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第5話:朝の光と、消えない熱
翌朝。眩しい日差しで目を覚ました私は、驚くほど体が軽く、清々しい気分だった。
けれど、隣の布団に座る直哉様の姿を見て、私は首を傾げた。
「……おはようございます、直哉様。……あの、お顔の色が優れませんが、もしや体調でも?」
直哉様は、深い隈を作った目で私をじろりと睨みつけた。その手には、飲み干したはずの酒瓶が虚しく握られている。
「……自分、ようそんな顔して起きてこれたな。……俺が昨日、どれだけ地獄を見た思とんねん」
「地獄、ですか? ……あら、私、昨夜の記憶が途中からなくて。何か、粗相をしてしまいましたか?」
私が申し訳なさそうに小首を傾げると、直哉様は「はぁー」と深い溜息をつき、乱暴に髪を掻き揚げた。そして、獲物を定めるような鋭い視線で私を見つめ、低い声で言い放つ。
「粗相どころやないわ。お前……昨日やばかったぞ、色気が」
「……へっ!? い、色気……!?」
真っ赤になって絶句する私に、直哉様はここぞとばかりににじり寄る。
「『直哉、もっと近くに来て』やて? 普段お淑やかなフリしといて、酒入るとあんなに大胆になるとは思わんかったわ。……俺の理性が、何回死にかけたと思とんねん」
「そ、そんな破廉恥なことを私が……!? 嘘です、嘘に決まっています!」
耐えきれず「認識阻害」で姿を消そうとした私の手首を、直哉様が電光石火の速さで掴んだ。
「逃げんな。……お前、俺の名前、呼び捨てで連呼しとったからな。……なおや、なおや、って。……今もっぺん呼んでみぃや」
「……っ!!」
耳元で掠れた声で囁かれ、私の頭は真っ白になった。
その時、絶妙なタイミングで襖が開き、直毘人様が酒瓶を片手に現れた。
「ガハハ! 直哉、お前昨夜は一晩中『紬、離れろ』『紬、服を着ろ』って格闘しとったな。……いやぁ、若いもんは精が出るのう!」
「親父!! 黙れ言うとるやろ!!」
「あらあら、紬様。……昨夜は本当に、大変でしたのね(ふふっ)」
後ろに控えていた使用人たちまでが、口元を隠してクスクスと笑っている。
「……あ、穴があったら入りたいです……!」
私は真っ赤になったまま、今度こそ術式を全開にして、直哉様の腕の中から「物理的に」消え去った。
けれど、背後からは「逃がさへん言うとるやろ、このパパバカ候補が!」という(まだ見ぬ未来を予見したような)直哉様の怒鳴り声と、それを楽しそうに笑う禪院家の人々の声が、いつまでも響いていた。
(……でも、直哉様。……私のこと、少しは『女』として見てくださったのかしら)
姿を消したまま、私は一人、熱くなった頬を押さえた。
🔚