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ビタァ・ストレェト・ティタイム
キャラメルカヌレ クルミの香ばしさと、ざくざくとした食感がアクセント
ティラミス ほろ苦い珈琲に隠された、こってりとしたチーズを味わって
マシュマロ 丁寧に作られた、後味の濃厚な白色のお菓子
チョコレイトクッキー 濃厚なチョコレイトを、クッキー生地に閉じ込めました
マドレエヌ レモンではない、苦味と甘さのある柑橘の香りが、口に入れた瞬間に広がります
マカロン ころりとした形とクリイムに挟まれた、甘いジャムは如何?
Ⅰ キャラメルカヌレ
「……なに、コレ」
「何って、カヌレだよ」
医務室だからか、白衣姿の森さんに何食わぬ顔で言われる。
僕、太宰治は目の前にコトリ、と置かれた円筒形のお菓子を見た。
ふわりと香るのは香ばしい──キャラメルだろうか。
摘み上げて、すん、と鼻をひくつかせる。
毒の香りはしない。残念だ。
ハア、と僕は溜息を吐く。
森さんは僕に自殺をさせる気が当分無いのだろう。
今日もまた自殺を止められ、治療を受ける羽目になっていた。
「で? お菓子がどうしたって訳? 毒は無さそうだし」
「広津さんから貰ってね。此の前少し遠出して貰っていたから」
エリスちゃんにどうぞ、って渡されてね。
と続けた森さん。
「けれどエリスちゃんは数個食べてお腹一杯なのだよぉ」
「へー」
心底興味が無い。
此の人は油断できない不思議な人だとは思っていたけれど、幼女趣味だとは。
実はついこの間まで知らなかった。
正直引く。
「私みたいなおじさんは数個食べるので一杯でね。太宰くんもどうだい?」
美味しいよ、と付け加えると、自身のデスクの方に向かっていった。
僕は大して食に興味が無い。
と言うか、味がしなくて食えた物ではない。
抑も、自殺志願者が、生ある者の三大欲求を満たしてどうするのだ、という話だ。
もう一度、大きな溜息を吐きかけた所で、扉がガラリと音を立てて開かれる。
「失礼します、首領。姐さんが診てもらえと──」
現れたのは、ちびっ子重力遣い──中原中也だった。
「わぁ、中也じゃないか。安定のちびっ子振りだね」
「ハァ!? 何だと青鯖!」
僕が煽ったことにより、簡単に怒りを露わにする中也。
いつものような口論になるかと思ったが、そうはならなかった。
「こら、二人とも。……中也くん、怪我かい? 見せてご覧」
中也は森さんの言葉なら簡単に聞く。
其の姿はまるで犬だ。
(犬は嫌いなのだけれど)
「あ、の、すみません」
「私は医者だからね。此れも仕事の内さ」
首領直々に手当を受けることに萎縮しているのか感謝と謝罪の混じった言葉を溢す中也。
そういうところも犬っぽいのだ。
尻尾を振る様子に面白くなさを感じながら愛読書を開く。
数頁読み終わった所で、中也の治療は終わった様だった。
帰ろうとした彼を、森さんが呼び止める。
「貰い物のお菓子が其処にあるんだ。カヌレ、と言ってね。一つ如何だい?」
そう言われて、彼は初めてテーブルに目を向けた。
裏社会にしては珍しい、洗練された洋を纏う菓子に興味が湧いたのだろう。
「宜しいのであれば」
断りを入れると、手袋を取って一つ摘む。
口に運ぶと、分かりやすく口元が綻んだ。
「美味しいです。胡桃ですか」
「そうだよ。口に合ったなら良かった」
柔らかい雰囲気で言葉を交わす彼らを尻目に見ながら、摘み上げていた一つを口へ運ぶ。
カリッとした外とは裏腹に、もっちりとした濃厚な中身。其の中身に刻んだ胡桃が入っているらしく、食感に飽きがこない。
(美味しい、ってこういうものなのか)
僕は一人そう思った。
彼の目元が、僅かに緩んでいた事は彼の師しか知らない事だった。
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Ⅱ ティラミス
ざあざあ、と大袈裟な迄の音をたて乍ら雨が降っている。
僕は、其れをぼんやりと眺めていた。
携帯が震える。
|電子手紙《メール》だ。
準備が整ったらしい。
彼を納骨する場所は、せめてもの贖罪も兼ねて海の見える場所にした。
丁度、墓の前に座った時に、美しい青色が見える様な。
(織田作……)
其の彼のことが頭に浮かんだ。
右目の瞼に、前髪が触れる。
新鮮な感覚だった。
けれど、其の新鮮な風は、吹くたびに寒さを運んでくる。
森さんが、恨めしい。
安吾に、もう笑いかけられない。
何よりも、自分が──一番、許せない。
ふと、昔のことが思い浮かんだ。
ずうっと昔だけれど、エリス嬢が気に入らなかった洋菓子を渡されて。
でも自分だって甘いものが好きでは無いから、中也に横流ししたんだっけ。
美味しそうに食べるのだから、何だか悔しくなって。
自分も食べてみたら案外食べることができて。
ついつい予定よりも多く食べてしまったものだから、軽く口論した気がする。
(中也……)
こんな時、軽く喧嘩でもすれば苦しさが紛れるのに。
彼は今、遠くにへ出張に行っている。
確か今日の午後に帰ってくるはずだった。
(間が悪い)
けれど、こうも思った。
でも、そうして仕舞えば決心が揺らぐかもしれない、と。
ならば、居なくて正解だったのかも知れない。
嗚呼、でもむしゃくしゃする。
そうだ、彼の車に爆弾を仕掛けよう。
居て欲しいのに、居なかった。
聞いて欲しいのに、居なかった。
居なかった其方が悪い。
《《私》》は電子手紙に返信を打つと、執務室を出た。
(あの時食べた、ティラミスが食べたいなぁ)
なんて、想い乍ら。
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Ⅲ マシュマロ
彼奴が、居なくなった。
出張から帰ってきた午後、首領から聞かされた言葉に俺は言葉を失った。
執務室には、もう誰も居ない。
もう、何も。
序でに車まで爆破されていた。
きっと彼奴だろう。
(あの野郎)
其の行動に、是迄で一番と言って良い程の怒りが湧いた。
全く、新車だったというのに。
けれども、其の行動に込められた意味が痛いほど伝わってきた。
出張に行く前と、帰ってきた後では、拠点内の空気が違っていた。
其の違いは、五大幹部が一人が出奔した、其のことによるものだけでは無かった。
諜報員は、実は此方への間諜だった。
最下級構成員が、敵対組織と相対し、相打ちになった。
嗚呼、と思った。
其の二者の名は、彼奴から、太宰から聞いた覚えのある名前だった。
だから、心から憤ることが出来なかった。
爆破した理由は、俺への憤りであると、分かったから。
声にならなかった、嘆きであると、分かったから。
俺への、祝福を求める挨拶だと、分かったから。
それと同時に、分かってしまったから。
己の心を。
彼奴は裏切り者である筈なのに、裏切ったことに、安堵を感じてしまった。
|マフィア《ここ》になし崩し的にいる理由が無くなったのなら。
彼奴が、薄っぺらい笑いでは無い笑いを、浮かべることが出来るのなら。
良かった。
そう思ってしまったのだ。
嫌だ、嫌だ。
全て綺麗さっぱり忘れてしまいたい。
こんな己の気持ちなんて、知らずにいた方が余程良かった。
知らずにいた頃の方が、もっと素直に、裏切り者を排することが出来たというのに。
今日は首領に直帰の許しを貰った。
車が無い為に、仕方が無く借りた社用車の中で溜息を吐く。
窓硝子を隔てて色褪せた空を見上げた。
宵闇へ向かっていく空に、幾つかの雲が浮かんでいる。
昔、これをマシュマロの様だと、無邪気に言った奴が居た。
嗚呼、矢張り忘れる事は出来ていない。
今日はせめてもの餞別で、葡萄酒を開けよう。
彼奴の、悲しい『いってきます』に、『いってらっしゃい』を返そう。
祝福を込めて、どうか。
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Ⅳ チョコレイトクッキー
『任せなよ、相棒』
全く、如何して──私はあんな言葉を言ってしまったのだろう。
私はもう、彼の相棒では無いというのに。
私は、はあと溜息を吐いた。
彼と四年ぶりに会ったのは、つい此の間だった。
──あの時は、変わらないと言ったけれど。
変わっていた。
髪は伸び、五大幹部という肩書きが増え、信頼という背負うものが大きくなった。
私も、変わっていた。
砂色の外套を纏い、右目と左目で世界を見、光と親愛の満ちた地に足をつけた。
私も、彼も、変わっていた。
なのに如何して、君はあんなことを言うのだろう。
『手前を信用して汚濁を使ったんだ』
『ちゃんと拠点まで送り届けろ、よ』
もう私は、君を拠点まで送り届ける事は出来ない。
汚濁のダメージで眠りこける君に、悪戯をすることも、手を握ることも私の仕事では無い。
酔い潰れた君を迎えに行くことも、疲労に気づいて遠回しに休ませるのも、私はもう出来ない。
だのに、そんなことを言われたら。
(未練が生まれて仕舞うじゃあないか)
何故、私が返事をしてしまったのか。
そんな理由分かりきっている。
嬉しかったのだ。
未だ君が、私のことを相棒と呼んでくれたことが。
私のことを、忘れてなどいなかったことが。
何よりも。
どんなことよりも。
胸を高鳴らせたのだ。
「太宰」
ふと、隣の人物の声によって私は現実に引き戻された。
「何でしょう、乱歩さん」
そうだ、今は|白鯨《モビーディック》への潜入作戦を考えている所だっけ。
違うことを考えてしまっていた。
(駄目だなぁ)
私は手にした書類に流し目をくれながら乱歩さんの方を向いた。
むぐっ。
突然口に押し込まれたモノの感触に私は目を見張った。
噛むと、ほろほろとした中に、とろりとした甘さが含まれているのがわかる。
チョコレイトクッキーだ。
「お前、最近にかけて疲れてるだろ」
僕に言わせてもらうと、其の状態で作戦計画をしても非効率的なだけだ、と続ける。
全てを見透かしているような其の人を見ながら、クッキーを咀嚼する。
『手前、作戦参謀なら糖分取れよ。頭働いてねえ奴の作戦なんざ御免だ』
そう言って同じように菓子を差し出した彼の姿が浮かんだ。
私は、矢張り。
つん、としていて、何処か素直な君が愛しいのだろう。
出来る事なら。ずっと隣で、見ていたいのだろう。
言う気は更々ないけれど。
──だって、きっと。言っても困らせてしまうだけだから。
「有り難うございます」
其の感謝は、誰に向けたものだったのか。
誰一人として、知る由もない。
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Ⅴ マドレエヌ
「「あ」」
真逆、こんなところで会うとは。誰が想像しただろう。
否、想像できた筈なのに、しなかったと言うべきか。
ついこの間、ムルソーやら空港やらが一段落ついてヨコハマに帰ってきたばかりだと言うのに。
けれど。
ふらりと入ったバーに密かに想う人が居た、など、有り得るだろうか。
嗚呼、そうとも。
確かに自分は、此奴──太宰に想いを寄せている。
言う事は無いが。
一度言ってしまえば、元とはいえ、相棒関係には必ずひびが入る。
抑も、嫌いな奴から好意を向けられて嬉しい者がいるだろうか。
否、居るわけがない。
そう言う話だ。
其れに、自分は此れを言う事はしないと、四年前に心に決めたのだから。
祝福として、餞別として、開けた葡萄酒と共に。
「チッ……はあ」
俺は舌打ちをすると、其奴の一つ飛ばした席に腰を下ろした。
本当なら葡萄酒が呑みたかったが、今呑んではあの時を思い出してしまいそうで止める。
代わりにウイスキーを頼むと、ことりと小皿が置かれた。
「?」
「マドレエヌです。程よい塩気と甘みが摘みに良いですよ」
小さな貝型の焼き菓子だ。
摘んで口に入れると、良くあるマドレエヌよりも遥かに芳醇な香りがする。
檸檬のような爽やかな香りが無いところを見ると、他の柑橘を使っているらしい。
案外美味しく、口が綻んだのが分かった。
其の時、にゅっと別の腕が伸びてくる。
「なあに、コレ? ……あ、良くあるのと違う」
包帯だらけの此の腕の持ち主は、一つ跳びの席だった筈なのだが。
どうやら態々移動してきたらしい。
「取んな。帰れ」
「えぇ、酷くないかい」
「知るか」
一人酒じゃ詰まらないから話しかけていると言うのに、とかなんとか言っているが、知ったことではない。
今、共に呑んだらあらぬことを口走りそうで恐ろしい。
いつのまにか置かれていたウイスキーのグラスを取って傾ける。
喉を落ちるひんやりとした感覚と共に、芳醇な香りが駆け抜けた。
「わ、此れ良い奴じゃない。流石高給取り」
グラスを置くと横からグラスが掠め取られる。
すん、と香りを嗅いだだけで分かったらしい。
興味を失くしたのか、元の場所にグラスが直される。
と言うか、距離が近くないだろうか。
人と触れることを恐れる此奴が珍しい。
──違うか。昔の此奴が、か。
光の元で暮らし、暗殺や性暴力といった害を、極端に恐れずとも良くなった此奴は。
触れることを厭わなくなったのかも知れない。
自分の知らない面を見たようでざわざわとした気分になる。
そんな思いを流すように、只管グラスを傾け続けていた。
「、 」
「代わりを御所望ですか?」
「……否、いい」
気づけば琥珀色は全て空になっていた。
隣で未だ気配が感じられるところを見ると、黙っているだけで其処に居るらしかった。
(帰るか)
こんなところでは気持ちよく飲めやしない。
財布から札を取り出してカウンターに置くと、立ち上がる。
ドアを開けると、入った時と同じようにドアベルが鳴った。
自分は、入った時と同じように、とは行かなかったが。
「あ、一寸」
後ろから声がしたが気にしない。
元より、自分は其れを気にする立場ではもうなくなったのだから──
「中也、待ってって言っているでしょう」
路地裏の方に足を踏み入れたところで、背後から声が聞こえた。
何故。
其の言葉が頭をめぐる。
自分に此奴を気にかける理由が無いように、此奴にも自分を気にする理由はもう無い筈なのに。
「何故って、気になったから」
疑問の言葉は口から漏れていたらしい。
「……気になるも何も、無いだろ」
疑問が口をついたように、其の怒りも、口をついて出た。
くるりと後ろを振り返る。
「もう関係も切れた“元相棒”の、何が気になるんだ」
其れは、此れ迄に微かに溜まっていた怒りの全てを、代弁した言葉だった。
Q奪還の時、何故相棒として振る舞った?
骸砦の時、何故自分が目覚めるまで待っていてくれた?
ムルソーの時、何故自分を信じてくれた?
「何故、もう何も無い筈の相手に、こうも絡む?」
もう何も無いなら、関わらないでくれ。
関わるたびに、昔しか知らない自分に吐き気がする。
其れでも想いを寄せる自分に嫌気が差す。
嗚呼、惨めだ。
「……何も無いって、如何いう事」
俯いて見えない前から静かな怒気を感じる。
「私は、君と関係が無いというの」
「当たり前だろ!?」
声が掠れる。
其れは、先程のアルコールからか、感情の昂りからか。
分からなかった。
「手前は裏切り者だ。ポートマフィアを抜けた離反者。俺は其のマフィア内での相棒。もう何の関係も無ェ」
自分で発した言葉は、自分をナイフで刺すような痛みを伴った。
一つ一つ、関係を否定するたびに、自分の浅ましさが突きつけられるようで。
「確かに、そうだね。其の公的な繋がりは、もう何も無い」
嗚呼、そうだろうとも。ならさっさと──
「けれど、“あった”事は消えていかない。消えてはくれない」
ひんやりとした指が頬に触れる。
まるで、痺れて動くことができないかのようだ。振り払うことが出来ない。
「先程、如何して絡むのか、と言ったね」
「吐き気がするからだよ。君の行動が、表情と一致しないのが」
其処で一度言葉を切る。
自分は、太宰から目を離せないでいた。
指と同じように冷たい目。
否、触れれば火傷をするようなものが揺らめいているようにも見える。
「知っての通り、私は君が嫌いだ。殺したいくらいにね。けれど君がそんな行動をするのは、君が嫌いという感情以上に腹が立つ」
「……意味が分からねえ」
自分が溢した言葉に、太宰は唇を歪めた。
「分からない、じゃなくて、分かりたくないんじゃ無いの」
ぐっと息が詰まる。
図星だった。けれども、こうも思う。
何だよ、其れ。
ただの逃げにしか聞こえない。自分は怒りを覚え、噛み付く様に言葉を返した。
「なら! 如何云う意味だよ」
「私だって知る訳無い!」
けれど、と続けながら其奴は目線を彷徨わせた。
其れが迷子の子供の様に映る。
其の姿に、いつのまにか怒りは静まっていた。
「君に触れるのは、昔から怖く無い」
ぽつりと、雫が溢れる様に発された言葉に、自分は目を広げさせた。
嬉しいのか、困惑なのか。
自分の感情が分からない。
「其れ、は」
「……勝手に受け取ってよ」
横を向いた事で、微かに朱に染まった耳朶が見えた。
真逆、とは思うも、長年の勘で、其れが偽りでは無さそうなのが分かる。
嗚呼、と心が震えるのを感じた。
(言葉にすりゃあ良いじゃねえか)
危害を加える者ではないと、信じていたと。
触れることに拒否感を覚えない程度には、良いと思っていると。
口にすることを羞恥で躊躇うような事を、想っていると。
口にするのが、怖いと感じていると。
そう思うけれども、言いたいことが確かに伝わったことも事実で。
其奴の頬にも手を伸ばす。
何方からともなく、まるで吸い寄せられるように。
噛み付くように重ねられた其れは、檸檬よりも遥かに甘くて、苦い味がした。
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Ⅵ マカロン
土台となる生地にクリームを絞って、ジャムを真ん中に。
上からもう一つの生地を重ねる。
そうして何個も何個も作っていっていると、横から声がかかった。
「何作ってるの?」
「マカロン」
出来上がったばかりのものを一つ摘み上げる太宰に言葉を返す。
「珍しいね、お菓子作りなんて」
「此の前の|情人節《バレンタイン》で何個か貰ったからな」
「ふうん」
そう答えると、少し面白く無さそうに太宰が相槌を打った。
其の理由は大体分かるが、敢えて触れないでおこうか。
「……お菓子には、意味があるらしいよ」
ぽつりと溢した言葉に耳を傾ける。
──と言っても、手は動かしたままだが。
「グミは『嫌い』、ドーナツは『好き』、金平糖は『永遠の愛』」
「其れで?」
したり顔をしながら、続きを催促した自分に、太宰も何かを察したらしい。
「嗚呼、もう。知ってるんでしょ?」
半ば投げやりにそう云う太宰。
頭を掻く其の仕草が何処か子供らしく、笑いをこぼす。
「さァて、何のことだか」
笑いながらいった其の言葉に、太宰はむうっと頬を膨らませた。
「人を嫉妬させて楽しいのかい?」
「楽しい」
「酷い!」
太宰も気づいたのだろう。
自分たちも、お互いに|情人節《バレンタイン》の際、菓子を渡したことに。
マカロンが、丁度二で割れる数であることに。
自分が、其の菓子の意味を知っていることに。
最後の一つを完成させ、絞り袋を置いた。
拗ねたままにしておくと後が面倒臭い。
むすっと唇を尖らしたままの恋人に、自分も其れを重ねる。
もう慣れた感触だ。
唇にやってきた感触に、暫く目を瞬かせていた太宰だが、直ぐに其の驚きは消えていった。
目を細めると、くっと腰に手を回して引き寄せられる。
其れは、いつかの時のものよりももっと甘く、深く。
そして、人を捕らえて止まないような中毒性を持っていた。
了
目次書いててお腹すいてきちゃった眠り姫です!
書いた時お腹すいてたんだよ。
あとオムニバスが書きたかった。
何個かn番煎じですが、気にせずに。
……キスしてばっかだな。
目次の意味は、バレンタインとかでよく言うお菓子の意味を取り入れて作りました。
キャラメルカヌレ…キャラメル:側にいると安心する カヌレ:無し
ティラミス…私を元気付けて
マシュマロ…早く忘れたい
チョコレイトクッキー…チョコレイト:好き(告白に対して、これを返す時) クッキー:友達
マドレエヌ…あなたと親密になりたい
マカロン…あなたは特別な人
(レモン…ファーストキスの味)
でした。
私はこう言うのばっかり集めたがるんですよね。
花言葉、石言葉、星言葉、カクテル言葉……
そういうのでタイトルをつけたがる。
今回太中だったから、芥敦とかもしたいなあ。
色んなカプのオムニバスも良いかも。
では、ここまで読んでくれたあなたに、心からのありがとうを!