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海猫
八月のある夜さりのこと。
君が初めて私に、電話してくれたあの日だ。
君は泣いていた。
しゃくって、鼻水を啜って、
電話越しでも泣いていることがわかった。
私は黙って君が落ち着くのを待っていた。
ゆっくり呼吸を整えている音が受話器越しに伝わってきた。
君が私の耳元で吐息をかけているように感じた。
落ち着きを取り戻した君は、
可愛がっていた猫が死んでしまったと私に伝えた。
私は海が奇麗な街に住んでいる。
風呂場が広く部屋が狭い部屋に住んでいる。
夜の海岸をよく散歩していた。
人に会わずに外の空気を吸うにはいい時間だ。
潮風が気持ち良い初夏、
波打ち際に捨てられていた猫を拾った。
抱き上げると潮の匂いが仄かに鼻をくすぐった。
私の住んでいる家の大家は
動物嫌いで飼うことはできなかった。
それを君に話したら、
君がこの猫の飼い主になってくれた。
私に名付けの親になってくれと、
頼んできた時は驚いたよ。
潮の匂いがするからソルトと安直な名前を付けた。
安直なこの名前を君は気に入ってくれた。
心底嬉しそうに笑っていた。
罪悪感、喪失感、色々な感情が
混ざって溶けたのだろう。
君は何度も謝った。
泣いて、嗚咽して、しゃくって。
嬉しかった。
ただ、嬉しかった。
猫のことなんて、どうでもいい。
君の声が聞けて嬉しかったんだ。
それだけなんだ。
私は、君が好きなんだ。