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第7話:夜会の裏工作と、ライルの隠密デビュー
翌朝、学園の屋上。そこは、身体強化魔法で一足飛びに登れるソーレと、浮遊薬を隠し持つイゾルデだけの「秘密の司令部」だ。
二人の前には、緊張で直立不動のライルがいた。
「ライル。お前に初任務だ」
ソーレが、オレンジの瞳を細めて不敵に笑う。
「教頭が主催する『若手教師の親睦夜会』。その会場となる貸切ホールに、こいつを仕込んできてほしい」
差し出されたのは、小指の先ほどの小さな魔導具だった。
「……これ、なんですか?」
「魔法薬学特製、『|真実を暴く耳《集音魔導具》』よ」
イゾルデが冷徹な口調で補足する。
「ゼノス教頭が、私たちの“生存確認”の証拠とやらをどこに隠しているか、あらかじめ聞き出す必要があるわ。……できるかしら?」
ライルはゴクリと唾を飲み込んだ。相手は学園のNo.2。バレれば退学どころか、実家の商売も潰されかねない。
「……っ、やります。先生たちには、金貨以上の恩がありますから!」
少年の決意に、ソーレがその大きな手でライルの肩を叩いた。
「いい返事だ。……もし危なくなったら、すぐにこの笛を吹け。|身体強化《オレ》が、一秒で助けに行ってやる」
作戦開始。
ライルが放課後のホールへ忍び込むのを見届け、二人は「準備」のために自宅へ戻った。
「……ねえ、ソーレ。あの子、大丈夫かしら。もしゼノスの氷結魔法で捕まったら……」
玄関の鍵をかけた瞬間、イゾルデの声が不安に揺れる。
「大丈夫だ。ライルには俺が『気配遮断』のコツを教え込んである。……それより、イゾルデ。お前の方の準備はどうだ?」
「……ええ。夜会用のドレスに、最新の『瞬間凍結粉末』を仕込んだわ。……でも、ソーレ」
イゾルデが、着替えようとするソーレの背中に、ぽす、と額を預けた。
「……ソーレが、そうれ……『大丈夫だ』って、もっと自信満々に言ってくれないと……。私、ライル君を危険に晒しているんじゃないかって、胸が苦しいの……」
氷の令嬢の、脆い一面。
ソーレは振り返り、彼女の細い腰を引き寄せて、その額に優しくキスを落とした。
「イゾルデ。俺たち二人で救ってきた街の奴らを思い出せ。……俺たちは、あいつらに『生きる場所』を作ってやってるんだ。ライルもその一人だ。あいつは、守られるだけじゃなくて、一緒に戦いたいんだよ」
「……そう、ね。……私たちの『生存確認』は、あの子にとっても希望なのよね……」
イゾルデが、ソーレの胸に顔を埋める。
「……ソーレが、そうれ……にいてくれるから、私はまた冷酷な仮面を被れるわ」
「ああ。夜会では、最高に美しい『氷の令嬢』を見せてくれ。……終わったら、たっぷり『解かして』やるからな」
二人は、覚悟を決めた。
愛を守るための、非合法な夜会が幕を開ける。
――数時間後。
華やかなドレスと礼服に身を包んだ二人は、ゼノス教頭が待ち構えるホールへと足を踏み入れた。
そこには、ライルが仕掛けた魔導具を通じて届く、「最悪の密談」が響いていた。
🔚