰るからねぇ〜」
そう言うと扉の方に足を運んだ。
「《ミカゲ》。」
イルが名前を呼ぶと、男に折り畳まれた紙を差し出した。
「えぇ〜なんですぅ。隊長が名前で呼んでくれるなんてぇ。珍しぃ〜」
ミカゲは足を止め、それを取りに行く。
「…隊長これって。」
ミカゲの表情が引き締まる。
「内容は後で読めるだろ。早く動け。必要なことは書いてある。」
イルは何も言わず、作業に戻る。
「は〜い……」
ミカゲは少し戸惑いながら言葉を発する。
その静けさの中でミカゲは紙を握りしめた。
イルの目にはほんの少し、公園で無邪気に遊ぶ子供のように見えた。
「それじゃぁ。隊長〜。また明日…会いましょうね。」
ミカゲはそう言って、部屋を出た。
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部屋を出るとあたりは静まり返っていた。
「……やるかぁ〜」
深く息をし言う。
足音を最小限抑えながら、指示の通り徒歩で東区域に向かう。
いくつもの監視カメラや警備を避け、角を曲がるたび、周囲の目を光らせる。
小さな胸の中で恐怖と期待に心が躍る。
「侵入者……か…。」
ミカゲの瞳が引き締まる。
まだ出会ったことない敵…者だが、任務は任務。躊躇は許されない。
東区域の入り口に差し掛かるとミカゲは紙に書かれた指示をもう一度確認する。
「待機…状況次第で対応……。」
それを読むと自然と体が軽くなった。失敗すれば決してその責任は軽くない。
だが自分に与えられた役割を果たせる喜びがミカゲにはあった。
「……任せてください。隊長。」
小さな声で呟くとミカゲは影に身を潜める。
その瞬間から侵入者との接触に向けての彼の行動が始まった。
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影に潜むミカゲの視線は、ゆっくりと伸びる侵入者の影に向けられていた。
心臓が激しく脈打つ。
ミカゲは紙に書かれた指示通り、待機を始める。準備は完璧なものだった。
そのとき、影がわずかに動く。
侵入者は角を曲がり、灯の届かない路地にその影がくっきりと姿を現す。
「ここまでか……。」
ミカゲは影を潜め、体を低くする。
紙を握る力を強める。
二つの影が揺れる。
紙に書かれた文字以上に、今、この状況を把握することに頭が働いた。
影と影が重なり合う。
その瞬間、ミカゲには世界が一瞬止まったように静まった。
呼吸が、動きが、わずかな光と互いに混ざり合う。
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『ブルルッブルルッ』
その夜、イル宛に観測者から連絡が来た。
――観測対象、反応確認。