公開中
5.病院へ訪問、そしてとある訪問
「今日は病院に行く予定です」
エリーゼが教えてくれた。
驚くことに、エリーゼが昨日やってきてくれたのだ。
「成人するまでいなくていいの?」と聞いたものの、「孤児院では稼げませんので」と返された。
さらに、「私には敬語を使わなくていいですよ」とのことだ。
エリーゼの立場からすると会おうかもしれないんだけど……
そう意識すると、これが意外と難しかった。
「分かってる」
「それにしても他の聖女様は何をしているのでしょうか? ユミ様がほとんどの仕事を賄っていそうですが」
「仕方ないでしょ」
「仕方なくなんてありません!」
そうなのかな? 私としてはいつものことなんだけど。
あ、けどそれはユウナに関してで、他の聖女には当てはまらないか。……どっちでもいいや。
そんなふうに二人で話していたら、
「今日の昼頃、ユウナ様がこちらに来られるそうです!」
ベノンが報告してきた。
ちなみに、ベノンにエリーゼとの会話を見られたせいで、「私にも敬語は使わないでください」と言われた。
もう慣れちゃったから、こちらも修正するのが大変だ。最近は、どっちも混ざった状態で接しちゃっている。
気を付けなくちゃな。
「昼って……」
「出かけていますね」
「だったら気にしないでください……あ……」
また敬語使っちゃった。
「……」
じいっと見られてしまっているが暫くの間見つめ返していると、諦めてくれたようだ。
もとの話題に戻った。
「本当に、ですか?」
「あまり会いたくないの」
「……分かりました」
そんなわけで、佐藤さんはほっといて出かけることにした。
ちなみに、今日も先生はこない。
これからも、結構少なく、ある程度の頻度と、困ったときに、呼ぶくらいになると思う。
◇◆◇
「ちょっと! なんで誰もいないの!? あたし、訪問を事前に伝えていたよね!?」
昼下がり、神殿の前に一人の少女と筋肉質な護衛のような人物が複数名、いた。
「そのつもりでしたが……。うまく伝達していなかったのかもしれませんね」
「誰に任せたの!?」
「カミラです」
「カミラ、あなたは解雇よ!」
「え? 理由をお聞きしても?」
「分からないの? 自分の胸にでも聞いてみなさい!」
「はぁ……」
カミラは、解雇された。
「まったく、余計な手間を掛けさせて……そうね、あいつらが帰ってくるまで待ちましょう」
「分かりました」
ここで、良識を咎めるものは、いなかった。
◇◆◇
「これはどんな病気ですか?」
「あー、そうねぇ。何だったかしら? 確かお腹の下の方の……なんて名前だったかしら? まあそこらへんにあるところが機能しにくくなっているらしいわ」
お腹の下の方……小腸とか?
機能を復活させるには……
「光——汝の助けとなれ」
白い光がちゃんと生まれてくれた。
2日前、3日前にして分かったけど、どうやら白い光がでると成功らしい。
今のところそこまでひどい症例の人が来ていないからだろうけど、失敗知らずだ。
……こんなんあったら医者の仕事がなくなるわ。
もっと遠慮したほうがいいのかな?
こんな事まで思ってしまった。
実際はちゃんと治癒してもらう人と治癒してもらわない人を症状によって分けられているはずだ。
それと、孤児院の場合は寄付を代金としているけど、こっちだったらちゃんともらう。
そのうちの少しは医者にも行くらしいから、悪い話ではないのだと思う。多分。
「綺麗ねぇ。これは私は助かったのかしら?」
「そうですよ」
「ありがとうねえ、これで息子の顔をまだまだ見れるわ」
「それは良かったですね」
聞いただけの私も嬉しくなってしまった。
◇◆◇
夕方。
神殿に帰るとき、門の前に、佐藤さんがいた。
「やっと来た! 山名さん、来るのが遅いよ!」
……は?
「なんでいるの?」
「約束したじゃん! 今日の昼、遊びに行くって」
「約束はしていないよね、エリーゼ?」
「はい。一方的に訪問するという旨だけ伝えられました」
「だから約束したでしょ!?」
「あのー」
「何、エリーゼ?」
「あの方は、もしかして一方的なものも約束に入れているのでしょうか?」
「その通り」
「…………。行きましょうか?」
「そうですね、あなた達も神殿に入りましょう?」
「「「了解です」」」
「ちょっと!? あたしはあんたをわざわざ待ってやったのに、なんで無視するわけ? 身の程わきまえたら?」
「身の程をわきまえるなら、私とあなたは同じ立場ですね」
「なわけないじゃん! 王室と神殿よ!? あたしの方が高い!」
この世界くらい、名前の呪縛から解放されたら?
皆漢字は知らないんだから。
そう思うも、言えない。
そして、地位に関してだけど……
どうやら、私の地位は結構高くなるらしい。
まだ決まっていないけど、私がちゃんと仕事をしているから、予定より高くなる、とエリーゼに教えてもらった。
エリーゼは今勤務して二日目なのだけど……
なんでそんなことを知っているのか、本当にわからない。
まあ、もしかしたら私の地位は佐藤さんより高くなるかもしれない、ということだ。
「裏口を使いましょう」
「そうですね」
道を戻ることにした。
「やっぱり逃げた。ね、予想通りだったでしょ?」
「そうですね、さすがユウナ様です」
「このままここにいたらあいつは神殿に帰れないのかなぁ?」
「試してみるのも面白そうですが、危険では?」
「何? あたしに口答えするの?」
「いえ、滅相もない。私どもが精一杯守り抜きますのでご安心を」
「ありがとう、みんな大好き!」
どうやら佐藤さんはもう護衛を自分の取り巻きに変えてしまったようだ。
救いようがない。
まだ、ちゃんとした待遇をするならましだと思っていたけど。
佐藤さんは変わらないようだ。
「ただいま……」
やっと神殿に戻れた。
「今日もお疲れ様です。明日は仕事はありませんので」
「スケジュール管理、ありがとう。助かってる」
「こちらこそこんないい職場に引き取っていただきありがとうございます」
「この場所を気に入ってくれてうれしいよ」
「ユミ様のおかげです」
明日もまた自由時間。有効に使わないと。
部屋には、本が置いてあった。
この前休んだときと同じ。今日が休みでないところは違うけど。
何か一冊は読むことにした。
今日は、歴史の本を読むことにした。
流石に長いのは疲れるから短いやつで。