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#1 情報の海
情報の海、という言葉がある。文字通り、インターネットは情報で溢れかえっているという意味だ。
そんなインターネットで、争い事が起こらないと思う?思うわけがない、紛れもなく争い事が起こる。些細なアンチから、警察沙汰になる誹謗中傷。
そんなことは担当外だ。彼女らが行うのは、もっと根本的な問題だ。インターネット上で起こったバグやウイルスを適切に対応、排除して、普段通り、いつもどおりの生活を送るように仕事をこなす。
そんなつもりなのに、なぜか彼女ら…いや、《《彼女》》はもっと別なことに首を突っ込んでしまう。
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「ネット〜、早くお菓子もってきて〜」
「私と貴方なら、貴方の方がお菓子から近いはずです。必要なエネルギーは私より貴方の方が」
「もういいよ、自分で持って来る」
本当、融通が頓珍漢なところで効かないんだから。
助手のネットにぶつくさ言う。
本名|井田彩音《いだあやね》、通称インター。イダが変化したんだろうけれど、詳しいことはわたしだって忘れた。たぶんネットは記憶するんだろうけれど。
わたしの職業はインターネットの管理人、まあ率直に情報管理人とでも言おうか。
「あれ?ねぇネット、ないじゃん」
「どういうことですか」
「戸棚にないの」
わたしたちが普段仕事する場所はここだ。
上の人が作ったページに適当なパスワードを打ち込み、そこから身体をパソコンへすべらせる。すると、こんなところに出る。
青白い光がどこからでも放っている。至るところに網があり、紐がある。ふわふわと浮くことができ、新しいパスワードやホームページが開発されると、アドレスがぽわんと出てくる。
基本何も置いてはいけないのだが、お菓子を入れる戸棚はふわふわと浮いている。その中にもうストックがなかった。
「しょうがないなぁ」
白い四角い光の中に、身体を滑り込ませる。すると、|現実《リアル》へとずどん!がしゃん!と尻もちをつく。
「ったぁ…」
数年前、わたしは右足を失った。いまは機械の義足のようなものを使っている。その点でいえば、わたしは純粋な人間ではないのかもしれない。太もものあたりは、人間と機械のグラデーション。一応痛めないよう、ジーパンはまくっている。
ちなみに、ネットはアンドロイドだ。それもちゃんとしたものではなく、わたしが勝手に開発した。人工知能を組み込み、オリジナリティを出そうと無駄に技術を費やした。その結果、わたしのDNAや遺伝子位が組み込まれたアンドロイド、ネットが完成した。
狸と兎のキャラクターが描かれたきのこの山に、ピンクと茶色のアポロチョコ。ブルボンの黄色いコンソメ味の小さいのと、赤いうすしお味のポテトチップス。アーモンドを包んだチョコレート。ピンクや黄色や緑や紫の小さなグミ。
再びパソコンへ身体を滑り込ませる。
「っとっ」
「インター、バグが発見されました。お菓子なんか漁っておらず、速やかに対応すべきです」
「ちょっと待ってよぉ。いま開けたんだよ」
「適当にクリップでとめておいてください。いまはお菓子よりもバグ対応のほうが大切です。そもそも」
「あーあーわかったよっ!」
そう言って、わたしはグミの包装にクリップをとじた。